PCゲームの主題歌を提供するユニットとして、歌手・Rita氏と、コンポーザー・ウチヤマ氏のふたりでミニマム的に活動しているユニット。わたし、大ファンです。Blueberry&Yogurt、通称ぶるよぐ。
ぶるよぐ過去記事:
Blueberry&Yogurt「meaning」twitter実況レビュー
Blueberry&Yogurt「museum piece」 - 残響の足りない部屋
このユニットは、過去にも書きましたが、アニソンの領域で語りきるよりも、90sJ-POPの最良の遺伝子を、現代的感覚で鳴らすユニット、と語ったほうがしっくりきます。その辺りのことは、過去記事で少し書きました。
このように言うのも失礼ですが、ぶるよぐを「いわゆるアニソン」として消費(この言い方嫌だな……)しているリスナーって、あんま少ないと思うのですよ。
アニソンの特性として、「媚び」とも称される、ある種の過剰性・大仰さがあると思うのですが、ぶるよぐには、それが見事にない。
今でこそアニソンを聞ける残響さんですが、もともとはアニソン嫌いで。ジャズとかオルタナとか聞きまくっていたひとですからね。
もちろんポップスも聞いていて、その中で、特にフェイバリットだったのが、マイ・リトル・ラバーでした。
で、わたしは、このぶるよぐというユニットは、マイラバに非常に親近性がある、と過去に主張しました(実際、ウチヤマ氏にわたしの記事補足された名誉があったのですが、そこで氏が「マイラバ好きなのバレた!」って仰ってました。イヨッシャ!)。
そして、この「moment」……とりわけ、マイラバの地味な盤として認識されている、2nd「PRESENTS」を、なんか連想してしまうのです。
●地味な盤
地味なのですよ、このmoment。
傑作の3rd「motion」……「ジュヴナイル」「Alea jacta est!」のような超絶キラーがあるわけでもない。サウンドプロダクツも、
「基本的にシンプルなバンドサウンド」+「さまざまな健やかな情景を感じさせる心地よさ」
で成り立ってるため、同輩(?)のアニソンに比べ、突き刺すようなイディオムはない(もってけセーラーふくみたいな)(あるいはave;newみたいな)
しかし……この盤、長らく再販が求められていたのです。公式ページから引用しますと、
[moment]Re:sale
2005年4月に発売しその2年後、レーベルの倒産により廃盤となってしまった
Blueberry&Yogurtの2nd project、【moment】をこのたび再販いたします。
今までお届けできなかった皆様へのお詫びと、待っていてくださった皆様へ再びお届けできることを心から感謝しています。
[moment]Re:sale(再販版)について
楽曲内容は2005年版「moment」とまったく同じです。
ブックレットは、初版と同じものを復刻いたしました。
この事実ひとつとっても、この盤、そしてぶるよぐの活動が、ファンから待望されていたということ。非常に「手に入らねえー!」な声、聞いた覚えがありますし……(もちろん、わたしが持ってるのは 「Re:sale」のほうです)
「ひたむきに、いい曲をつくる」が、ぶるよぐです。そして、この盤、散々地味だ地味だと言いましたが、それゆえに心を打つ名曲、「しあわせのみつけかた」が収録されてるのです。この曲、ぶるよぐ、そしてRita氏が歌った曲のなかでも、ファンはすげえ思い入れがあるという声を良くききます。
では、いつもの通りに、全曲レビューいってみましょう。なお、今回は前のぶるよぐレビューとは違って、twitter実況ではありません。
1.太陽
「ピンポンパン」なSEから入ります。でもそれは警報的なのではなく、盤のはじめ、「しあわせな物語」のはじめとしての、心地よい爽やかさ、穏やかさを感じさせるものです。なんともエバーグリーンじゃないですか……
木漏れ日や、吹き行く春風のような、おだやかな輝きを感じさせる曲です。まさに太陽。
「子猫のように笑う」のところで少々歌唱にブレがありますが、それがある種の「楽曲におけるエモーションの移動」として捉えられなくもないです(音楽用語でいうとこのドミナント)
ブリッジにおいて、「赦し」と「勇気」を感じさせます。そこからサビにぐわっといくのですが、これはまさにエバーグリーンな音! マイラバに少しも負けてない!
