残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

文体は簡単にマネられる

「他人に一貫性をウザいくらい求めながら、自分自身の一貫性は放り投げたい」系書評家・残響です。しねばいいのに。

今回のおはなしは、「文体のコピー」です。

 

●序 文体ってなに?

 

多少本を読んできたひとが、たとえば小説なんか書こうとするとき(と思いたったとき)、決まり文句のようにして「どういう文体で書いたら……」とかいうのですよ。

 

ぶっちゃけた話、そこだけでそのひとの文章的レベルがわかるくらい。

 

この手のひとたちは

「私も小説書いてみたい……な」

と思いつつ、

「でもあんな文体書けないし……ぐすん」

みたいに、わりにウジウジ悩んでいます。

 

かと思いきや。

それなりに文章を書いてきた中級者たちも、

存外文体については悩んでいるご様子。

「俺の文体はこれでいいのか--!?」

的な。はい厨二おーつ。

 

えと、10年以上前なんですけど、オレサマ若かりし高校生の文芸部員だったころ、

なんか県内の文芸部集まれ!的な、スクールイベントあったのです。ほぼ強制参加な。

で、プロ作家を招いて、意見交換学習会、みたいなことやったり。

そこで、上記の中級者お悩みが、とあるまじめそうな学生から。

さて、プロ作家先生、どのように答えたか。

 

 

「高校生の段階でそんなくだらないこと、気にするな。気にしてちゃダメだ。書いて書いて書きまくれ、それしか道はない!」

 

 

おー、公開処刑、と当時の自分、思いました。

が、「やっぱそれしかないよな……」と、自分も思っていた答えだったので、納得。

 

んで、10年たった今どう思ってるか、ちゅうと、

「マジそれしかないよな……」

と、出汁がよく出まくってる深い味わいの鍋物のスープを飲むかのように、じんわーりと、かみしめているところです。

 

●破 ぶっちゃけ文体のコピーは楽

 

これオレに限った話なんですが、

「だれそれの書き方っぽく書く」のって、すげえオレにとっては楽なんです。

 

これはイコールで、

「だれそれの話し方を再現する」

っていうことです。

文芸批評用語でいうところの「ヴォイス」。

文体……地の文にせよ、セリフにせよ、結局はヴォイス。

 

で、コピー。

はっきりいって、それでメシ食えたりするくらい、オレサマ、得意。

オレ、プロ作家ではないです。ごく平凡な事務員です。この記事読んでもおわかりになられるとおり、超絶美麗な文章力ももってません。個性もない。

 

でも、上司の代筆、というのをよくします。

メールだの企画書だの。

直の上司でなくとも、上司の仕事仲間であるとか。そういうひとの代筆も。

んで、オレの代筆で上司によくいわれるのが、

「おまえよく俺が思ってること、こんだけ俺っぽく書けるな」

っていうのです。

 

これは自慢でねーです。

なぜなら、上司と、上司の代筆役であること知ってるひと以外からは、わたし誉められないからです。

手柄や名声は全部上司のもんなんです。

それが「自分の文章」と主張しちゃいけない。

わたしが得られるのは、給料だけ。名誉いっさいなし。

ま、それが仕事なんですけど。

それが代筆業なんです。

 

じゃ、どうすればそんなに、

「上司の話法を文章に落とし込めるくらいコピー技術をみがけるか」

っていうと、

こたえはかんたん。

 

「ひとの話をよく聞けばいい」

 

 

●急 単語じゃねえんだ、呼吸なんだ

 

「序」で書いたように、初心者&悩める中級者は、文体……をこしらえようとして、先行する作家のマネをするんだが、どうにも、真に迫ってこない。

 

コピーにもいろいろあって、

 

「まるでその作家と変わらねえ、むしろ最近寡作になってる当の作家の代わりに書いちゃえよ」を最上のものとするならば、

 

「んー、これ、あの作家っぽいよね」が、下の中から、中の中くらい

 

さらに、

 

「お、西尾維新的言葉使い……だけど、おまえ、ちょっとこの内容でこの文体使うかよ」

 

まで、けっこー幅があります。

 

