サークル公式ペエジ
●バイオグラフィ的な
リコーダーを使って音楽表現をする三つの同人サークル……
とらふえ屋(主宰:とらにゃも氏)
Music Load(ヒロカズ氏)
Reiche(Joker・Weidinger氏)
の三つの寄り合い所帯である、合同サークル「まるち・とらっく・りこーだー」の2014年作。
このアルバムは、いわゆる「日常系アニメ」とカテゴライズされる作品のBGMをリコーダーアレンジしたものを集めたCD。
このブログに来てくれるひとの半分はオタク文化を好むひとであるのですが、どうやらもう半分は「アニメ? 見ねえよ、ジブリくらいだよ」というひとのようです(いわゆる普通の硬派音楽ファン)。
実際、わたしにしたって(漫画とエロゲは好きだけど)アニメについては皆目知識がなく……
しかしオタクにとって「日常系」とは、共通のコンセンサスが取れているものです。
即ち
- まったりほのぼの(日常)、圧倒的なドラマツルギーがない
- かわいいキャラたちの掛け合い(日常)をたのしむ
- その上で、扱うモチーフの差や、空気感(日常)の表現の差で、個性が成り立つ
というようなものでしょうか。あくまで「日常」というところを切り取っての話ですが。
で。
前述の、このアルバムでも奏者として参加している「とらふえ屋」のとらにゃも氏の評論によると(「シュミリコ!」vol.1)、リコーダーと日常系アニメはそもそも親和性が高い。
リコーダー表現の現代における第一人者、栗コーダーカルテットが、これまた日常系アニメの金字塔「あずまんが大王」において大々的にフィーチャーされたことは、その大きな表れ、と氏は主張します。たしかにあずまんがとリコーダーは合いすぎる! とくにちよちゃんと大阪はな!(なつい!)
あずまんが大王 (1) (Dengeki comics EX)
- 作者: あずまきよひこ
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そういった視点からすると、なるほどこのアルバムが出る、ということは納得できるのですが、しかし、オタクなら次のようにも思うはず。
「なんてマイナーな手法でマイナーな楽曲を演るんだ……」
日常系におけるBGMとは、それが「日常」であるだけに、こちらに刃のように切り込んでくるタイプの音楽ではない、ということです。
半ば、リスニング対象として数えられたにしても、イージーリスニング的扱い、というのが正直なところではないでしょうか、一般的リスナーとしては。
だが、まるち・とらっく・りこーだーを、そのようなイージーリスニングという文脈だけで切るのは、あまりに惜しい、というのが、当記事、そして音楽ブログ「残響の足りない部屋」の主張であるっ!
【M3-2014春】にちじょうカルテット【クロスフェードデモ】 - YouTube
●楽曲レビュー(敬称略)
「Won(*3*)Chu KissMe!」(「桜Trick」OP 編曲/演奏:ヒロカズ)
どこかマイナー調の寂しげなフレーズを、アップテンポで疾走!
まさに「悲しい疾走」である。
サビからリコーダーが歌い上げるところは、勇気と誇り高さと哀しみをたたえて、これまた疾走! 泣けるね!
明らかに泣かせにかかっている、というよりは、「ここにいていいのかな……このままでいいのかな……」という「戸惑い」の音表現だといえます。そのエモーションが泣ける。
……ていうか、「桜Trick」ってそういう作品だったっけな……あれ百合アニメでしょ……と思って、原曲をつべで漁ってみたら
[Vietsub] Won~chu kiss me - Sakura Trick - YouTube
……WOW! なんちゅうか90年代アニソン風ポップス!
しっかり原曲にも哀愁はあるけど、音色が懐かしいシンセ&ハウスアレンジなので、祝祭感をたたえたものですな。
ていうか、アニソンなんだから当然アニソン風ポップスですよね……嫌いじゃないけど。
しかしそれに対して、ヒロカズ氏のアレンジは、楽器がリコーダーだけで成り立っていて、原曲の哀愁を前面に出す。それによって、「哀愁空間」というべきの独特の音空間がある。祝祭ではない。原曲と「感じ」が違う!という向きもあるかもしれんが、音楽表現としてはわたしはこっちのほうが好きです!
「たまゆら~メインテーマ」(「たまゆら」BGM 編曲/演奏:J・Weidinger)
Joker・Weidinger氏(以下文中ではじょーかー氏)のこの曲のアレンジは、いつもの氏らしく、リコーダーだけでなく、鍵盤ハーモニカやグロッケンなど、様々な楽器を使って、というマルチプレイヤーぶりが、楽曲に華を添えています。
例によってアニメ知らないのですが、牧歌的な、平和的なフレーズを、散歩するかのようなリズムで演奏します。高らかに歌う、というよりは、鼻歌を歌うかのような健全さ。
それが、中盤からどことなく愁い……ふと過去を振り返るかのような、郷愁めいたアトモスフェリックな感じを交えます。ここでペースがダウンするのですが、その「ゆったりたゆたい」感もまた聞かせどころです。メタルで言うところのダウンビートなのですが、曲の感じは全然違う(当たり前だ)。
「FuwaFuwa(Yukari's Theme)」(「ゆゆ式」BGM 編曲/演奏:とらにゃも)
よし、これは原作知ってるぞ! ドンドゥルマァ!
