残響の足りない部屋

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まるち・とらっく・りこーだー「新しい笛部を考えてみよう!」

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まるち・とらっく・りこーだー

(公式ページ)

 

同人音楽シーン……だいたいそこは、幻想系、ゴシック系のロックミュージックだったり、ビーマニあたりを直系としているテクノ・ハウスだったり、あるいは東方project艦隊これくしょんといった「ゲームのアレンジ曲」が結構大半を占めているシーンです。ざっくばらんにいえば。

しかし。
そのような巨大カテゴリとはまた違ったところで、独自の音楽を地道に探求しているサークル(グループ)がいくつもいくつもあるのが、このシーンの良きところです。
今回ご紹介するのは、合同サークル「まるち・とらっく・りこーだー」の、同人音楽即売会・2014年秋M3での新譜
新しい笛部を考えてみよう!
です。

 

この「まるち・とらっく・りこーだー」なる合同サークルは、日ごろゲームやアニメの曲を、
「リコーダー」
を主とした、素朴なアレンジをする、三つのサークルの寄り合い所帯です。
参加サークルは、
Music Load(ヒロカズ氏)
とらふえ屋(とらにゃも氏)
Reiche(J・Weidinger氏)
の三つ(三人)
いずれも、テクニックと歌心とアレンジセンスを見事に兼ね備えられたベテランたちです。

Music Load


♪ - とらふえ屋


Reiche(ライヒェ)

 

Music Loadのヒロカズ氏は、主戦場は、こういった同人CD界隈もですが、ニコニコ動画での、アニメ、ゲーム楽曲の「リコーダーアレンジやってみた」系の動画。
その数……えっと、数え切れないほどあるや。すげえ。ジョバンニ投稿もされておられるとか。すげえ。(ジョバンニ投稿……アニメの楽曲アレンジを、放映から一晩ですぐに投稿する超早業)

 

とらふえ屋のとらにゃも氏は、リコーダーアレンジや、アニメ・ゲーム楽曲系の楽団での活動をされながら、評論同人誌活動もされておられます。
というか、今回のM3で『[裏方の楽典]はじめての楽団運営』『同人屋さんのタスクとモチベの管理法』『なぜゲーム音楽の楽団は多くてアニメ音楽の楽団は少ないか』を買いましたが、そのポップな見かけと反して、すごい「実地体験」に基づいた有益な情報の雨あられ。あまり大きな声では言えませんが、とくに「タスクとモチベ」の本は、自作小説を書いたりする際の参考にさせてもらっています。

 

ReicheのJ・Weidinger氏は、リコーダーのみならず、鍵盤ハーモニカやウクレレなど、他の楽器にも手を伸ばし、彩り豊かなアレンジを聞かせてくれます。
というかReicheについて、過去にこのブログで、艦これアレンジのとき書かせていただきました。詳しくはこちら~

Reiche「第六鼓笛隊なのです!」 - 残響の足りない部屋

 

盤を聞けば解るのですが、同じリコーダー、というものですが、聞き込めばそれぞれのアレンジャー/演者のキャラクターがはっきりしているので、「うむ、寄せ集めではない、これぞまさにコンピレーションよ!」という充実さを感じさせます。

で、今回の題材となったアニメですが……これ書いてる「今日」はじめてみているような具合なのですが、
てさぐれ! 部活もの」というアニメです。


てさぐれ!部活もの あんこーる|日本テレビ


わかりやすく言えば、「女子高生四人が、『新しい部活を考えてみよう!』というお題目でもって駄弁るだけの日常系アニメ」です。
しかしこのアニメのカオス成分は、中盤以降さし挟まれる声優さんのアドリブというか……はっちゃけというか……。とにかく、一筋縄ではいかない。


そんなアニメですが、とにかく曲はいいんですよ!
ぶっちゃけ、見てなかった残響さんなんですが、このアレンジアルバム聞いて、「すげえいい曲の宝庫じゃねえか!」と驚嘆し、アニメを見て「ああ、こりゃひどいわ……(笑顔)」というパティーン(パターン。てさ部表記)を踏んでいるのです。

 

で、原曲聞いて、
「歌詞がひどい……」
まあこれだけ聞いてみてくださいよ。


てさぐれ!部活もの(摸索吧!部活劇)一期 OP 中文字幕 - YouTube


さぁカメラが下からグイッとパンしてタイトルロゴがドーン!

 

ところが、この視聴音源の最初の曲で、こうも見事にアレンジされるのです、曲本来の「歌心(うたごころ)」を存分に生かし!


