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スグリコレクション2……それは、シューティングゲーム「スグリ」の作曲者である、DEKU氏の呼びかけにより、集まった熱きスグリラブを持つ音楽戦士たちが、アレンジ曲を持ち寄って、コンポーザー・DEKU氏とともに、ひとつ「スグリミュージックワールドのお祭り」をしよう、というものです。その第二回
よって、このコンピには、主旨は二つ。
・DEKU氏の曲を思うがままに改造(リミックス)
・それでいて、DEKU音楽の透明なる思想と、どう折り合いをつけていくか
という、考えが見受けられます。それだけ……DEKU氏の作った透明世界、というのは、本当に、アソビで片付けられない。
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前回のスグコレレビューで、わたしは、「期せずして、ゼロ年代総括クラブミュージック、という機能性をももった盤だ」、と結論しました。
もちろん、そういうことを、このアレンジャーたちは目論んでやったわけではないのですが。
過去のさまざまなジャンル敵対感とか、相互不可侵的なジャンルの取り決めとかが、あっさりなくして、「面白ければいいじゃん!」という精神でもって、GOGO、としていったキップのよさ、風通しのよさがありました。
で、結果として、このクラブミュージック、ダンスミュージック、テックの、この10年での可能性が、ずらっと展示されたわけだったのです。そういう意味でも、スグコレ1は意味あるものでありました。
さて。スグコレ2。
前回のまとめかたが、どこかバラエティ、という名の散漫さ、があったのも事実です。
ですが、今回はよりソリッドに。いえ、一定方向でまとめる、というのではなく、「アソビ」心をあえて廃して、アレンジャー全員がガチになって、世界展開していくのを、サウンドから聞きとおせます。
それは、アレンジごとの、音楽としての強度。飛び道具、ネタに頼ることなく、DEKUメロディを、自分のなかで消化し、それを自分の音楽に昇華さす、この意気込みよ。
では、各曲解説にいきたいと思います。
DISC 1
01. DEKU/a few years after (プログレハウスアレンジ)
透明感ある四つ打ち。染み渡るような音だ……。この透明性こそに、アレンジャー諸氏も、ファンも、皆ヤラれるのである。純度百パー、空の空間をそっくりそのまま閉じ込めた色。空気。
詩情あふれる。天上目指してアゲアゲって感じじゃなく、サウンドスケープが広がっていく感じ。まさに透明……心があらわれる
02. ZEN-U/Menu (Angel's Ladder Mix) (ジャングルアレンジ)
繊細な雅楽(笙や笛の音色?)っぽいウワモノに、高速ジャングルビートをヒシヒシとぶちかます。というかこれほとんどドリルンに足踏み入れてるな……。なんというリズムの刻みっぷり&超神経質リズム構築! 和風エイフェックスツインと呼ぼうぜ!(爆
03. 透木 明/Lunch Break(ボサノヴァアレンジ)
その発想はなかった的、カフェラウンジ的アレンジ。おだやか。ライトなボッサアレンジ。攻撃性は皆無だけど、ひたすら和む。かわいい。後半からエレピが自由にノッてくるあたり洒脱やなぁ。DEKU曲はこうも活かせるのか……
04. しら/アコギで First Encount (アコースティックアレンジ)
ひとつひとつの音を丁寧に弾くタイプで、ジャカジャカアホみたいに鳴らすのとは対極の知性。というか半ばこれフォーク経由のポストロックというか、epic45的田舎静謐サウンドスケープすらあるな……歌心重視!
05. DEKU/Beginning(ハウスアレンジ)
クールや……。
ダサさが皆無とはこのことといえるハウス。四つ打ち。ディープな美。
絶対に一定以上熱くならない。しかし内側に秘めたるものは伝わってくる。
06. wonder/Wistaria (フュージョン)
面白いな。ブリブリなスラップベースに、エレピが洒脱に絡む、スムースジャズ寄りのフュージョン。しかし絶対にノー天気にならない憂いと抑制がある。フルートの音がちょいラテン野性味な感じで吹いてるのがまたアクセント。
07. Hiroshi Nakajima/Azure(イージーリスニングアレンジ)
「イージーリスニング」とクレジットには謳ってるけど、要するにチルアウト的文脈ってことかしら?
