残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

音楽の旅の路上にて ーー最近聞いている音楽、カナリヤさんへのお返事その2

※この記事は、以下の記事

modernclothes24music.hatenablog.com

の、コメント欄からの発展・続きです。

 

カナリヤさんへ


心よりのコメント、どうもありがとうございました。本来、この記事内容は、コメント欄ですべきものなのですが、こちらも返信に即して、ご紹介したい音源が結構ありまして、それはコメント欄よりも、はてなブログ本文の方が機能的に(とくに音源張り付けで)都合が良いのですね。なので、こちらの記事にて失礼させて頂くことを、まずお許しください。

 

明治時代の日本に、国木田独歩という小説家がいました。自然主義(明治時代のリアリズム文学)を志向していた真面目な作家ですが、自然主義の作家の中で独歩だけは「時折空中に舞い上がっている」と芥川 "Loser on the Real lifetime-edge"龍之介が評していました。

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独歩の小説の地味な短編のなかに、「牛肉と馬鈴薯」という作品があります。
小説は、人生論を戦わせる論者どものバトルな内容で、主に「牛肉派(現実派)」と「馬鈴薯派(理想派)」に分かれて議論をしあいます。そこで、最後に出てきたある人は、「僕はそのどちらでもなく、ちょっと不思議な願いを持っている」と話し出します。その願いとは、「僕はただ、びっくりしたい」のだ、という話です。事実や真実や秘密を知りたいのではない。死とか生とか宇宙とか音楽、それ自体にただ「びっくり」したい。という願いなのです。死に到る理屈、病理学を解明したいのではない。死ぬっちゅうその事実自体にびっくりしたい。
牛肉派も馬鈴薯派も、この「びっくり」派の男の発言に、非常に微妙な反応というか、「なんだそれ」みたいな反応しかしませんでした。だいたいこういう内容です。

カナリヤさんの「感銘を受けたい」というお言葉で思い出したのが、上の「びっくり」のお話です。そして、自分が音楽の旅に出るというのも、さらに分解するというか、真理を言えば、「新しい音楽にびっくりしたい、聞き惚れたい」というものです。だって、新しい曲に惚れたら、新しい音楽家の作品に惚れるかもしれないじゃないですか!(当たり前) 新しく惚れたバンドには、さらなる名曲があるかもしれないじゃないですか!(当たり前)


そう、当たり前といえば、当たり前。しかしこれは音楽人生をかける価値のある定理です。旅する己の人生を諦めなくて済む理由です。これだけで、我々は自分を破壊しなくても良い理由を拵える事が出来る。だからこれは陳腐と言えるはずがない。

「影響」ということでいえば、自分はカナリヤさんがオルタナであってよかったと思いますし、今もオルタナ道を歩まれているカナリヤさんの佇まいが、実に自分の緩んだ心と身体をキックし、襟を正してくれます。その存在感の自分の中の量と質は、変なたとえですが、気骨ある音楽雑誌のバックナンバー数年分と同じだと思っています。例えば、カナリヤさんはここでpillows、ART-SCHOOL、ユニゾンの3バンドから得た影響を端的に述べられています。それはカナリヤさんの私的な心象風景ですが、自分から見たら、「納得のいく人生」の重みをそこに見ます。

思えば自分はどうして「全世界全時代全ジャンルの音楽を聴こう」と大学時代に心を決めたのかは、実はいまだによく覚えていません。ただ確かなのは、その時にスピッツナンバーガールやZAZENを聞いて、このバンドメンバーたちは凄かったぞということ。ジャズを聴きはじめて、「魂の親友」「自由精神」どもはここにいたのか、と発見したこと。the Clashを聞いて、全世界の音楽はどうやら深く広いらしいぞ、と気づきワールド音楽に没入していったこと。そのどれもが、あまりにも嘘でなさすぎる。
なので、自分も今、まさに、音楽を聴き、嘘でない自分の実感の感動を、大事にしようと思いました。あまりにも単純な物言いですが、本当に、本当に、カナリヤさんの仰るところの「感銘」、独歩が言った「びっくり」を、世界の音楽の広さと深さを通じて、自分は本当に大事にし続けたいと思います。それが、残響が行う、ウィルス病理社会に対するささやかな反抗です。絶対自分は、自分のホームページを、コロナウィルスブログにしないぞ。のんきに音楽やおもちゃの話ばっかりをするぞ、と心に決めております。


そんなわけでその実証というか、お聴かせくださった音源に対する感想と、自分が最近聞いている音源の紹介をさせてください。よろしくお願いします。今やってるこれこそが、まさに音楽の旅路そのものであります。

●THE VOCODRERS(カナリヤさんのおすすめ)