【M3-2014秋】新しい笛部を考えてみよう!【クロスフェードデモ】 - YouTube

どうです、この走り出そうとするイキのいいメロディー! 
まあ最初の低音フレーズは、アレンジャーのヒロカズ氏いわく、「セリフパート(上記、あのロクでもないセリフ)を音で再現してみた」と仰ってましたが、その方向では再現されてないと思う。むしろ「アドリブイントロの勢い」みたいな感じで、「音楽」として聴いてしまっている自分がいる。

 

視聴音源だけで、ここに収められたメロディー群が、光を放っていることは、「ポップで甘いメロディーに対する嗅覚」が犬のように備わって、いつも尻尾振ってるような奴らには(ひどい)すぐにわかることと思う。
それを、こうやって、メロディーを生かした、心なごむ(原曲、原作のネタ性は排除して)アレンジをされてごらんなさい、今の残響さんのように、1日数回この盤をターンテーブルに乗せて、ヘビーローテーションしているハメになるのだから。

 

そこらの露骨に泣かせにかかろうとする楽曲よりも、よほど「真に迫る」メロディーのサビでもって染み渡る「フウセンカズラ」アレンジ、
タンギング・スタッカートの鬼だろ的な超絶技巧リコーダーの「てさぐり部部歌」アレンジ、
軽快なリズムを刻みながらの、和声のカラミが楽しい「Light music!」アレンジ、
良質なメロディーを、様々な楽器を駆使しながら(まるでソニー・ロリンズの「セント・トーマス」のようだ!)軽快に行進する「とりかえっこ」アレンジ……良い曲が多すぎる!

 

まるち・とらっく・りこーだーのアレンジ曲は、これまでいくつかの盤で聞いてきましたが、今回のアレンジで特筆すべき点がいくつかあります。

1)メロディの歌心を最大限に生かしている
2)テクニック的にも、心情的にも、表現が難しい曲が何気に多いのだけど、それを見事に吹ききっている
3)メロディの処理もさることながら、リフに拘ったり、ハーモニーで世界観を表したり、リズムアレンジが細かい
4)広がって広がって、な音響プロダクションじゃないけど、しかし傍でそっと鳴っているかのような感じなので、親密感がある

 

……こんな感じで、今回聞いて、「今までより一皮剥けたか!?」と正直に思いました。新鮮さがあったぜ。

 

まるち・とらっく・りこーだーの曲チョイスセンスは、ふつうのとは幾分違っていて、すぐに流行りモノに手を伸ばす、のとは違い。
例えば日常系アニメで曲を縛ってひとつアルバム作るとか、同人アレンジ業界でもほとんどない「ゆずソフト楽曲アレンジ」で作るとか、このご時勢で「90sアニソン」縛りで一枚作るとか……。
とにかく、チョイスが独特。……いや、表現が違う。
「まっとうなマニア目線」とでもいいましょうか。
自分たちが心底良い! と思った楽曲を、丁寧にアレンジする。その気概があるから、わたしはこの合同サークルのアレンジ盤を、ついつい聞いてしまうのです。

 

あ、それから、毎回の楽曲解説が面白いw
ペラ紙がCDに挟まってるときもあれば、公式HPでpdfダウンロードのときもありますが、そこでのマニアックな音楽トーク&オタクトークが面白い。


で、今回、好きな盤なので点がすげえ甘くなってるのですが、公平を期すために難点をいうとすれば、

・それぞれワンコーラスぶんくらいしか収録されてないのが多かったので、せめて原曲のように2コーラスは入れてもいいのよ。それだけの歌心溢れるアレンジなんだから……正直ボリュームという点で「足りないよぅ! まだお腹すいてるよぅ!」という感はあります。ぜいたくだな……

・あくまで素朴なリコーダーアレンジなので、音の厚みとか、へヴィなバンドサウンドとか(メタルみたいな)を求める向きには、一切おすすめしません。ていうかそんなの求める奴が、そもそもこういう盤を買って「期待はずれ!」と叫ぶのはいかがなものか。お前のほうが期待はずれだよ!

・キャラを再現する、ということで、時折音をはずした演奏をしてるところがありましたが、正直これは「ただのハズレ」にしか聞こえなかったような……。意図は最初から伝わりましたし、このサークルのひとたちの技量を信頼してますので、「ああ、あえてハズしたんだな」ということは伝わりましたが、しかし「メロディの歌心」を削ってまでそうする必要はなかったんじゃないかと。

 

 

とまあ、難点を書きましたが、ささいなことだ。
とにかく、ビューティフルでキャッチーなメロディがここにあります。心和むアレンジと共に。
いやあ、どこに「良き曲」が眠っているのか、わからないもんですね。