残響の足りない部屋

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百合フリゲー「Euphoric Create」かんそう

公式サイト

Euphoric Create(ユーフォリック・クリエイト)~トップ~

 

 

新年一発目の百合語りは、サークル「夢幻飛翔」さんが年末にフルverを発表した「Euphoric Create」(ユーフォリック・クリエイト)の感想文から参ります。

このゲームはフリーゲームです。内容は、公式から引用すると、

遠い遠い未来の物語。
DesireIn(ディジアイン)と呼ばれる想像を具現化させる薬の登場により
人々は他人との交流を忘れ、妄想に浸る日々を過ごしていた。
理想の幻想のみ見つめ、つまらない他人に無関心に生きることが常識となったそんな世界。
物語の主人公、弥生もまた、他の人々の同じように他人に無関心で
DesireIn(ディジアイン)で 妄想に浸る日々を過ごしていた。
胸に虚しさが積もっていくも、何も感じない日々。
そんな日々の果てに、弥生は千架に出会う。
こんな世界に似つかわないほどに活き活きとした生き方をする千架。
そんな千架に弥生は瞬く間に恋に落ちる。
そしてその片想いを成就するために生きる決心をするのだった―――

 

なんちゅうか、ガチのハードSFということもなく、またサイバーパンクということもなく。遠未来、と書いてありますが、描写はちょい近未来、くらいです。でも、これが静かなるディストピアだということは、開始直後からわかります。といっても、ネオサイタマみたいな完全暗黒ではなく、むしろ「安らかに、静かに、相互不干渉が完成されたディストピア」です。

ここでキーとなるのが、DesireIn(ディジアイン)という合法ドラッグで、これは「呑んだら妄想が具現化(人が手で触れること可能)する」というものです。たとえば、理想のイケメンがほしかったら、即座に妄想すれば出てくる、という。

これによって、いくつかの「人間的な、あまりに人間的な」ものが失われました。

・人間同士のコミュニケーションだとか(そばに居てくれる存在は、妄想すればいいのです)

・人間が自らつくる創作物・表現物とか(そんなのよりもカンペキな妄想があるのです)

こういった「人間的な、あまりに人間的な」ものが失われていった結果、どうしたか。すごく「ラクな世界」ができました。ひととひととがガチでぶつかり合うことのない、無菌で安全な世界。……という感じのディストピアです。

さてわれわれはこのディストピアを笑えるでしょうか。ぼくは笑えない。だってぼくは、ひがな「こういう軋轢の社会はもういいよ……」って思ってるからね。

それに、いろんな意味で、ストレスフルであるがゆえに、おのおのの「非社会」への依存度が高まっているのも、またリアル社会。そこから逃げたい人間がどれだけいる? いない、といえるのならば、新興宗教に逃げるひとの数を勘定してみてからいってみてくれ。

そんなわけで、この静かなるディストピアは、むしろいろいろリアルが面倒な今だからこそ、逆にキツい。

 

 

で、物語の主人公、弥生(やよい)は、そんななかで、典型的ヒキーとして生活しておりました。

……で、ゲームプレイしはじめて、いきなりビビったのが、リストの「愛の夢」が鳴り響くなかでの、弥生と千架(ちか)の対面シーン! 今回のヒロイン役にしてイケメン役の千架が、そっと弥生の頬をとって見つめる!それに陶酔する弥生! ああもうこの時点でこの絵づらのカンペキさ、ヤベエくらいのベタさあふれる選曲! 古典少女漫画やんけぇ! といわんばかりのツカミにより、この作者わかってるねえ!という認識をこっちにあたえてくる……これは百合ゲー、まごうかたなき百合ゲーですぞ!

 

物語は、最初は千架をリスペクトして、追う形で進んでいきます。

ある日ヒキー弥生の目の前に唐突にキラメキでもって現れた千架、そのきらめきをもっと知りたいっ!ってな感じで、彼女がつくるコミュニティにいざ出陣……

当初、ぼくは弥生がイケメン(千架)によって変わっていく物語、だと思ったのですね。でも、以外とそうはならず……というか弥生=千架、という狭い範囲で収まらず、文(ふみ)と桜(さくら)というタイプの違うふたりのサブキャラを配することで、さらに物語に奥行きと百合情緒を与えていきます。

この奥行きと百合情緒は、すなわちヒキー弥生が「イケメン弥生」に変わっていくところなんですよ! この作品のなかでぼくが一番点をつけたいとこはここだっ!

なんといっても、天然女タラシ! メインヒロインは千架なので、弥生は千架に近づこうという自分本位の思いで、コミュニティ内部の問題を解決してくのですが、そもそもヒキーがそんな大それたことできるわけねえ! 初期の弥生はキョドりまくりです。

ちょっと補助線を引くとすれば、弥生の服装はすごくモノトーン(青系)で統一されて、華美なとこがない……千架のようなコケティッシュさもない。むしろ文のほうが、典型的文型メガネ女子の文のほうが、まだおだやかさと開放感がある。最初からキツめの眼光と、ハードタッチ気味のロングヘア、そっして先のジミ服装ですよ。これが、初期弥生のキョドさをとても演出している。

……が、文の問題、桜の問題を解決していくことにより、このジミさが、「頼れるお姉さん」的な感じに見えてくるのですから、俺はもう親弥生派になってしまっている、プレイ中に。だんだんと「弥生はうそをつかない、だまくらかさない、嫌なことはいやという」タイプの実直さが作中で評価され、そのラインでイケメン度が上がっていく成長物語は、見ていてとても自然であると思いました。

