残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

「火星年代記」対談読書会外伝 お疲れ様会あとがき

「本記事に関して」

 はじめまして。私、管理人の残響さんと対談ブログをやっております、feeと申します。(詳しくはこちら!

zankyofee.jugem.jp



 今回の記事は、『止まり木の足りない部屋』で連載しております、「火星年代記」の『お疲れ様会』(まとめ)として作成されました。
 ただ……対談自体は楽しくお話できたのですが、文字に起こしてみて、少し不満が出てきたのです。求められるクオリティに達していないのではないか。読者の方に喜んでもらえるレベルに達していないのではないか、と思いました。
 むしろこの記事がない方がよほどスッキリ『火星年代記』記事を終われるのでは?と私は感じてしまったのです。

 一方で残響さんは、これはこれで意義があるのでは?とのご意見。
 対談は2人でやるものですから、片方が不要と言っても片方が必要だと思えば、これはもうどちらかに決めるしかありません。
 それにせっかく対談して、文字起こしもある程度したのですから、勿体ないとも思います。

 ということで、折衷案ではありませんが「対談ブログ」の方には載せず、残響さんのHPの方に載せていただくことにいたしました。
 一人でも多くの方が、この記事を楽しんでいただければ、幸いです。どうかよろしくお願いいたします。

 

ーーー

(ここから残響)

……以上、対談読書会のお相手をして頂いている、ブログ「止まり木に羽根を休めて」管理人・feeさんからのご説明でした。ありがとうございますfeeさん。
 それでは以下、レイ・ブラッドベリ火星年代記』読書会のお疲れ様会トークのあとがきでございます。ごゆるりとお楽しみください。

 

赤文字fee
青文字:残響

 

●「火星年代記」お疲れ様会あとがき


☆お互い、評価を見せ合う!


fee「じゃん! ほー……ほー……二人の評価が高いのは『第三探検隊』、『夜の邂逅』、『火星の人』、『長の年月』、『優しく雨ぞ降りしきる』、『百万年ピクニック』の6つ。これがビッグ6ですね。最高評価はお互いがSをつけた『長の年月』と」

残響「ビッグ6ですかw 偉大なる火星の六芒星……(違」

fee「で、お互いの評価が分かれたのはそれほど……」

残響「低評価作品の話をしますと、ぼくの方では『これはハズレだー!デストロイ!』という作品はありませんでした。feeさんの方は『火の玉』がダメでしたか、やはり」

fee「『火の玉』はハズレですねぇ」

残響「それでも、【E評価】というほどひどくはなかったと」

fee「今までの火星人とは別種の、火の玉みたいな火星人が出てきますよね。イメージの広がりという意味では良かったと思います。ただ、それは善し悪しというか。この一作があるばっかりに火星人が何種類もいるという、収拾がつかないような設定が生まれてしまった面もあり……。
後は、『火星年代記』全体に漂う、西洋文明の異文化侵略臭を強化するという意味合いもありますね。お互いの評価が分かれたのは『緑の丘』以外には……『沈黙の街』か。ジェヌヴィエーブかw」

残響「お察しの通り、まさにヤツですw あれはドタバタコメディとしては良作で面白いとは思うんですが、個人的好みとして、ぼくは好きではないな……と」


☆小説文章の脳内ビジュアライズ、情景描写とアクション描写

 

fee「順番に見て行きますか。『ロケットの夏』は結構高いですね」

残響「イメージ……脳内の【画(え)】が良かったですね」

fee「前回の『太陽の黄金の林檎』の表題作と同じタイプで、イメージ作品ですよね。僕、このタイプの作品はちょっと読みづらいんです」

fee「TLのフォロワーさんでも、『ここだけ読んで投げてしまった』と言っていた方がいたけれど、ちょっと読みづらいんだよね。2ページだからいいけど……」

残響「テキストで読んでタイプの読者と、映像で読んでいくタイプの読者で違うのかもしれません。ぼくはほぼ完全に映像で読んじゃう人間なんですね。文章を読み込むと、パっと映像が頭の中に焼き付いてしまうんです。イメージさえ良ければ、【画(え)】さえ良ければそれでいい、みたいなところはあります」

fee「僕は完全にテキストで読んじゃう人間ですが……SF読者には、残響さんのようなタイプの読者も多いという話を聞きますね。故野田昌弘氏……ガチャピンのモデルになったと言われている方なんですがw 『SFは絵だねぇ!』という名言を遺しています」