 

なお、勘のいいひとならば、この順番が、「コピーのうまさ」の順列であると同時に、

「オリジナリティの発露」の逆順版であることに気づかれたかと。

 

コピーの精度、の順番だと

 

「変わらねえのひと」>「っぽいひと」>「おまえな……のひと」

 

ですが、ことオリジナリティということでいうと、

 

「おまえな……のひと」>「っぽいひと」>「変わらねえのひと」

 

です。

 

 

さて、オレの文体コピー方法はいたって簡単。

 

1、ある本を十分間くらい、かなり力いれて読む、Or 20~30分くらい、あるひととサシで会ってじっと話を聞く。

 

2、5分くらいぼけっと考える(10分はいらない)

 

3、おもむろになんか書き始める。(その著者/話者の専門カテゴリに近いほうが書きやすい)

 

 

はい、これだけでコピー完了です。

 

ふざけんなおまえそんな簡単に文体の獲得ができていいもんか、といわれるの承知で書いてます。

 

えと、これだけじゃメソッドというか、ライフハック記事(いやな言葉だ……)にならないと思うので、箇条書きにしてみます。

想定として、

 

「誰か(上司とか)」の発言緑を、

「第三者(わりと顔が見える、プレゼン必至的の意識高い系取引先とか。役所はダメよ)に宛てた文章」として、

これ読んでるあなたが代筆を依頼された場合、

としてみるか。

 

あ、ちなみにそういう代筆文章が書ける黒髪美少女の優等生クール義妹(ほむほむ的な)がおまえさんにいる場合は、そいつに任せろというか、おまえ人生の勝ち組じゃねえか的な。そんな特殊例は知らん。

 

 

【1、のときのポイント】

 

・ハラんなかで相手の発言内容に反感もっててもいいから、とにかく相手がしゃべくり倒すのを聞きまくる

 

・そいつがよく口にするキーワードや、話の流れを象徴する言葉や、そいつのオブセッションじみた言葉を「3つまで」頭のなかでメモっとく。2つでもいいけど、その場合キーワードの二項対立でしか論を進めることができんから、ちょいキツい。でも4つ以上になると、ワードのキレと、論旨のディメンションがなんかアレなカオスじみてくるので、3つまでで抑えとく

 

・頭のいいひとは、4つでいいかもしんない。頭がすごくいいひとは、5ついけるか。10コいけるひとは、人間やめるか、宗教ひらけ。オレは3つが限界。

 

・でもその3つは、絶対忘れんな。忘れたら最後、コピーできねえ

 

・「その3つ」を、自分の中でもっと深めてみたい、と思ったら、ちょい相手にふってみる。ほぼ間違いなくそいつはその話題に食いつく。ほぼ食いつく……が、スルーされたら、絶対にそれ以上つっこむな。最大級の地雷だから。んで、文章に起こす際に、読み手が「スルーされたそれ(概念・ワード)」に気づかせないように最高に気を使え。そこで書き手がヘタな心抱いたら、書き手は死ぬ。

 

・それ以外では、とにかく相づち。しかし目を逸らすな。表面上だけでいい、話し手の味方になれ。

 

・一番大事なこと。内容を聞くことも大事だけど、話し方のテンポとか、声の高さ低さとか、張り上げ方とか、言葉を濁すタイミングだとか、そういう「言葉以外のことば」に気を使うこと。

 

【2、のポイント】

 

・この5分間は、なるべく人と話さない。その間一回でも話したらコピー精度が2割落ちる

 

・話し手がいったことを、頭の中で思いかえしまくる。言った言葉/文、そのまんまでOK

 

・まるで恋をするがごとく、頭んなかをそのひとの「語り」でいっぱいにする。

 

・ただし、「そのひと」ひとりにする。誰かほかのひとを考えたら、コピー精度4割落ちる

 

・独りでそのひとの口癖をつぶやいてみる。つぶやくといっても、twitterは使うな。

 

・とにかく独り。

 

・そこまでできたら、「その人が考えそうなことで、いままでそのひとが【言い忘れているっぽいこと】を、その人っぽく頭んなかで言ってみる」

 

