残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

初恋タイムカプセルプレイ日記(5)

雛祭桃子についての小論


しとろんソフト原画家、雛祭桃子氏。これくらい絵の出来不出来が激しい絵師さんも珍しい。
いい時はほんといい。twitterの背景の天使のイラストなんてまさにそれ。が、今作の原画のようなときは、ほんとお粗末。てか失礼ですが手抜いただろ、と思わせる出来。ぶっちゃけ今作の立ち絵、まともに見れる絵が公式ページに載ってる分くらいしかなかったという恐るべき事実。イベント絵も……いや、全くなかったわけではないのです。悪い絵の方が多いというだけで!(フォローになってません) というか今作、塗りも悪いです。何か妙に蛍光色強くて……これなら発表当時の塗りの方がよかったです。今となってはそれを見ることは出来ませんが。
ボロクソに言ってますね。それでも、この絵師さんが良くも悪くもB級の絵を描くということを十二分に認識した上で、何だかんだで「してして」から今に至るまでファンをしてきたのです。
それは何故か。理由のないところに「好き」はありません……多分。じゃあ何故好きか、と問われると、何か「軽い」タッチであろうか、と思います。言葉を変えれば「へなちょこ感が逆に魅力になっている」……ああ、世間には便利な言葉がありますね。「ヘタウマ」。正直氏にこういう評語を与えるのは忍びないのですが、これ以上的確な言葉もないなぁ、と思うのです。氏のB級感を考えると。
手元に画集『雛祭桃子アートワークス La Peche!』があります。これを総括して見てみると……いやその前にこの本の不出来についてちょっと。何で「してして」時代のが収録されてないんじゃ! それから、発表同時期の「ルナルティア」「リローデッド~」が収録されてるのに『初恋タイムカプセル』関連の絵は一枚もないとはどういうことですか! やっぱり「そういう位置づけ」なんですか?
……まあそれはともかく。しかしこうしてキャリアごとにまとめて見てみると、やはり出来不出来の差が余りに激しい絵師さんであることがはっきりします。構図の取り方もそれほど幅が広いわけではなく。「結局正面絵しか描けてねーやん」と言われても弁護が出来ません。筆の早さも、この乱れぶりを考えると……粗製乱造と言われてもしょうがないです。
一般的には「妹スマイル」の時期が一番よかった、と言われていますが、大同小異ではないかと思います。どの作品だってよかったものはありますし、悪かったものは――そりゃあ悪かったです。
ただこの人が描く時、何の因果か配列か、タッチが、塗りが、構図が、「奇跡的にハマる」ときがあるのです。また、この絵師さんは結構思い切った表情の付け方をします。それが上の条件と絶妙にマッチして、独特の、いい感じに気が抜けた、魅力的な絵を現出させるのです。
具体的に言えばしてしての榎穂の登校時の立ち絵。みここの華蓮の「ふっふーん♪」あるいは「もーどーにでもなーれ、おらー!」な感じのときの立ち絵。おい、お前の好きなキャラだからだろ、と言われたらそれまでかもしれませんが、しかしこれが結構味があるのですよマジで。
結局しとろんでの雛祭氏の絵に惹かれてきたのも、作品そのものが持つB級テイストが、上手いこと氏の画風とマッチしたからなんですね。……ここまで書いてきて、そのように結論づけました。前の記事で書いた「B級感」。それは、「ヘタウマ」な絵と親和性が高い。
ただそれは、企画が、シナリオが、テキストが、味があってはじめて「ああ、この絵もいいかも」と思わせるものです。今回の初恋タイムカプセルのように、お粗末な出来のものでは、そのように弁護もしたくなくなる、ってなものです。
……それだけに、雛祭氏と海原氏のコラボレーション「しとろんソフト」が終わるのだ、と思うと、一抹の寂しさがあります。


杏愛・優菜ルート終了


完璧にクソかと思っていました。けれど、ほんのちょっとは「海原成分」が感じられないこともない個所があり、そこにクスリともしました。Hが丸聞こえだったこととか。ただやっぱり、思い切りが足りない。もっと無茶苦茶にひっかきまわすだろう! みたいな煮え切らなさを感じます。
副題の「幼馴染とキャッキャうふふ」ですが、全然いちゃラブしてないじゃないか、という出来。過去の思い出を思い出す→告白→H→H→H→H→H、みたいな構成ですこのゲーム。どう楽しめと。
仮に抜きゲー目的で買った人がいたとしても……う~ん、満足させるには全然不十分、と思わせる描写。何よりしとろんの特色であるHのイロモノ性が全然足りない。いつもだったら笑わせにかかるんですよHで。このメーカーは。でも今作では全然それがない。
結局、そんな作りですから、ヒロインに愛着を持つことも出来ず……これが海原・鯉川氏が書いてたらもっと愛着が持てただろうに……。
ちくしょう、というのが総括です。こんなんだったらいっそ企画をおじゃんにしてブランド解散してしまった方がよかった。
今作はどの程度楽しめたか? そうですね……「ゲームをプレイしながら、他のいくつかのゲームに浮気して(しかもその内ひとつは全クリまでして)苦行に耐え今作クリアし、『ああ、みここは面白かったなぁ』としとろんの美点を振り返ることが出来た程度」には面白かったですよ?(反語)
そのように、今回のプレイ日記で当方に得られることがあったとすれば、そのような海原氏、雛祭氏、しとろんゲーの再考、といったところでしょうか。ああ、あと、このゲームについてこんだけ語っているところは多分当ブログだけでしょう(笑)。そのことはちょっとした誇りですかね(反語)。


初恋タイムカプセルプレイ日記・おしまい


本日のBGM:(BGMじゃないんですけど、改めてみここの華蓮の風音氏の演技はよかったなぁ、と思いだす昨今。あの思い切ったはっちゃけっぷりは爽快でした。べつに「ほめらじ」リスナーでも何でもないんですが)