そのアウトラインは、最初千架がいうてるのですが、

「何かをしようとして、蒼白になるほど悩んでいる→この他人に無関心なディストピア世界では、そんな美徳を持ったひとはいないよ」

って具合に。

そうとにかく弥生は悩む。はっきりいって、この作品の7割くらいが、弥生が人間関係で悩むってしろものです。でも、その悩み方は筋が通っていて、しかも逃げない。最終的に、地道で……ドロくさい、等身大の悩み方/解決の仕方をします。

たとえば文のこと。今まで文の問題は、コミュ内で解決すべきもん、といわれてましたが、その実、「あるひとつの問題」を解決する、ということに終始して、「ひとりの人間・文」によりそうことは今までしてこなかった、ということが文パートラストで言われます。これは、なかなか示唆に富む発言です。現象・事件としての解決では、ひとは救われない。ひとは、必ずほかのひとが寄り添って、手を取り合ってでないと、現象・事件とちゃんと向き合って解決はできん、ということです。行政や警察の人間見てるかっ!

 

また、桜の「創作」に関することもなかなかシビれます。先にも述べたように、創作の意味がなくなってるディストピア。だからこそ、ナマの生き生きさ=創作表現、でもって、人々の生気を取り戻したい、という桜。

ただ、そこで創作者特有の「嫉妬」がからんでしまう、という。もちろんイケメン弥生に対しての嫉妬ですよ。自分の創作がひとを変えられず、イケメンの誠実さがひとを癒していくさまをみて。ここはもうちっと「創作者のエゴ」という方面で掘り下げてもよかったと思いますが、しかし創作はあくまで一部分でしかない、ということですからね、物語上は……。で、結局はこの桜さん……超テンプレツンデレなんですな。作中で超絶のメタツンデレ発言をやらかしてくれるので、そこはぜひ見てほしい。

 

このあたりの、弥生がナチュラルな魅力を放って、成長していく、という描きは、とても率直で、よきものでした。ナチュラルに女ひっかけていくとこもな!w

 

ただ、メインヒロインたる千架をめぐる、後半部の雪美(せつみ)とのやりとりに関しては、ちょっと点が辛くなってしまいます。

いえ、「千架×弥生」がうまく機能していない、ということももちろんですが、まあ千架が雪美に惚れてる、というとこも、物語としてはおkなんですが。

しかし、ここからの雪美の計画を弥生が補助るにせよ、千架が補助るにせよ、どっちも悪手を踏んでるんですな。もちろん悪手を踏むからこそ、物語が進行していくんですが、ここで描くのが、これまでなんだかんだで「千架×弥生」が通低音として存在していた百合ものだっつーのに、後半部から「雪美×千架」にシフトする。

で……シフト自体も、実は問題はないんですよ。百合のパターンとして、まあ安直な表現出しますが「昔の女をどう振り切るか」のパターンですから。

でもそこで、「千架×弥生」のカプの存在感が、急激に失せる、というのはどうか、とぼくは思ったわけです。いづれ振り切られるべき「雪美×千架」を片付けながら、一方で新たな芽吹きとしての「千架×弥生」を描いてくれないと、ラストのあの印象的な「これからよろしく」の一枚絵の魅力が数割減ですよ。あの絵ほんっとーにイイんですからっ。

 

ようは、恋の永続感がどうもちょい弱い、ってとこです。

ここで「Euphoric Create」というタイトルのことを言及しますが、Euphoricは「幸福な」を意味します。幸福を作っていこう、というメッセージ。あるいは「幸福の作り方」というメッセージ。さて、euphoricの名詞形として、Euphoriaというのがあります。これは(一時的な)強い幸福感、という意味合いがあります。ドラッグを想起させますね。このあたりの言葉の両義性を踏まえて、この英語を使ったのでしょうが、永続感が弱い、となると、これは「一時的な強い幸福感」というところに落ち着きはしないでしょうか。

そこが惜しかったなぁ……という感想です。

さらにいえば、「千架×弥生」が弱い、ちうよりは、後半部の「千架のキラメキが弱い」「後半部の千架の堕ちっぷりが、キラメキとあんま対比させられてない」といえるかもしれません。

 

あとは、ラストの「幻想具現化バトル」ですね。……うーん、ここは……正直そんな燃えなかった。まあでも、基本的にドラゴンボールにおける元気玉、って感じなんですが、そこをバリ元気玉っぽく「絆っ!」って感じにならなかったのは、まあいいかも……。

 

 

後半部、くだくだいいましたが、それでも文章……というか、弥生が前のめりにしっかりと悩んでくれるので、文章は先に読ませます。

そう、ひたすら実直に弥生が悩んで悩んで、っていうゲームです。これは。

ラストは、後味がいいですよ。結局悪者はいなかったんだ、っていう。でも、千架のカリスマは、やっぱり「消えてはいない」とぼくは想像したいのですが。

まあこのあたりは、この世界観、シリーズものとして展開してくみたいなので、いつかはこのカプの後日談を見てみたい感じもありますね。

 

点数は、エロスケ換算だと、78点。

以外なほど、なやんでなやんで、って話なわりには、ダルさはないんですよ。それは、キャラの個性が実に生き生きとしていて、キラメキが見えるからですね。屈託を抱えながらも、弱さを抱えながらも、幸せの形、ひとと人との交流の形を模索し続けることに意義がある、っていう思いは受け取りました。