●空前のケルトブームが過ぎ
80~90sごろだったかしら。空前のケルトブーム……それまで「いなかっぺ音楽」だったケルトが、突如「本物の伝統音楽」として、ある意味クラシックよりも地位を得た時代。時期。
いや、本物の伝統音楽、というのは確かにその通りで、実際歴史だけでいったら、クラシックよりは格段にあるのです。1000年単位で。
ただそれも、現代における復興は、ある程度「ヒーリングミュージック」の領域で語られるものでした。もっとも、その領域じゃなきゃ、語れないというか。要するに「正統伝統音楽」というカタっくるしいカテゴリでは、訴求力がない。
まあ、それはどうでもよろしい。
この記事では、ケルトブームが過ぎ……てはいるものの、でも依然として「ケルトってなんぞや」みたいな感じが残ってるみたいなので、そういった疑問に、おおざっぱに応えてみようと思っています。
●ケルトフリーク・残響
この分野になると、愛ゆえに極めてうざったくなるのがわたし(残響)です。ケルトとはこういうものである、云々。これはケルトじゃない、ヒーリングな「っぽい」音楽だ、云々。純正ケルトの立場からいうと、云々。しねばいいのに。
あ、そうそう、そもそも「ケルト音楽」という言葉自体が、この手の音楽を愛好するひとからしたら「ちゃうねん」な呼び名だったりします。
※しばらくこのジャンルの呼び名についてのどうでもいい話が続きます
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「トラディショナル・ミュージック」略して「トラッド」。もしくは「フォーク」。この場合のフォークは、南こうせつとかの文脈じゃなくて「伝統的な田舎音楽」のことを指します。
ただまあ……じゃあ本場ヨーロッパのひとに「トラディショナル」でさくっと通じるかというと、それはそれでまた別問題。実際、わたしのイギリス人の伯父などに
「自分、英国のトラッドが好きで……」
と英語で言ったら
「へえ、昔のブリティッシュ・ロックが好きなんだ?」
って返されて、お互い「?」となったのを覚えてます。この場合の文脈では「ブリティッシュ・ルーラル(田舎)・フォーク」と呼ばなきゃ「ケルト」まで辿りつかない……。
つまり、この「トラディショナル・ミュージック(トラッド)」という呼び名も、かなりの部分業界用語であるので……ええと、なにがいいたいかというと、通りがいい名前をこの記事では使っていくので、いちおう「ケルト」で統一します。英国トラッドも、アイリッシュも、スカンジナビア系も、フィンランドも……あとケルト周辺国たる、スペインもフランスも。果ては東欧トラッドも、もう全部乱暴に「ケルト」で統一します。
それはほとんど、中国の胡弓音楽や、韓国のKポップを「Jポップ」と表するがごとき乱暴な言い方なんですが(マジで)、でもこの記事は一応ケルト初心者向けなので、一般的な「あの音楽」としての「ケルト」でくくります。
※どうでもいい、名前についてのお話おしまい
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ああ、ワールドミュージックってややこしい。
だいたいですね、こういう、ワールド系によくみられる「純正かくあるべし論者」は、少しヒートを押さえないと、いつまでたってもワールドミュージックは音楽ジャンルの辺境なんだから……。
で、ケルトのお話です。
みなさんは、ケルトという音楽で、ぱっと、なにを思い浮かびますでしょうか?
エンヤ? 葉加瀬太郎?
いいですね、そういう音楽がぱっと思い浮かんでくるセンスと音楽体験を大事にしてください。彼/彼女らは、ケルトの本質をがしっと掴んで、それをリファイン/ルネサンスしているミュージシャンです。
そういうひとが、「もっとこういう音楽(ケルト)」をきいてみたいなぁ……と思って、さあケルト聞こう、という、喜ばしい船出をすることになって
……さあ困った。なにから聞けばいいんだ。
「とりあえずチーフタンズ聞けや」
が、一介の音楽マニアとして、ごく自然な対応だと思いますし、とくに2chあたりでは(vipとか)そういう答えで終始するかもしれませんが、それはあまりに突き放し。
そこで、わたしはファイナルファンタジー(FF)の音楽――植松伸夫、から、話を進めたいと思います。
●ノビヨ師匠の本格ケルト
ああ、ノビヨ師匠!
