残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

らき☆すたSS

第一話(1)

柊かがみは読書家である。これは彼女と付き合うと自ずとわかる。何でも読む。とりわけ小説を読む。その小説も、ジャンルを問わず、面白ければ何だってのめり込む。純文学だろうがライトノベルだろうが関係ない。その面白さの前には徹夜も辞さない。
こなたがオタショップに行くのに付き合うのも、もちろん友人であり、それ以上にこなたと恋人として付き合っているからというのもある。がもう一方で、オタショップのライトノベルの品ぞろえの豊富さに惹かれている面もあるから、という理由でもある。こなたが嬉々として同人誌やオタグッズを買いあさるのにはついていけないけれど、かがみもかがみで熱心に本を物色している。この「特定ジャンルに強い」書店というのは、本読みにしてみれば極めて魅力的なのである。
「やっぱりかがみはオタ……」
「違うわよ! ラノベが好きなだけよ!」
ともかく、柊かがみは何でも読む。純文学が権威だとか、ライトノベルが低俗だとか、そういう風には思わない。クラスの人間でそういった感じに言う「文学青年/少女」がいるにはいるが、彼/彼女と親しく本の話をしてみようとは思えない。話を合わせるくらいは出来るが。彼らの思考の道筋を把握出来てしまうほどにはかがみは頭がいい。しかしそれは彼ら――いわゆる典型的中二病――にとって、何より手厳しいことかもしれない。そういった連中より、「いいものはいい!」「それは『愛』だよ!」と放言してのけるこなたの方がずっと好きだ。恋人とかいう贔屓目なしに。今となってみれば、そう思う。

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その日、かがみは珍しくひとりで下校していた。こなたとつかさは例の如く追試と補習でしっかり黒井先生に絞られていたからだ。日下部や峰岸と駄弁っているのもよかったが、あいにく彼女たちは二人で予定があるらしかった。何でも峰岸の彼氏こと日下部の兄のことであるらしい。見てみたい……と前々から思っている。
図書室で本を読んで二人を待っているのもアリかと思った。が、二人に気を使わせるのもアレだし――このあたりかがみの神経質さというか、気の回し方が表れている――第一、こうなったのも身から出たサビと言ってしまえばそうなので、珍しくひとりで帰ることにした。
そんなわけで歩いているが、元来寂しがり屋のかがみである。間が持たない。こなたやつかさがいれば、あーでもないこーでもないと駄弁ることが出来るのに……。何か寂しい。それを認めまいとするけれど、やっぱり妙に寂しい。帰ってどうしよう……勉強? それは当然だけど、何かこの寂しさのままひとりでしているのは妙な気持ちだ。そんな風に考えながら、いつの間にか商店街までやって来ていた。普通に登校・下校していれば、いつもこの商店街を横目に通ることになる。
そうだ、本屋に行こう。
考えてみたら、しばらくこっちの方の本屋には来ていなかったし(こなた秋葉原まで引っ張り回されていると、大概の本はそのルートで揃ってしまうから)、たまにはいいわよね、というか地域貢献。がんばれ鷲宮町
というわけでかがみはしばらくご無沙汰であった鷲宮商店街の本屋に行くことにした。

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「相変わらず変わらないわね……」
手狭ながら、落ち着いた空間。書棚にはぎっしりと本が置かれている。大都市圏の大型書店・書店ビルに比べれば規模は小さいが、その分だけ親密な空間があるともいえ、かがみは懐かしさを覚えると同時に、いままでおざなりにしていたのを悪く思った。
こなたに連れられるオタショップとは違い、普通の、ごく普通の本屋である。かがみも、小さい頃からよく通っていたものだった。それでも辺りを見渡せばオタ系の本が普通に置かれているあたり、時代の流れを感じるというか何というか。それでも、かがみにとってこの本屋の懐かしさが変わることはない。
ライトノベルの補充はゲーマーズなどで済ませてあるから今回は見送り。そもそもこの書店は格別ラノベに強くはないので、今回は純文学の新刊を漁ろうと思った。ここはどちらかといえばそういった方に強い。
平積みにされている新刊を眺める。村上春樹相変わらず人気ね。あ、町田康筒井康隆も新刊出してる。そうかと思えば翻訳書にはカズオ・イシグロ! ちょっと待ちなさいよ、今月大豊作じゃないのよ!
「見つけた時に買う――オタの鉄則だよ、かがみ……」
ハッ! こなたの声がフラッシュバックした。いやいや確かに真理だけど、しかし手持ちには限りがある。というかラノベにつぎ込んでしまってそこまで余裕があるわけでもない。お菓子を削る? 論外ね。かがみは悶々としだした。
と、その時、かがみの目にある本の著者名が映った。
泉そうじろう。
「え?」
一瞬、思考が停止した。もう一回みる。確かに泉そうじろう。間違いない。
「ええー!?」

(続く)