残響の足りない部屋

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ひづき夜宵「つい×つい~Twins×Twins~」第一話感想と、八卦電影城の特質考察

つい先日ですが、ひづき夜宵氏が、新しいweb漫画サイト「とわコミ!」にて新連載をはじめました。

tridentworks.co.jp

 

 

個人的にひづき氏の「オリジナル新作漫画」は非常に待望していたのでうれしいのです。
というわけで、この際だから自分のひづき夜宵=サークル・八卦電影城ファン歴を思い返すとともに、新連載「つい×つい」の感想を書きたいと思います。だって公式サイトの感想コメント欄、長文書けないっぽいから……(やるなよ3000字)(この文章の文量デス)

 

●エロゲSD原画・コミカライズの領域で


主にひづき氏は、商業において、「ゲームのSDイラスト」と「ゲームコミカライズ、四コマコミカライズ」を手掛けています。批評空間でのサマリーはこちら。

ひづき夜宵 -ErogameScape-エロゲー批評空間-

SDイラスト原画では、最近作ではエロゲ界の鬼っ子・すみっこソフトの新作での仕事もあります。
が、とりわけ個人的に記憶に残っているのが、小ネタたっぷりの「不定期Ricotta通信」でして。

 

まるで瓦版のような、Ricottaの「ワルキューレロマンツェ」関連のニュースを、かわいく、情報量ゆたかに、かつ小気味よいクリスプなネタでもって描かれてました。結構これTLのRTで流れてくるの楽しみにしてました。

 

記憶に残っている、といえばゲームコミカライズ。一般的には「Rewrite」の四コマの方が有名かもですが(「OKA☆KENブログ」)、
実は、わたくしが個人的にひづき氏の名前を記憶に留めた最初は、「恋姫†夢想」のコミカライズ。
原作キャラを、アクション多めのストーリー中で動かしやすいようシンプルに漫画デザイン。それでいて勢いの良い線でまとめて、キャラの可愛さを保ちながらちゃんとした戦国絵巻を、公式ストーリーに乗っ取ってやっていこう!という気概がありました。なので、その当時の雑誌「電撃G's Festival! COMIC」の中でも、結構記憶に残っていたものです。

 

●艦これロシア&レシピ同人誌

そんで同人のほうでは、これはもう「ロシアと料理レシピの艦これのひと」と目されているようです。
現在艦これやラ!(ラブライブ)同人……のなかでも、ちょっと変わった趣向の同人誌を多くドロップされているひづき氏。
それは主に響(ヴェールヌイ)を主役にした「第六駆逐隊」ものですが、この題材が……ご本人のたゆまぬロシア愛による、ロシア語講座、ロシア旅行記というものです。これはもう艦これ同人のある種の極北というか。当然ながら内容はいたって楽しく、ぼくのような旅行記好き(中学の時分に沢木耕太郎深夜特急」にヤラれて以来……)には非常に面白いものでして。


集めておりますよこのように

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「エロゲでSD書いてるひとは大抵漫画も面白い」

という法則を前々からわたくしは唱えてまして。
実名で例を挙げるだけでも、こもわた遙華(「ら~マニア」がいかに数年前のわたしを救ったか)、鳥取砂丘(フェイバリットは断固として「G専ラフスケッチ」だが、ええい「境界線上のリンボ」の再開はまだか)、都桜和(音楽系萌え四コマにおいて「うらバン!」が鋭く切り開いた地平よ)、そしてひづき夜宵、である。我が軍は圧倒的ではないか!

ですが、あの艦これロシア同人誌の数々が限りなく「オリジナルコンセプトに基づくもの」とはいえ、やはりひづき氏の「オリジナル作品」を読みたい、という思いはありました。

 

●「ピコっとチョコラ」とひづき時空

 

というのも、彼女にはオリジナル処女作「ピコっとチョコラ」がありまして。
この漫画の地味なファンであるのですわたくし。

 

ピコっとチョコラ1 (Flex Comix)

ピコっとチョコラ1 (Flex Comix)

 

 

内容は、「浪人生三人組のもとに魔法少女三人組が次々やってきてガヤガヤ」と一言で表してしまえばそうなのですが、しかしひづき氏処女作から最近作まで振り返ってみて、この時点(2008年作品)特徴的な部分がいくつもあるのです。