残響「それは素晴らしい名言ですね。五臓六腑に染みる、もとい肝に刻みたい日本語です。 ――ただ、絵で見る人の欠点は2つありまして。1つは、すべてのシーンを画として脳内に立ち上げるため、ものすごく読むのが遅いんです。舞台・小道具・キャストをビジュアルで想像しなくちゃならない」

fee「うん」

残響「もう一つダメなところは、気持ち悪いところや汚いシーンも、勝手にイメージしちゃうんです。具体的に言えば、『沈黙の街』の不潔なジェヌヴィエーブを克明にビジュアルで思い浮かべちゃうんですよ。頭の油のてかりとか……そういうのをイメージして気持ち悪くなっちゃうんです」

fee「ほぉぉ……なるほどねぇ。それは、基本的には良いところだと思うんですけどね」

残響「基本的にはね。でも行きすぎるとちょっとね」

fee「僕は逆に情景描写が苦手なんですよ。情景描写が巧い人はごくごく稀にいて、そういう人の描く情景描写は伝わるんですが……ごくごく巧い一部の作家さん以外の情景描写は、僕にとって何の意味も持たないんです。『たんぽぽが咲いていて街並みは~』みたいな文章を延々読まされても、『いいから、次! 次!』みたいなね」

残響「はっはっはw」

fee「たぶん興味関心がそこにないんですね。自然の事物にはあまり興味がなくて、ドラマというか、展開されていく物語に興味があるので」

残響「映画とかでも、一枚のカットを提示されて『おっ』と来る人と、役者の演技・セリフ・心理表現で『おっ』となる人の違いもありますね。あと、これは少しズレますが、風景描写が巧い人ってアクション描写が比較的苦手だというイメージがあるんですが……」

fee「えっ、そうなの? むしろ風景描写が巧い人はアクション描写も巧くないですか?」

残響「ぼくが好きな某ラノベは風景描写は巧いけど、アクション描写が下手なんです……」

fee「うーんw まぁそういう作家さんもいるかもしれないけどw 僕の印象としては逆で、風景描写が巧い人はアクション描写も巧いんじゃないかなと。肉体の動きを描写するのと、風景を描写するの……つまり視覚的なものを描写するのが巧い人と、心の内面を描写するのが巧い人に分かれる気がして。僕は後者の方が読みやすいです。心情垂れ流しをしろというのではなくて、情景を描くなら、そこに人間心理を混ぜ合わせてほしい。人間心理と関係のない情景描写には興味が湧かない、といった感じでしょうか。根気の問題かもしれません」

残響「描写自体が下手だ、という可能性もありますけどね。【書き割り】を見ているようなしょうもない情景描写もありますもん」

fee「自分にとって凄く珍しい風景とかだと、ちょっと興味が湧く事はありますね。江戸川乱歩の『パノラマ島奇譚』を読んで、素晴らしい情景描写だなと思ったので、例外はあります。ただ、全体としては苦手なタイプの作品です」

 

☆「火星年代記」序盤~中盤、個人的物語シチュエーションツボ

 

fee「残響さんは『イラ』の評価が随分低いですね。僕は『ロケットの夏』でピンと来なかったので、『イラ』から『火星年代記』が始まるんですよ」

残響「なるほど。ぼくの場合は『ロケットの夏』でスケールの大きな【画】にガツンとやられたんですが、『イラ』ではその、スケールが小さくなっちゃったかなと」

fee「僕は、ようやく作品世界に入れたw みたいな。だから、さっきちらっと出した【ロケットの夏で挫折しちゃったフォロワーさん】も、『イラ』まで読めばいいのにって思っちゃったわけです。
ロケットの夏』はロケットが飛んでいるだけじゃないですか」