少しだけ押し殺すような歌い方から飛翔するという、独特の歌い方なメロなのですが、それがエモーション(泣き笑いのようなよろこび)を感じさせてやみませぬ。この曲のキモですね。
一曲のなかで、さまざまな歌い方を試しています。一本調子ではありません。それをパティ・スミスと比較してもいいのですが、あっちにある狂気やダークさはありません(それを聞きたかったら4thのdorchadasや5thのrosa morada聞こうや)。Rita氏は声優さんもされておられるのですが、その演技力と関連させてもいいですなぁ
オルガンも清涼感。リズムは一定で、それが全体の「さあ、勇気ひとつを持っていこう」感を、おしつけがましくなく伝えてきます。
詩もいいです。聞きやすい歌い方で、決して「癒し系」じゃない、チープ感のない、きちんと意味のある歌詞。
2.笑顔の通り道-カバーバージョン
ちょっと冷たいシンセと、アコギのストロークから入ります。そして軽めのバンドサウンド。これが実にさわやかさを出しています。アレンジメントが上品。
「太陽」と同じで、「少し低音から、若干無理やり気味に上昇する」voが目だちます。それは後年のRita氏の歌唱からしたら、この盤(時期)においては、技量の低さが見えなくもないです(ガチ下手とは全然違うのですが、あくまで比較して)。
が、ことこの盤に関すると、これはこれでいいのだ、といえます。
この曲は「一歩も嘘をつかない」という心情が溢れている曲です。思いの切実さを、誠実に歌う曲だから、極端なフェイク(偽物、という意味じゃなくて、声を裏返すような歌唱。音楽用語)でもって歌うより、真実味があるというものです。
最初に地味と書きましたが、これはメロというよりも、アレンジによるものでしょうか。そもそもメロは乱高下はしないものの、実に滋養があるものですから(まあ典型的アニソンに比して地味すぎる、と言われたら否定はできない。が、それが音楽のすべてではないだろう)
例えるなら、ピクシーズ(ソングライター:ブラック・フランシス)における初期のキャッチーさと、後期の渋みでもって聞かせるのとの違いのような。ビーチ・ボーイズ(ブライアン・ウィルソン)にも同じことは言えますね。どちらがいいというのでなく、どちらもいい。
(マア時系列、逆だけどサ)
歌唱のファルセット気味のところで危うさを感じさせるが、これはこれで、上記のように「真実味」を感じさせます。音楽は技量がすべてではないのです。
3.夏の音
軽快なリズムに、ピアノ。夏を非常に感じさせますねえ!
これまたアレンジが非常に地味なのだが、飽きることはない。
詩もいいです。夏の情景を、さまざまな言葉でもって歌いあげます。ひとつひとつの言葉(モチーフとは、わりに普通(突飛ではない)です。が、メロの「少しずつ、この夏は過ぎ去っていくかな?」な感じに乗せて(少なくとも、自分はそのように聞こえたのです)、夏の情景を歌います。
パッパラパーな明るい感じではなく、一抹の憂いと、落ち着いた感じ。バラードではなく、独特のミドルテンポ。非常にマイラバアトモスフィア。
4.まちあわせ
これまたアコギをフィーチャーして、シンプルなアレンジです。特に、ギターが歪み(ギュイーン! なディストーション)をかけず、クリーントーン(生音に近い音)を上限としているので、疾走感・爆裂感がそんなにないです。それでいいのです。
Rita氏は低音・ハスキーvoに非常に味があります。
ただこの時期(この盤)では、その歌唱にまだ安定感が薄い面もあります。何回か書きましたね。
しかし、音楽表現たあ面白いもので、この多少の「声の細さ」が、マイラバでいうとこの初期akkoのように、「青い」思いを表現してやまないのです。少年感、というのにもちょい近い。
5.Jump!
エフェクトを多少使ったイントロから、明るい感じで入ります。そこからまさに「ジャンプ!」って感じのRita氏の歌唱。勢いがっ!
意外にもリズムアレンジが、こういう曲調でもおとなしいのですが、これはこれで「地力」のあるものともいえます。ミスマッチじゃないですし。
ベースラインに説得力があるので(「タメ」をきかせている)全体のグル―ヴに「ジャンプ!」感が溢れています。ストリングスの入り方も絶妙!