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ポリシックスのPとは、基本的にピコピコ音のPですが、さらに分解すると、2つのPが見えてきまず。まず、バンドサウンド「攻撃性」。つまり「ピッピキピッピッピー!」のPです。逆に長くなってんじゃねえか。
もう一つのPは、「ポエジー(詩情)」のPです。例えば、残響がマジ好きな「Black out Fall out」

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のように。攻撃性だけでは説明のつかない、メロディを中心とした妙な哀感、ノスタルジー。これもまたポリの魅力のひとつです。
ある時期以降……おそらくカヨ脱退のあたりから、ポリは攻撃性のPを重視してきました。例えば「MEGA OVER DRIVE」のように。その攻撃性のPは、大文字のPというか、なんともマッシヴになり、圧があり、マッチョともいえ……ヘナチョコなポリが、かなり減退したのも、事実です。それの何が悪い?世界で戦うポリに弱さなど?
しかしもちろんカナリヤさんはご存じのわけです。ポリのヘナチョコさもまた愛しく、それこそがポエジーのPであると。


どうも、ポリシックス=ハヤシは、この2つの要素を、これまで「自覚していなかった」のではないか、と思ってしまう残響がいます。ハヤシの分析力は確かなものですが、しかし、無意識に見逃している部分が、時折見られると思うのは、自分の思い込みでしょうか。しかしそこはペンディング(議論保留)としましょう。ともかく、この「THE VOCODERS」ですが、ハヤシが「攻撃性」のPをポリシックス本隊に、「ポエジー」のPをこちらに盛り込んでみて分岐させてみた、という仮説を自分はとっています。だから、ポリ本隊とヴォコーダーズ版のアレンジが同じ曲で両方あるのではないか、と。
そして、ハヤシがこの2つの自らのバンドの魅力を自覚したのは、完全に俺得なのです。なぜなら、自分の一番好きなポリの曲は、攻撃的なサウンドの中に、ポエジーなメロディを盛り込んだ「Baby BIAS」だからなのです。

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アメリカ民謡研究会(カナリヤさんのおすすめ)

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おお、ブルーグラスとか、ミシシッピブルースとかのアメリカ音楽古典、あるいはライ・クーダーとかのアメリカ古典再発掘アプローチ、もしくは「アメリカーナ」的なルーツ音楽ごった煮か……と思ったら、全く、まったく違うのですね!w

それでも。これは、良い。とても、良い。
自分にしても、実はボカロを通過してこなかったのですが(ナユタン星人に関しては大ファンではありますが)、だからこそ「ここには鉱脈があるなぁ」と思っています。これから掘っていくのが楽しみです。そしてこうして紹介してくださって、自分は今すごい幸せなのです。
エフェクターと生演奏を使って、ループ・サンプラーでもって楽曲を構築していくのは、例えばMark McGuireやDustin Wongのように、1本のギターとエフェクターで繊細で壮大なサウンドスケープを描いていくのは存じておりました。

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しかし、このアメリカ民謡研究会で鳴らされている「ガチの攻撃的歪みバンドサウンド」というのは、衝撃でありました。Death from above 1979やRoyal Bloodのように「歪ませたベースとドラムだけ」のバンド編成がこの場合最小か、と思っていた歪系バンドですが、こういう方法もあったとは。というかこの歪みベースギターと各音の構築性がすごい。

ーーーと、ここまで書いて気づきましたが、自分、ボカロ(ボイスロイド)について語っていない!w しかし、ボカロの方までメロディアスになられてもむしろ困るかもしれません、この曲の場合。


ところで、カナリヤさんにこのボカロ曲をお勧めしてみたいと思います。自分がこの「リフの天才」作曲者の曲の中で一番好きで、あまりにもエモーショナルで、ポップで、疾走バンドサウンドで、最高の曲です。

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ナユタン星人のリフの天才性について語るとしたらすごく長くなるのでここでは割愛しますw

 

人間椅子EUツアー

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東北青森津軽にて産まれ、70年代ヨーロッパロック……ハードロック・プログレッシヴ・ロック、とりわけブラック・サバスに影響を受けて結成した幼馴染みコンビ(仙人ギターと怪僧ベース)。東京で90年代から活動を続け、怪奇・幻想・猟奇・屈託・ユーモア・コズミックホラー・土着のあやかしの文芸歌詞を、上記70年代ハードロック/ドゥームメタルに乗せて歌う3ピースバンド。その道のりは苦難の連続で、売れなくなってからはバイト生活。それでもバンドは一度たりとて休止せず。悩み、苦しみ、そして「美しく生きたい」と悟りを開き、いつしか古参ファンも、新たな若いファンも共に熱狂するように。さらには去年から海外のファンが急増し、この旅ヨーロッパツアーに出ることが出来たのです!(ドイツ×2、イギリス)
見てくださいよ、津軽の土着幻想が、51歳の3人が、なまはげが、三味線ギターが、ブラック・サバスの國を揺らしているんですよ!