・なりきれ。

 

・自我とかオリジナリティを忘れてロールプレイを楽しもう

 

・なにより、この5分間ロールプレイを楽しむこと。これコピー対象が嫌いな奴の場合だったらキツいんだけど、コピー対象が好きなひとの場合だったら、5分だろうが15分だろう28分だろうができる(1時間は飽きる)。まあ……少なくともオレの場合は、一応できた。ちなみに、コピー対象が嫌いなやつで5時間ロールプレイを楽しめるひと、おまえ人間やめるか宗教ひらけ

 

 

【3、のポイント】

 

・「俺の作品」という妄念をとりあえずドブに捨てようか

 

・これを実際に書くのは、はっきりいって、楽しくない

 

・でも、うまく書けて、それが誰かの依頼の文章だったら、とっても喜ばれる。すごい感謝される。一週間くらいは余裕で感謝される。

 

・つまりは奉仕

 

・重要なのは「特徴的な言葉(ワード)」をそのまんま出すことじゃない。ましてやワードを羅列するのはもってのほか。……まあ、まったくせずに「俺の作品」を書こうとするよりはマシなんだけど……

 

・えとね、単語使用は1、2割でいいんよ。マジで。

 

・それよりも、【1】でいった「話法の流れ方」、そして【2】でいった「流れ方のロールプレイ」。それに準じて(むしろ殉じて)、【1】でいった「3つのキーワード」を説明する論理展開で書いてけばOK。単語じゃなくて、雰囲気。雰囲気の流れ。空気。

 

・仮にそのひとがわかりにくい話し方をしてたとして、そのわかりにくい論理展開までマネする必要はない。必要に応じて、勝手に話の流れ作り替えちゃいましょう。こうなっても、よほど相手がバカみたいに堅物な輩でないかぎり、責められることはない。だって「説明先」には「話者=筆者(これ書いたことになってるヤツね)は物書き上手だ!」って、勝手に上方修正してくれるから。

 

・そうやってその話者が物書き上手として認定されちまったらどうするか? なんのことはない、おまいさんの割のいいバイトが増えたということだ。まあこれはこのコピーが苦じゃない場合だけど。ちなみにオレはこれを仕事にまでしちまった

 

 

【まとめ】

まとめると

 

「話をよく聞く」→「話者のことを考える」→「自分の作品というエゴを捨てて書く」

 

こんな感じ。最初からそう書けよ。

 

なお、これはホント基礎なので、実際のテクニック……

たとえば

 

・句読点を打つ回数を、1ワードあるいはセンテンスでどのくらいの頻度にするか

 

・代名詞や接続詞……「もの/物/」「こと/事」「とき/時」などの漢字の使い分け

 

みたいなことは、ここでは書きません。

 

んで、そういうことは、【序】で書いたプロ作家先生のように、「何度も何度も書け」で身につけることですし、オレがここで言ったことも、何回もやんなきゃできませんし。

 

ただこれは基礎。

この基礎が「んなことやってらんねえよ!!!」だったら、早めにやめといて、別の方法で文章関連のことをしといたほうが、得策だと思うよ。

 

あと、「俺はオリジナルでやる! やるったらやる!」のひとは、この記事参考になんねーな……

でも、老婆心でいうと、キャラのヴォイスを再現する……いや、「聞き取る」っていったほうがいいか。それするのって、ここで書いてるくらい、根気がいることだと思うんだけどどうよ?

 

 

ちなみに、【急】の文体は、最近ブログをまた閉鎖した、はてなのコンビニ店長氏のを軽くパクってみました(笑)

 

ガチパクりじゃないですよ。特徴的なワードをあんま入れてませんし。妹とか尿とか足とか。

「あんま似てねえよ」と言ってくださった方、ありがとうございます。それすなわち、わたしの文章にオリジナリティがあるというなによりの証左でございますよふっはっははははw

 

……あ、文字数セルフ縛り制限の2000字、めっちゃ越えた(この時点で代筆屋としての素質が疑われる)

 

 

●「文体コピーは簡単」おしまい