  • 動と静を使い分ける漫画的技量(シラっと爆弾発言をカマしたりアクションをカマしたりするとこ)
  • 加えて「あと一歩のアクセルをためらいなく踏み込む」オーバーアクションがかわいい(キャラに無理をさせていない)
  • 描線による時間の流れがほっとする

一番最後が「?」と思われるかもしれませんが、詳しく説明します。

ひづき氏のイラスト、漫画の線はキャッチーなものであります。スレンダー、ロリ傾向の少女を描くシチュが多いだけに、線は清冽。しかし時として「ちょっとシャープであっさりしすぎてない?」と思わせる「こってり感のなさ」があります。
ですが、漫画とは面白いものです。その「こってり感のなさ」が、おだやかな漫画内容、かわいく立ったキャラ、それでいてアクション豊かな描写と相まって導き出されるのは………
………ひづき漫画・イラスト本の特徴は「静かで清冽な線のキャラたちが、ややテンション高めに動くことにより、漫画・イラスト全体が生き生きとしてくる」ということです。
ひづき氏の作品には「無限の広がり」はないけれども、絵葉書などの一枚絵にも似た、ある切り取られた空間の中において、実に居心地のよさそうな時間・空間の流れを、ひょいっ、と簡単にこっちに出してくれる。

 

同時にひづき氏は「余白」の使い方が実にうまい。うますぎる。
余白のない、空間恐怖症気味のきつきつイラスト、というのは、ひづき氏の漫画にはありません。
背景を書くにしても(ロシア本を思い浮かべたり、あるいはレシピ本でもいい)、ぽっかりと空気をそのまま描くような「余白」を残す絵であったりします。
これが、ほっとする。ああ、ここにはちょっと優しい時間が流れてるんだな、という感じで、延々と「ピコっとチョコラ」やロシア旅行本を読んだりしてしまうのです。

 

●新作「つい×つい~Twins×Twins~」

さて、長々語ったところで。

今回のひづき氏待望のオリジナル新作は、「ダブル双子姉妹」ものです。

双子の「似てない」姉妹が、お隣さんの「似てない」双子姉妹との、ダブル双子姉妹・ほのぼの日常コメディ……百合はあるのか!百合は!ええい!はよ!はよ!(バンバン!<机

うまいな、と思ったのは最初のページの「実によく似た茜と葵」の描写から、次のページでドン!と「かわいく似てない茜と葵」というダイナミックな対比でございます。姉妹ここにあり!このかわいさのキャッチーさを当たり前のように描写するのはさすがです。

とはいえ、これまでのひづき氏の美点……アクション多彩なのと、同時に優しい時間の流れ方。画面もいつものほっとするひづき画面であります。

しかし……難点があるのも事実。いきなり四人を「キャラが立つ前に」放り込んだこともあって、ネームにおけるセリフの過積載が目立ったというのも。

「ネタの過積載」

それを考えてみれば、「ピコっとチョコラ」にも「恋姫コミカライズ」にもその傾向はありました。ここのところで一枚絵艦これTwitterイラストでの「情報量が多くありながら余白がある」という、「静かなるキャッチー」を何度となく見てきたので、当たり前と思ってましたが、ひづき氏にはこの傾向がありました。
もちろんこれこそがひづき節でありますので、さんざん世話になっといて今更足向けるかよ的な批判でありますこれは。

見かたを変えれば、新連載において非常に力を入れた、とも言えますし、力が入ってしまった、とも言えます。とはいえこの難点傾向は、第二話、第三話を見てはじめて正確に指摘できる部分でもあります。次回以降さらにキャラ増えるのだったらちょいキツいかなーという懸念は無きにしも非ず。

しかしファーストインプレッションで誰がいいか、といったら、これはもうミステリアスな、お隣さんの姉の方、深春ちゃんであります。どことなくクールでありながらユーモアを忘れない……あまり艦これ同人との比較をするのも問題ですが、さすがに響/ヴェールヌイを描き続けて、この手のキャラの魅力の神髄をつかみにつかんでいると言わざるをえんや!

 

というわけでわたくしはひづき夜宵先生の久しぶりのオリジナル連載をたのしみにしております。