 

●ザ・リーサルウェポンズ

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このところ、vaporwaveの発展というか、80年代リバイバル(バブル期レペゼン)の潮流が甚だしいですが、その真打ちというか。こないだ出たep、その名も「E.P.」買いましたよ。ジャケットは「E.T.」のパロですよ!(そういう意味)

音源のネタ度合いとさりげない(?)社会風刺、キャラの立ち具合。でもここではポイントを一つに絞って、「コールアンドレスポンスを最大限取り入れた楽曲」で。
なにせ、ライヴがこれです。

 

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こいつらのライヴは、ほぼ最初のワンマンの時からこれでした。ラストはステージに「2,30人くらいカモンプリーズ」で上げて、大合唱です。


コールアンドレスポンスがロックバンドの「大正義」とノータイムで言い切れるかは、大いに疑問です。とくにユニゾン田淵は、その論調にめちゃくちゃ反抗していますし、自分もその徒です。

ですが、ここまでコールアンドレスポンスを「取り入れ」た楽曲に惚れてしまったら、やはりアーニーキ!アーニーキ!

 

●パソコン音楽クラブ

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上記のようにvaporwaveの流れで、シティポップ音楽が再評価されています。このパソコン音楽クラブは、ホムペまで見て、初めて体験が完成されます。

pasoconongaku.web.fc2.com


日常の中に、実は異界はある。あまりに当たり前に見過ごされていた風景こそが異界なのだ、と。ポリシックスより古いハード音源(ハードオフで10000円以内で買ったやつ)を駆使して、都会の夜のうっすらした空気の孤独の美を歌います。こんなに人がいるはずなのに、なぜか孤独な自分の不思議を。


●花譜

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Kafと読むバーチャルシンガーです。しかしカナリヤさんには「オルタナ」として勧めます。


いわゆるVtuber文化の中から出た、ヴァーチャルシンガー。自分は本当にVtuberには詳しくないです。いまだに「にじさんじ」が何だかはよくわかっていません。これはたぶんオルタナ聞いててナンバーガールを知らないレベルなんですよね……。

それでも、このティーンエイジャー・シンガーは本物だと思ってやまない。「いわゆる歌の上手い歌手」の定義からボロボロこぼれ落ちる「旨さ、真の表現力」をこの娘は15歳にしてすでに持っている。声は常に震えていて、かすれていて、泣きながらのよう。そこに真実があるんだと。その「弱さ」そのものを歌う。

どうにも自分は、この歌手を聞いていて、the Clashジョー・ストラマーを思い出してやみません。あいつ(ストラマー)は、歌は、「いわゆる」意味では上手くありませんでした。音痴の疑惑さえあります。それでも、ストラマーは、絶対に自分の親友になってくれる、と思わせる歌手でした。そして世界中の音楽を愛しきっていました。

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ボブ・マーリーの曲を歌うストラマー)


なんでこの15歳がこんなに傷つかなきゃいけないのか、と思うのは自分が歳をとったからか。それでも、この娘は、ボカロをナチュラルに「師」とし、ボカロに学び影響を受け、自分の歌唱をつくった。それが自分で、その自分に嘘をつけなくて、自分はここに居るんだ、と、痛々しいまでに青い感情を歌う。


カナリヤさんに受け入れられるかはわからないです。年齢や、時代感覚(アクティビティ)のこともあります。でも、個人的には、この娘の「オルタナ」を、カナリヤさんがどう思われるか、聞いてみたいです。

 

Creepy Nuts

えっこんなにリフが良かったのDJ松永のビート、&、えっこんなにフロウに歌心があったのR-指定のラップ(関西の出自が味をもたらしている)、という驚きで、最近よく聞いています。
卑屈&ひねくれが極まっている、情報量過多のトラックも素敵ながら、

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卑屈&ひねくれをシリアスに沈み込むようにラップするトラックもまたオルタナティヴ。

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それからこのライヴのDJプレイ&MC煽りが最高すぎて。

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フジファブリック「夜明けのBeat」

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後半部でバンドメンバー全員が無表情な理由は。シンガー・志村の映像を使っている理由は。
森山未来がここまで焦燥的な理由は。この曲が、どこまでもデモ曲でしかない理由は。

もう、10年になりますか。逝ってから。

 

●物凄いヴァイブスで魔理沙が物凄いラップ

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東方アレンジのビートに、高速ラップを載せるユーロビート。いや、自分は、音楽を聴き始めた一番最初がmoveでして、motsu的な煽りラップ口上が大好きでしょうがないのです。オルタナオルタナいってて、最後がこれ、というのはアレですが、好きなものは好きなのだからしょうがない!この表明こそがオルタナティヴ!