残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

Ether「Coppelia」

http://www.ether-music.com/img/cp/cp_jak1.jpg

 

Ether

コッペリア公式ページ(試聴音源あり)

 

●ハーモニー/世界観

 

ある魔女の少女と、その屋敷にふと迷い込んだ青年の、「心の通い合い(の挫折)」を描いた、組曲(物語音楽)としての一枚。

現在、盤は廃盤で、DLsiteからDL版で買えますが、これはとにかく、盤でこそ欲しかったものです。見よこのジャケのゴシカル&救いようのなさ! 世界観を非常に表してますよこのデザインセンスは!だからこそ実物で欲しかった!

Coppelia [Ether] | DLsite Home - 全年齢向け 

↑DlsiteでのDL販売ページ

 

ストーリーは、密室的に、時系列をいくつかカットアップ手法を使いながら、ひとつの「悲しい物語」を描きだします。それは救いのない物語。流麗なストリングスと、怜悧なエレピをフィーチャーしたサウンドは、この世界観に通低する、(もはや過ぎ去った)優雅さと、ある種の絶望を描ききってやみません。

 

 

●リズム

打ち込みでありながら、それを感じさせないほど、実にイキがいい!

ロック・ワルツ・バラード、そしてオルゴールめいたアウトロ、どれも一級品のアレンジ、リズムとなっています。

それはそれぞれの曲に、断片的な世界観/物語の叙述としての役割を果たしています(先にのべたように)。

ひとつひとつの曲が、曲調として「それぞれ違う」にも関わらず、

「だからこそこの様々な物語エレメントが、組曲となって展開していく」という、上質の短編小説を読むかのような感覚を得ます。このリズム感覚(曲の個性の付け方)は、物語を展開していくにおいて、必須です。

ファストチューン、バラード……そう、各リズムは、曲の個性。それでいて、ひとつとしてダレることはない(ふつう、1、2曲はダレる曲があるものなんですが、コッペリアに関しては、これがひとつもない!)。

ひとつひとつの物語が――ある「独りを呪いながらも、独りに落ちていかざるをえない少女」の心持が、物語が、アルバムを通していって、胸を締め付けます。素晴らしいストーリーであります。

(公式ページトップの最下段にある、pdfファイル「Etherガイドブック」から、そのストーリーは小説じたてで知ることができます)

 

●メロディ

 

黄金! ここまでのメロはそうはない!

全てのメロにフックがあり、voのエモーションは非常に「あとに引けない」切実さを描いてやまないのです!

メロの特性として、少し音列が下降線を描いたあと、一気に飛翔するような、独特の「Ryoシグネチャー」である「Etherメロ」は、この3rdにおいて「ゴシック系」というスタイルを得て、完璧に確立しています。

 

というか……あまりに「コンセプトアルバム」としての完成度が高く、この密室芸としての盤は、ひとつの世界を現出させています。何回もいいますが。それを一番担っているのが、黄金のメロ。

ファストチューンのヤバイほどのメロディアス&激しさ。

バラードにおける、エモーショナルな盛り上げ。ひとつひとつの曲に、エモーションがひしひしと込められている。

 

 

それは救いのない物語

どこまでも閉鎖的なゴシック文学としての物語音楽(語りはないヨ)。闇と懐古のヴェールに包まれた「あらかじめ終わってしまった恋物語」。

それが――キャラたちの、痛いほどの心情が、激情のロックチューンと、切々としたバラードが歌う!

桜璃氏のvoは、その「叙述」を、硬質な、甘さのないvoでもって、どこまでもシリアスに。でも見逃すことはできない。

Ryo氏の圧倒的なメロセンスが、それをさらに見逃せなくする!

気がついたら、涙とともにヘドバンしている自分がいる!

 

 

もしあなたが、「ある上質な物語音楽」「ゴシック系音楽」を求めるなら、

迷わずこれをすすめます。

(ちょとしたサウンドの軽さ以外には)欠点のない、黒曜石のような、結実したコンセプトアルバム――!

 

 

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Etherの5th「UMBALANCE」についてのレビューはこちら

Ether「UMBALANCE」 - 残響の足りない部屋