「縁のテーマ」というだけあって、「ふわふわ」と題するだけあって、メインフレーズを低音のリコーダーでほわほわタッチに吹きます。
そこに、様々の声部……いろんなフレーズのリコーダーが(意外に)細かく絡み、楽曲を立体的にします。
とらにゃも氏のこのアレンジに限らず、このアルバムの各曲は当然「リコーダーアレンジ」なので、メインはリコーダー。それだけに、音色が一聴して「同じじゃない?」と言われる向きもあるかもしれません。
それは「○○楽器アレンジ」の宿命かもしれません。
しかしよく聞けばこのアレンジのように、リスナーを飽きさせない、立体的なアレンジがどの楽曲もされているのです。そもそもが繊細な楽器なのですから、テクノやメタルのように「アゲアゲ」で聴くよりも、紅茶でも飲んでゆったりした時に、身を浸すように聞くのがよろしいかと思います。
「GA~art design class」( 「GA 芸術科アートデザインクラス」BGM 編曲/演奏:J・Weidinger)
よし、これも原作知ってるぞ!(だからどうした)
芸術系の高校を舞台とするだけあって、ほのぼのしたメロのなかにも、どことなくモダンな雰囲気があります。
それを、じょーかー氏一流のリズムアレンジ(これではウクレレを使っているのか)で、軽快に跳ねるように演奏します。
メインフレーズなんか、どことなくカリプソっぽい感じもしますね。隠れカリプソファンの残響さんとしては点が甘くなります。
「機嫌の良いはかせ」(「日常」BGM 編曲/演奏:とらにゃも)
よし、これも原(略)
意外に知ってるんじゃねえか、といわれそうですが、まあ原作漫画の知識ですんで、BGM原曲については知らん……。
多分このアルバムの中で一番のーてんきな曲。同じフレーズを手を変え品を変え、カノンめいた輪唱っぽい感じさえ受けます。
とにかく「闇」がない。
「夏休み」(「のんのんびより」BGM 編曲/演奏:ヒロカズ)
和音の重ねが実に見事だ。
まさに「夏休み」の、午後の時間をもてあそんでいた、あの頃の郷愁。
メインフレーズがそこまでキャッチーではないのですが(珍しい)、むしろメロディーとハーモニーが一体となって、ゆるやかなたゆたいの中、ひっそりと鳴るような曲なので。
ふわっと立ち上がる夏の情景、音が切り落とされたような感覚。時間は静かに流れていって……。
アコースティック楽器の美しさですなあ
「たのしいたまこ」(「たまこまーけっと」BGM 編曲/演奏:とらにゃも)
地味な曲。
楽器編成も凄くシンプル。シンプルすぎる。音数も少ない。
まるでミニマルミュージックのようだ。その中で、フレーズをどこか抑制しながらも、でも「この中にも楽しさはあるんだよ」的な感じで吹きます。
フレーズ的にはノっているんだけど、全体のリズムがミニマルめいたノリの少なさなので、なんともフシギな曲です。
こんなことを言ったらなんだけど、キューピー三分間クッキングの曲みたい。
「あれ……なんだったんだろう?」と後に残すというエニグマティックな魅力を備えた曲といえましょうか(いいすぎ)
「Between Greens」(「トリコロ」ドラマCD 編曲/演奏:J・Weidinger)
よっくこんなドマイナーなとこから引っ張ってきたな(笑)!!!
いや、トリコロがじゃなくて(今のご時勢トリコロもマイナー漫画か……?)、ドラマCDからっちゅう。
実をいうと「きらら」創刊第二号の海藍氏の独特なイラストに惹かれ(ようはトリコロに惹かれ)しばらく初期のきららを買っていた十年前……いやそんなことはどーだっていいのだ。
どこか西洋の街中で鳴っているかのようなフレーズ。
それを軽快なウクレレとタンバリンが支える。まさに吟遊詩人的な曲である。
しっかりしたメロディーの曲です。いい曲ではないですか。しかしよくこんなマイナーな……。
「新しい季節」(「きんいろモザイク」BGM 編曲/演奏:ヒロカズ)
ダンディな低音のイントロから、非常にポップなメロディが疾走!
ブリッジのところなんか技巧を凝らしたトリルを弾く!
そこから一直線に、バックのハーモニーをまといながら、複数のリード・リコーダーでメロディを吹く!(ギターソロにも似て)
意外にプログレッシヴなメロディなのだけど、それを「聞かせる」のは歌心に支えられた技量! さすがや!
●総論
このアルバム……いや、もといサークル「まるち・とらっく・りこーだー」を当ブログが応援するのは、ひとえに「すばらしいメロディを、丁寧なアレンジで聞かせてくれる」からです。
「癒し系で一発どうよ? ん? まったりしたやろ?」 的なモクロミは当ブログは考えていません。これは独立した音楽表現だっ!
なかなか、同人シーンは似たようなとこばっかからアレンジもとを引っ張ってきます。……いや、それは全世界的な潮流でしょうか。なかなか、マイナーな曲の発掘までもいかない。ああ、レア・グルーヴの季節はいまいずこ!
そんななか、この御三方は、自分たちが心底いい!と思ったメロを発掘しては、時に泣かせ、時に魂奮わせるアレンジで聞かせてくれるのです。
美メロ好きのメロディ野郎としては応援したくなるじゃありませぬか。
……まあそういいつつも、和みたいとき、こういったアルバムで心なごませるために聞く、というのも結構ありますがw
まあそれはこういう音楽なんだから当然だろう!w
だがそれが、そこらのイージーリスニングのように「ただの環境音楽」にならない、というのは、ひとえにメロディの素晴らしさ!
そしてそのメロディを殺さない……いや、さらに新しい「え?こんな響きがあったの?」と気づかせてくれるアレンジ!
だからついつい、ターンテーブルにまるち・とらっく・りこーだーのアルバムを載せてしまうのです。
・過去のまるち・とらっく・りこーだー、及びMTR人脈について書いた記事