日本が誇るメロディーメーカー、ファンタジーの権化! プログレ博士!
そして、日本屈指のケルトメロディーメイカーであります。
わたしら世代(80年代生まれ)は、ごく自然にゲーム音楽……とくにRPGのそれにはなじんでいますが、ノビヨ師匠は、まさにケルトの深い森に誘ってくれる、最良の教師……師匠なのです。
ではノビヨ師匠の素晴らしいチューン(曲)を聞きながら、ケルトとはなんぞや、みたいなことを語っていきますね。
ケルトには、おおざっぱに分けて、二つのスタイルがあります。
「速い曲(ダンスチューン)」
と
「遅い曲(バラッド)」です。
ロックにおける「疾走曲」と「バラード」のようなものです。テクノでいう「あげあげ」と「チルアウト」。
では、その「感じ」を掴んでいただきたいと思います。ようつべ万歳っ!
まずはダンスチューンから
)
Final Fantasy V - Harvest - YouTube
そしてバラッド
これよ! これぞケルトの醍醐味よ!
この手の音楽は、まず何よりも「音階」と「シンコペーション」が生みだす、上あがりなメロディーセンス。スイング感たっぷりに、しかし田舎っぽい、民謡チューンです。心なごむ的な。
ようするに泥臭いんですけど。
まずこの音階、ふつうにドレミを弾いてるんじゃないんです。すごく大雑把にいうのですが、ヨナ抜き……ド・レ・ミ・ソ・ラ、という音階を使っています。これはスコットランド音階とすら呼ばれ、スコットランド(イギリスの一地方)民謡はだいたいこれ、というふうに定義されています(もっともこれも旋律次第でチャイニーズになったり、東方にもなったりします。お手持ちの楽器で確かめてみてください)
しかしそれだけでは説明できない、この胸を締め付けるような哀愁。
これは、ケルトの奏法が、クラシックのそれとは一番違うところ……「倍音」をたっぷり響かせているからなんです。
倍音とは……正確にはぐぐって頂きたいのですが、「西欧風の譜面記述で書くには極めてムズい、グラデーションめいた音の響き」といったとこでしょうか。
ドレミを正確に「鳴らさない」とこがポイント。むしろドとレの間……ド♯とかド♭とかよりももっと微妙な音のグラデーション。そこをごく自然に出すことが「倍音」。
……と書くと「なんかムズそう」ですが、簡単な話で、クラシックの「いわゆるクラシック感」と違うとこを、先の音源で聞きとったらいいんです。「ひゅろん♪」とか「ふゅわん♪」と跳ね上がるとこなんか、ね。
まずそこに、大体の、ケルト初心者……いや、ケルトに興味を抱いてくれたかたは魅せられるのではないかと。
……しかし、次の段階でつまづくように思えます。それは「リズム」。
というか「拍のとりかた」。これは、クラシックやロック……西欧音楽のフォーマットから、かなりズレてるものだからです。
簡単に言えば「変拍子」。ケルトは、変拍子してナンボの世界です。フレーズごとに拍子が変わるなんて当たり前です。むしろ普通の8ビートなんかやったら、逆に「定型リズムすぎてミニマル風の新鮮さ!」みたいに受け取られるヘンな世界です。
……そう、定型リズムと、不定形リズム。これがキーです。
ポップスめいたかっちりしたタイトで決まったリズムこそが至高、とするひとは、かなりの確率でいうのですが、ワールドミュージックを最終的には「やっぱだめ……」になるひとです。まあそのひとはジャーマン系(クラウトロックとか)にいける可能性はあるのですが、ふつうにロックとかヒップホップとか聞くのに落ち着いたほうがいいかもしれません。人間、リズム感ばかりはどうしようもないので……
逆に。
変拍子こそが人間の「ごくふつう」の感覚だと、自然に思えるひとは、どんどんヤバいくらいワールド系にハマっていく傾向があります。
音色や音階は、かなりの範囲勉強とか好奇心でどうとでもなりますが、リズムの取り方は、「知らんもの」「合わないもの」は、勉強をかなり必要とする以上に、そもそも論的「向いてるか論」がものを言うからです。
これらは責めてるわけじゃなく。音楽にはさまざまな楽しみ方があるということで。
そして、「勉強しなさい! もっとほかの音楽もききなさい!」とも絶対にいいません。こういうワールド系のブログしといて!