スピーカーの右サイドの、クランチ気味の単音ギターリフも、面白い感じで清涼感を与えてますね。
まさに、ジャンプして空中でおもっきし跳ねてる瞬間を描いたような曲です。ジャンプ!
その「跳躍感」を与えるためには、リズムアレンジと歌唱を「抑え気味」にする、という仮説、をたててみます。ジャンプするのはRita氏であって、バックは堅実に、みたいな。ライヴ映えする曲でしょうね。アゲアゲのような、しっかり聞かせるような……どちらともとれます。
6.Destiny
非常に重みのあるアレンジ、ベースライン、ピアノ、ハーモニー、コーラス。どこか中村一義がするサウンドを想起しました。
しかしRita氏は様々の歌唱(キャラ)を使い分けます。
それはまだ近作に比べれば、少女感が強く、このころは歌唱(キャラ)を演じ切れてないように思えます。
けど、エモーションの真実さは本物。曲の真実さを、しっかりと胸に秘めて、それを歌の形にして表現しています。その真実さが伝わってくるから、この盤は地味だけど良い盤なのです。
7.ボクはキミのために
どこか懐かしいシンセワーク。90s的。それもマイナーキーを、暗くなりすぎない程度に絶妙にフレーズ構築。
そこにRita氏の低音voが。ブリッジあたりからは、後のライアー曲(スチパン曲とか)のような、誇り高い歌いあげがみられます。
サビも90s的にマイナーキーでもって、多少速めです。
Rita氏、いまの歌唱法(誇りと繊細さ、そしてリズムセクションに柔軟に対応しきる能力)を構築するのに苦労されたんだなぁ……と、この曲聞いて、ちょい失礼なことを思ってしまいました。しかし、その才能の萌芽はここにおいてすでにみられるものでした。
近作でもって、見事に結実したRita歌唱……今作は今作で悪くないのですが、この時期の曲を今のRita歌唱でもって再現するのを聞けるのは、やっぱライヴですかね。
8.Sincere
クラブ系寄りのアレンジ。シンセ多めっちゅうことですが。
ピアノと、太いべースに合わせて、切々とした心情を歌で表現します。ただ、それを絶叫するのではなく、しんみりとした物語を語るがごとく、切々と。それの表現か、はたまたまだRita氏の発展途上か、voに不安定さがあります。
物語はどこか淡々と進んでいくのですが、「もう届かない」的な感情が染みますね。
間奏は、意外なほどゴリっとしたギター。このアルバムでは珍しいですね。ウチヤマ氏はこういうゴリっとした音もなかなかのものなのですが(それはmuseum pieceで証明されましたね)、本作ではその方向性を封印しているようです……あるいは、こういうゴリっと系アレンジが、その当時は御嫌いだったのか、苦手だったのか。(多分後者だと思います)
しかし、それを踏まえても、このアルバムは、息苦しくない……「余白」があるアレンジだと思います。音を詰め込むのではなく。スカスカなアレンジというひともいるかもですが、重要なのは「必要な音」をきちんと配置し、音世界を作ることなのです。
(音を詰め込むのは、近作のアレンジで、荘厳&夢幻チューンでもって結実しています。さらにはポップスチューンでも)
9.扉
バラード。
ストリングス入れるんじゃなく、ピアノをフィーチャーした感じ。
これもまた詩がいいです。散文的な、小説的な感じなのですが、読ませます。それも無理に音に乗せるわけでなく(普通のシンガーソングライターだったらそうなる)、ウチヤマ氏の繊細かつ、内なる力を秘めたサウンドに乗せています。
朗読っちゅうわけなんじゃないんだけど、説得力のある表現ですね。ポップスとしては、これもやはり80s後期~90sにある感じの、普遍的なポップス。
10.Felicita
バラード第二弾。こっちはギターとシンセをフィーチャーか。
懐郷というか、昔を懐かしむというか。「ある思い出」を振りかえる、みたいな視点。なのでバンドサウンドも乱高下することなく、一定。
ブリッジからのメロが絶品です! 80s的アトモスフィアを感じさせ、早口とレガートを入り混じり、独特のエモーションです。
とくにサビは「しあわせのみつけかた」と共に、この盤でも1、2を争う! 後の「Last word」のエモーションの源流はここにあるような気が。
星を見上げるようあn、空の青さを見上げるような、切なさと爽快感、どことなく「もう届かない」的な心情……そして歌詞にもあるように「あなたの幸せを願う」みたいな思いが一体となって。泣けます。
11.コイノニア
バラード第三弾。これはバラードの出来に自信があるからですね、この盤構成。
地味曲を連発したとしても、どれもに説得力があるから。マジでマイラバの2nd、あるいは後期ビーチボーイズ的な「染みる」感だなぁ……
サビからエモーション、バンドサウンドがぐわっときます。「絶対に譲れない」みたいな感じ。
一気にマイナーキーに接続するのですが、バンドサウンドの切実さ、コーラスワークの複雑さ(音の重なり)が聞きものです。
ギターソロも90sやなぁ……ギターソロの最後の下降音形がサビのvoに接続するときのカタルシスといったら! ツボ! このアレンジよ!
