残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

過去日記抜粋2008年分

081024
絵の真の見方は時間をかけてじっくりと見ることにあるのですから(「インフォメーションの咀嚼」なんてクソです)。絵画鑑賞はあらゆる芸術鑑賞の中で最も簡単に出来ます。しかし、いやそれ故に、真にその絵を「感得」するには時間がかかるのです。つくづくそう思います。

081120
山名沢湖氏の『つぶらら』全四巻を読み返しています。改めて思うのは、山名氏はこの作品で漫画的ダイナミズムを獲得して、漫画家として大きなステップを登ったということです。リリカルでポエミィ(一辺倒)な以前の作風はそれはそれで魅力的なのですが、それだけではどこか描くものに「制限」がいずれ生じてきてしまうのは必定です。『レモネードBOOKS』後半から、氏の作風に今まで見られなかった「力強さ」が生まれているのを確かにわたしは感じていました。そして正直に言えば、わたしはそれを不満にも思っていたのも事実です。触れなば折れん、といった繊細さが失われている、と思ったのです。しかしこの『つぶらら』での飛躍を見て、その認識は誤りだったと思いました。これこそが正当進化なのです。繊細さは決して失われてはいません。あえて今はそれを見せないでおいているだけなのです。氏が今追及しているものは前述の「漫画的ダイナミズム」。言い換えればネームの強靭さです。これは漫画を書いていく上で、漫画家として進歩するならば避けては通れない道です(回避する道もあることにはあるのですが、その結果として描かれる作品が全うに成功する確率は低いといってもいいでしょう)。そして、山名氏はこの道に果敢に挑み、見事『つぶらら』という形でもって成功を収めたのです。
ラストの青空に向かって「イェイ」、これを見ましょう。この圧倒的な爽快感、開放感、そして完結感、素晴らしいラストです。これから山名氏の描くものに「制限」はありません。それだけの漫画的力量をこの作家は備えているのですから。