じゃなくてですね、自分が求めてる音楽を、どんどん突き進んでいったらいいと思うんですよ。そうしたら、「そうでない音楽」も見つかることと思います。でもそれはクソなんじゃなくて、「ああ、オレが好きな音楽と同じくらい、あいつはこの音楽が好きなんだな」って、遠まわしですが、わかりあえますから。
音楽は、クラシック的ドレミや、8ビートだけがすべてではありません。ケルトのように。世界は広いのです。音楽は、いろいろありまくるのです。その情報量に「溺れる」必要なんてまったくなく、むしろ「ちょっと変わった音楽志向の自分でも、ずぶずぶにはまれる音楽がある可能性」がこの世には満ち満ちているのです! ようこそ!ワールド系の世界へ!
……ああ、だいぶ話がずれました。
で、この変拍子の楽しみかたですが、「拍をとれ!」と、啓蒙したくはありません。どうせダンスチューンでも、「ジグ」や「リール」といったように区別があり、それぞれでまた拍のとりかた違いますし。
ただ、変拍子だってことを覚えていただき、あとはケルトを自由に聞いていただければなーと。
あ、そうそう、ひとつケルトについて、勘違いしやすい点がありました。「バンドスタイルじゃない」ってこと!
ようするに、ヴァイオリンをエレキベースとドラムが支えている音楽、じゃ「ない」ってことです。クラシックにエレキベースとドラムが入ったらおかしいでしょう? それと同じくらい、「ヨーロッパ・ケルト」ではおかしいのです。基本的に、ヴァイオリン(フィドル)やアコーディオンや笛(イーリアンパイプ、バグパイプなど)と、低音楽器(チェロとかダブルベース)、あとは少々のバンジョーとか、打楽器(どんどこ鳴らすようなの)。そんなものです。ツーバスとか絶対入りません。
むしろこういうエレキベースやドラムセットが入って「わりかし定型リズム」を刻むようになると、それはアメリカ新大陸でのケルト文化「ブルーグラス」になります。それくらい違うのです。ブルーグラスはそれはそれで素敵な音楽ですけどね。わたしも好きですし。(ただ、ブルースの感覚がかなり入ってくる。ブルースわたし好きですけど)。
とにかく変拍子、です。クラシックやロック(ポップス)の理論、あまりやくにたちません。むしろ、ケルト自体が「理論」から離れて生活したがってるようにさえ思えます。ああ、田舎音楽!
でも、田舎である……洗練されてない、というのが、ケルトの魅力なのです。日本の田舎の「山賊鍋」なんか、オッフィースビルディングの洗練された場所でなんか喰ったってしかたないでしょう? そういうもんです。
ケルトにおいては、インストゥルメンタルも大事ですが、もちろん歌も大事です……が、ちょっと長く書きすぎたので、このへんで終わりにします。またの機会があれば。
では、最後にめくるめくケルトの世界に誘うために、ようつべからいろんなのを!
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Away We Go Again - The Chieftains (1977) - YouTube
The Chieftains - The Timpan Reel - YouTube
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Väsen - Rob's Polska - YouTube