12.またね
ひさびさにアップテンポチューン。オルガンが結構弾きたおします。
歌も非常に明るい。でも、どこかに一抹の寂しさがあるのはなんでしょう。
これも物語性豊かな詩ですねえ……ポップスなのだけど、非常に「いつまでも、君とがんばっていこう」みたいな心情。爽やかだのう。
それが少女(ボーイッシュ)めいたvoでもって……うーん、青春やなぁ。
13.しあわせのみつけかた
キラーチューンだーっ!
弾むピアノ、リズムアレンジが名曲感を表してやまない!
そこから出てくる詩は……泣ける!
お涙ちょうだいでは、全然ないのだけど、「日々を一生懸命生きるひと」を、「あなたはそれでいいんだよ」と肯定する……といったら、チンプに聞こえますが、歌の表現は、全然陳腐どころか、本当の「たいせつなもの」が詰まっておる! このヒネクレ野郎の残響が絶賛するんだから!
サビのパート、これは言葉&音符を詰め込み過ぎですが、これは詰め込んでナンボの曲です。なんという重要なメッセージ……
バッキングも派手なわけではないのですが、詩の心情を固めるように、ビシッビシッと説得力でもって。ギターソロも、この盤おなじみの90s的な感じなのですが、希望と憂いとが混じり合った、いいプレイです。
泣ける……泣ける……!
14.La-La-Lu
非常に静かな曲。ディープに沈んでいきます。
詩は、非常に静かな思いを謳います。一番ゆったりした曲。
これまでこの盤では、さまざまな「思い」を表現してきました。ある意味、物語音楽よりも、よほど「ひとの思い」を表現してるんじゃないか的な。さまざまな瞬間(moment)における思いを。まるで小説のように。
この曲も、瞬間を……ゆっくり流れるストーリーもののように。
以上のアルバムの「地味だけど、メロは美しく、詩は切々と」という、実に良き点なのですが、それを、アルバム通して「一本調子」と言われる批判はあると思うんです。地味という点と、それから極端なキラーチューンの不在という点から。
でも、この盤に収められてる曲をすべて聞いたら、非常に静かで豊かな……心地よい感じになります。
「HUNTER×HUNTER」で、とある場面で、あるアルバムが出てくるのですが、「通しで聞き終わったら、小説を読み終わったような心地よい浮遊感が残るんだよ」的な台詞がありました。まさにmomentはそのような感じのするアルバムです。
切なさを基調としていますが、それだけではなく。
希望も手放しではないですが、諦めてはいない。
あるいは、「moment」という英語には、「状況・場合」という意味もあります。そう、シチュエーションを描いている。
なので、さんざっぱらRita氏の歌唱が今と比べて「発展途上」とか、さんざっぱらウチヤマ氏のアレンジが「地味」とかって語りましたけど、
「状況・場合・シチュエーション」のただなかに生きて、それを歌のかたちで描く、という本作からしたら、当人たちのこの表現は、この表現でしか表せないものなのかもしれません。代替できない。
……だから、きっと、この盤は、多くのひとたちから再販が望まれるほど、「ひとのこころに寄り添った」盤であったのでしょう。わたしもそのように、この盤を聞いたのですから。