残響の足りない部屋

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君はもう恋ができない

この詩に関しては8月21日分の更新をご覧ください。

○君はもう恋ができない

「君はもう一生恋ができない」
ある夏の午後、私は占い師からそう言われた。
「火蜥蜴(サラマンダー)のように人を思うことはもうない。
春の息吹のように人を思うことはもうないんだよ、君は」
時計の針は残酷に一時半を刻んでいた。
コンクリートの壁の向こうは焼けるように暑いのだろうが、
ここは冷房で冷えきっている。
占い師の言葉を聞いて、私の心は、気球のように体から浮遊していった。
足が地についていないような感じがする。
そうなのか、私はもう一生恋をすることはできないのか。

最後に人を愛したのはいつだっただろうか。
そのときは秋だった。
干天の慈雨のような愛を与えていたと記憶している。
少なくともそのときは、私は人を愛せると思っていた。
しかしそれから、波が引いていくかのように、
何かが私の中から消えていく感じがした。
私は笑っている。
いつもと変わらず笑っている。
しかしもう確定的に私の中からは失われてしまったのだ。
あとは撤退戦でしかない。
そう、私は予感してはいたのだ。

だが、神よ、もう二度と、というのはあんまりではないか?
占い師は言う。
「君の半分はあの虚空の中に消えていってしまった。
あとの残りは余生として使うしかない」
何でこんなことになってしまったのだろう?
「君は走りすぎた。
気づいたときには疲れきっていた。
君は人を残酷に扱いすぎた。
そして自分をも残酷に扱ってきた。
君は年を重ねた。
時計の針は絶対にもとには戻らない。
君は油断していた。
あのとき失われていくものから手を離すべきではなかったのだ。
君は過信していた。
愛は永久にわき出る泉ではない」
そして占い師は言う。
「君の恋は失われた。もう二度と戻らない」