残響「まあ起こったイベントとしてはw」

fee「まぁそれが美しい絵ではあるんですけど。『第三探検隊』は子供の頃の兄貴とのじゃれ合いとか、そういった人間ドラマが描かれているので、感情移入しやすいというか、『美しい絵』を堪能しやすいです。あと最後のホラー展開もいいです」

残響「そうそう。あれは良かった」

fee「しんみり系+ホラーというのは、僕が考えているブラッドベリ作品の二大長所なんですが、この作品は両方の味を楽しめる素晴らしい作品です。『長の年月』と並ぶ、今回のベスト短編だと思っています」

残響「なるほど……なるほどね」

fee「『月は今でも明るいが』は、単純に作品として素晴らしいというよりも、この後の『火星年代記』に登場してくる人物たちがオールスターで登場する作品なので」」

残響「いわゆる【キャラ性重視】な作品ですよね」

fee「ここから始まったところがありますよね。『長の年月』のハザウェイさんや隊長、『オフシーズン』のサム・パークヒル。この話だけしか登場しない反逆者スペンダーとか、ピグズとか、個性溢れる面々が揃っていて豪華なんですよ。よくわからない西部劇風の決闘シーンもありますし、嫌いになれない作品なんですけどw」

残響「この微妙なSFマカロニウェスタン風味、確かに嫌いになれないですねw」

fee「『緑の朝』をあまり評価していない理由は『ロケットの夏』と一緒です。絵だけなんで……」

残響「対抗するわけじゃないですけど、ぼくが『緑の朝』を評価している理由も『ロケットの夏』と一緒ですw」

fee「まぁわかりやすくていいんじゃないですかね。どういう作品が好きかという。ちなみに、『緑の朝』的な情景描写のSFというと、『地球の長い午後』が思い浮かびます。僕は読みにくかったです」

残響「アウッww」

fee「『夜の邂逅』の評価が高いですね」

残響「これは素晴らしい。本当に素晴らしい。ぼくの物語的……シチュエーション的ツボというか。地球人と火星人が2人とも紳士的なんですよね。気のいい優しい人たちが出会って、ウマが合って楽しく話し込んでいく。『あなたもですか』『おや、あなたもですか』みたいな、そういう会話が昔からめちゃくちゃ好きなんです。本来的には交わることはないけれど、なんかウマが合う。そういうシチュエーションが凄く良いです。あと、夜というのもいいですね。『昼の邂逅』だったらあまりピンと来なかったかも」

fee「確かにそうですね。僕はちょっと残響さんとは評価ポイントが違って。幽霊とか、時空を超えて人と人が交わるみたいな話が大好きで。対談記事で話した『FF10』もそうだし、『思い出のマーニー』もそうだし。『トムは真夜中の庭で』、『ある日どこかで』など挙げればたくさんありますが。時代が違って、本来は一緒になれないキャラクターが、別れを前提に触れ合うみたいなシチュエーション、展開が大好きなんです。幻想的な感じがするんです。僕も夜にその辺を歩いてたら、なぜか70年前のアフリカの部族の人と会ってね。なぜか日本語で話したりしたら楽しいかなとか。そういうね。夢があっていいじゃないですか。ファンタジー世界というか。読んでいてワクワクしますね」

 

☆中盤、物語のツボ2、ゴシック雰囲気趣味(だからこそ)

 