でもそれにしてはこのはっきりした四つ打ちに、原曲の派手さを一気に抑えた感じは、クールや。
08. DhiArk/200%すたっふろーるっ! (チップチューン)
出たー!チップチューンだー!というか、「いわゆるジャンルとしてのチップチューン」というより「ファミコンBGMリスペクト、旅の終わり」な感じ。FF3のオリジナルサントラにしれっと紛れ込んでても不思議じゃねえw
DISC2
01.ヘキ/Select (エレクトロ・ハウス・アレンジ)
あくまでメニューセレクトな音源なのですが、しかしちょい中華な多幸感のシンセ! ほんのちょっとだけ中華フレイバーがしてかわいらしい。
結構エグい音ネタ使っていきますが、それでも「ぐぐっ」と楽曲を右に左にグルーヴさせて,のことですから。
リズムの刻み方が面白いですね。どことなく、ダフト・パンクを思わせます。
02.Pregressive_P3/Flashfreeze(プログレトランス・アレンジ)
音が孤独だ。薄明の中を漂うような。闇に落ちることなく……堕ちないように慎重にステップ?
粘着質なルーズなリズムに同期するような形でメロを紡ぐ。ウワモノのピアノが降り注ぐところなんか、星のキラキラが舞っているかのようだ。
「何かどうにもならない感情」を表現しているよう、迷うことなく前へ進まざるを得ない、みたいな。でも前に進めなくて……。
サウンド的に、どこか乾いている。芳醇なリバーブとかやめてる。ある意味で深みを切り捨てている、その感情の冷静な焦りのために……?
03.heric/Devil's roar(スピードコア、アレンジ)
虚空感すらあるイントロから、ギターが入る。ハンドクラップ、あおる。そしてそこから……ハードロッキンにギターをフィーチャー!ガンガンガンガン、圧迫すらあたえるギター「叩きつけ」!
コアだー!ハードコアだー! 完全タテノリ! マシーナリー! 圧殺感! 何か迫りくる拷問機械のようだ! アタリ・ティーンエイジ・ライオットがトランスっぽくなったらこんなんになるのかしら?
04.DEKU/Ice Cage(アップリフティング・トランスアレンジ)
跳ねるリズム。飄々となる音。そこそこの足取りで駆けていく。まだ余裕がある……
それにしても。
原曲じたいが謎っぽいメロディなのだけど、謎のメロも勢いと自身をもってやればこれほどハードになる、という症例。
そしてブレイク。あのすっとぼけて謎感バリバリの音が鳴る。下では手数の多いドラムがひたひたと鳴り、上ではあのすっとぼけた音が鳴る。バラバラになってるかのようなそれらを、ウェーブのような音のカーテンが包んでいく。
……そして、それらが統合されたとき。
解き放たれた優しい怪物。いざ、光のほうへ。
05.windsplite/Injunction(クラシックトランスアレンジ)
ああ、このシンセパッド音響、ゴリ押しビート、ハンドクラップ、ホワーホワー言うシンセクワイア……闇の中から現れ、我らにビートをまずもたらす。ズンツクズンツク。
そして第一ドラムビートで「さっと整理」して、疾走開始。さあそうすると、いつものトランスリフが追っついてきたぞ。トランスヴォーカルもだ。上空で鳴っているクワイアは私たちを見ている。
ブレイク。
そこで、歌はエモーショナルに歌い上げる! トランスリフがここで全開になる! そこに切り込むピアノ!エモーション!
ああ……なんという……我らが愛したヴェルファーレサウンド様式美! まさに古きよきトランスミュージックの様式美よ! 懐かすぃっ! 咽び泣くぅ!