fee「『第二のアッシャー邸』ですけど……これって別に『火星年代記』に入れる必要性がないですよね?」

残響「確かにw」

fee「『華氏451度外伝』みたいな。なんか浮いてるような……」

残響「最初はゴシックっぽい印象があったんですけど、途中からドタバタというかスラップスティックっぽくなっちゃったというか」

fee「こういう作品は残響さん好みなのかな?と勝手に予想してたんですが、そういうわけでもなかったんですね」

残響「いや、確かにゴシックは好きなタイプなんですけど、肩透かしを食らったというか」

fee「好きなタイプの話だからこそ、もっと巧く書いてくれよ!みたいな?」

残響「そうですそうです。それが結構あります」

fee「話を聞いていると、残響さんは『怪奇小説』っぽいものが好きそうな印象があるんですよ」

残響「ですね。実際のおどろおどろしい怪奇・猟奇の行為や描写というよりは、そういう濃密な怪奇的・猟奇的・幻想的な雰囲気が好きなんですね」

fee「『第二のアッシャー邸』で大猿が出てきた時、絶対残響さんが気に入ると思ったんですよ。大猿がお嬢さんを殴ったりしてるの、面白くないですか?」

残響「wwwww(声にならない爆笑) 難しいところですねw」

fee「大猿じゃなきゃ面白くないと思う。殴ったというのも良い」

残響「『第二のアッシャー邸』というタイトルもゴシック的にいいんですよね。だからすごい期待したんですけど……」

fee「『火星の人』は評価高いっすね」

残響「これも残響的シチュ趣味というか。年老いた夫婦が、悲しい感じの雰囲気で子供をかわいがる話もぼく、大好きでして」

fee「w 僕も嫌いじゃないけどw」

残響「ドタバタしてるのに妙に悲しくなっちゃう、ドタバタシーンがあるからこそ悲しみも増す。そういう相乗効果を感じました」

fee「僕は、この話はちょっとドタバタしすぎたかな、と思っちゃったんですよね」

残響「まあ、確かにそれはわからなくもない。匙加減が微妙なところですね」

fee「途中までしんみりしてたのが、段々ね。『市長』ネタとかw 誰だよ、市長を求めてた奴ww」

残響「あれは【ブラッドベリ=天然】でしょ? ウケを狙って書いたんじゃなくて」

fee「僕もそう思うw あと、個人的に前回の読書会でやった『太陽の黄金の林檎』収録の『歓迎と別離』にちょっと話が似てるんですよね。しかも『歓迎と別離』の方が好きという……」

残響「あぁ……確かに……。それを言ってしまえばぼくもそうなっちゃうんですけど、まあ前作の事は度外視してこれ単体で評価しましょうw(提案)」

fee「分かりましたw」

 

☆終盤、ブラッドベリ的蒼色宇宙

 

残響「これは自分の勝手な【画】……というかイメージとしての色彩感覚なんですが、ブラッドベリの宇宙というのは、真っ暗ではないというか。地球と火星の間に風が流れていて、宇宙は闇ではなく蒼~藍なんじゃないか。そんな感慨を『長の年月』から抱きました」

fee「真っ暗ではないですよね。確かに蒼っぽい。宇宙を完全な孤独の場としては書いていない気がするんですよね」

残響「なるほどなるほど。確かにそんな感じです」

fee「ハインラインの『宇宙の孤児』とか、クラークの『2001年宇宙の旅』とかで描かれる宇宙って、真っ暗な印象なんですよ。宇宙船の中だけが明かりで、その外側には圧し潰されるような闇が広がっている。息が詰まりそうな感じがするんです。でもブラッドベリの宇宙は、ドラえもんとかもそうですけど『向こうに流星群が見えるぞ!』みたいな……」

残響「ブラッドベリ的宇宙って、海に関連しているような気がするんです。モチーフというかメタファーというか」

fee「まぁ、元々火星を新大陸に見立てているような気もするので……」

残響「そうですよね」

fee「『長の年月』っぽい作品なら、僕はクリフォード・シマックをお薦めしますよー。穏やかでちょっと寂しいけど、暖かい生活みたいな」

 

☆終盤、ポストアポカリプス的未来観

 

fee「『優しく雨ぞ降りしきる』……僕はこれは、『クロノトリガー』を連想しました。AD2300でしたっけ? ロボがいる世界……」

残響「あぁ、はいはい。いわゆる、最近よく聞かれる【ポストアポカリプス】というか、世界滅亡後の静かな生活が描かれる作品ですね。原題が『There will comesoft rains」になっているんですけど、『雨がやがて優しく降ってくるだろう。そしてすべてを洗い流すだろう』みたいな意味にもとれる……と個人的には思うんですよ。実際の天気というよりも、象徴的な意味が強いと思いました」