06.透木明 feet.ZEN-U/Fall into the Atmosphere(エレクトロトランスアレンジ)
トランス音のめくるめく使い方。カラフル。
だけれど、一旦終息して、ブレイク。
そこから、ひしひしと、何かを準備するかのような音の連なり。
不穏……しかし、彼方から現れてくる音。それは……まずはブーミーでファットな謎のエネルギーのようなもの。ぐるぐる胎動している。
で、曲はいつものメインメロディを淡々と鳴らす。でも背後でやたらと爆発しそうななにかがあるので、不穏。
やがてその背後の不穏さが、この曲のメインメロとなって確立、しかしより前にあったメロがそれに絡んで、独特の盛り上がりを見せる。
抑制は抑制だが……爆弾を孕みつつの抑制だったぜ
そこから様相は変わって。
声ネタも使いつつの、全体的にアゲアゲではなく、むしろ積極的にフレーズ感覚をズラしていく、プログレッシヴ感覚。かといって実験精神オンリーなのではなく、あくまでリスナーをわくわくさせる音展開。なんかRPGで機械系ダンジョンに潜入していってるみたいw
07.DEKU/Stratosphere(アップリフティングトランス)
まずもって、ピアノの孤独なる音でもって、世界に挑戦状をたたきつけるかのような静謐さ。リズムは常に疾走。地べたを駆ける音楽じゃない、もがく音楽じゃない。空を疾走する音楽だっ!
だが、どこかに焦りがある。第二フレーズのシーケンシャルがトランス感覚を帯びてくる。これが基調となって、この曲の焦りや、ある種の誇りのようなものを感じさせる。イメージは黒い旗。
「攻めきれない」という思いも感じさせる。ブレイクの前において。……だがブレイクはなされるのだが、それでも感じさせる柔らかな憂いはなんなのだろう。
08.ZEN-U feet.ゆううつ、白虎崎、八皇/Shout out!(ミクスチャー)
最初苦言を呈するとすれば、おそらくリズムものと、歌ものを別で録音さしたのでしょうな、そのあたりで、有機的な楽曲としての連結が出来てなかったとこがありました。いわば「バンド感」のウスさ。
それから、フロウをするときも、ちょっと中だるみをしてしまうところがありました。でも、キラーチューンをぶちかますときは、さすがの堂に入った「Sey HO!!」でした。
また、リリックが良いのですよ。「スグリ裏史」というコンセプトですが、ここに宿っているコトダマが、フロウの若干の弱さを助け、ぐぐっと説得力とビートを与えています。
反骨だ……拳をあげよ! 戦うんだ! そういう感じの、レイジ・アゲインスト・マシーン直系のミクスチャーですね。
09.heric/Bloodmoon Catharsis(ハードNRGアレンジ)
ああ……ビオメハニカの歌が聞こえる。テックテックテック! これよ、これがNRG(エナジー)よ! 不退転! ぶちかます!己の音楽的膀胱に蓄えられたNRGを爆発させるのじゃ! それが、このジャングルビートであり、忘れることなくピアノで叙情性を付け加えるところであったり……一点も隙なんて見せねえよ! という気概!気概!っ
まとめ
今回もいいものを……というか、前回よりもいいものを聞かせていただきました。
当然ながら捨て曲はなしっ!
あるのは、もちろんDEKUミュージックへの愛と、クラブ文化への愛。
それだけ、さまざまな愛……アレンジャーによっては、「偏愛」をぶつけられても、しかしやはりDEKUミュージックはDEKUミュージックなのでありました。
東方とかでよくあるんですけど、東方のメロディをネタ扱いしてアレンジする……東方で「遊ぶ」ってのが、よくあるんです。魔改造。
それに対し、この盤では、そんなことはなかった。それはDEKUミュージックに対するリスペクトでもありますし、まずもって、スグリという世界に対する……そう、我々自身が、あの世界を飛び回っているのですから! 下界? 知ったことではないねっ!