相変わらずの「やるやる詐欺」で、このレビューも数ヶ月遅れでアップする死ねばいいのに的レビュアーの残響です。ごめんなさい。
今日の音源は、金沢の異端ドラマー、異端エフェクタージャンキー「機械人間」氏の、サウンドクラウド音源です。
●序 バイオグラフィ的な
さて、轟音サミット--関西のエフェクタージャンキーたちの狂える祭典--参加ミュージシャンのなかでも、ひときわ異彩を放っていたのが、唯一石川県から大阪に参戦してきた、機械人間氏です。
(ちなみに、ほかの参加者は、このようにレビューしております。)
・佐藤善太郎氏(僕を殺す世界へ)
・村岡龍之介氏、五十嵐文太氏(深海600m)(それとこないだの未確認飛行物体レビュー)
・河村泰志氏(六階)
とにかく、この関西ディープシーンは、ポストロックとシューゲイザーとマスロックとプログレと……まあ、最初のふたつが一番大きいかな。それを、エフェクター多用で、轟音と静寂を響かせる、きわめておもしろいシーンであります。
……で、機械人間氏。
なんと、ドラムにエフェクターかける、という。
オレ、それ最初聞いたとき、「正気か?」って思いました。
ふつうドラム鳴らして、それだけで音がズンドコ響くのに、エフェクターなんてかけられるもんか、と。
で、よくよく話を聞いてみたら、電子ドラムで、と。
ああなるほど……いやいやw とさらに思った。
ドラムは生音が、ハイとローがガンガンヒットするのが本領だべ? エフェクターはギターにかけるのが「本(ほん)」だべ?
●破 音域、テクニック
まあこれは固定観念にとらわれたロートルの考えかもしれんが、理由はある。
マルコシアス・バンプの秋間経夫は、バンドにおける、vo、gt、ba、drの「あるべき帯域」について語っていて(エフェクターブック21号)、これは秋間の「ほとんどのロックはギターのミッドが正しく聞こえない」論なんだけど、とりあえずその論はともかく、音域解説わかりやすくしてくれてるんで、そこだけ、抜き出してみるね。
まずドラムが高域と低域を埋める。音域の一番上(シンバル)と一番下(バスドラ)を埋める。埋めて「しまう」。
ヴォーカルとギターは、その中で比較的ミッドからハイを埋めていく(必要がある)、ベースはローを埋めていく。
ただそれも、まず「ドラムが鮮烈に聞こえてこそ」であって……昔の音源、たとえば初期のビートルズとか、あるいは、もっとモダンにしても、ラモーンズのレコードとか
考えてみても、ミッドに極端に集中しすぎると、非常にもこもこした音になる。
ソフトロックではその音づくりがよしとされるんだが(ブライアン・ウィルソンはそれを意図的にねらった)、鮮烈なディストーションとメリハリとアグレッションを希求する……メタルのような音づくりだと、これは罪悪だ。
では、轟音サミット界隈の……シューゲやポスロクのマナーにおける音づくりは、というと……
まず、プログレ、ジャズ的に単音フレーズのアンサンブルを決めていく(たららら、らら、たららら……カッ、カッカッカッ! ってな、あんな感じ)、toeやte’スタイルのポスロクの音づくりだと、やはりハイファイな音質を追求していく。
toeの美濃自身、日本最高のエンジニアであるという事実。
ただ美濃が語るところによると、あんまハイを上げすぎないのが好みらしい。というか、美濃はまずドラムがありきで、ギターの音を下げたほうがかっこいい、とすら語る(エフェクターブック19号)。
それでも、単音であるがゆえに、音の分離ははっきりさせる。はっきりさせた上で、混ぜる。音を。
んで、もう片方のシューゲ最右翼、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは、というかケヴィン・シールズは、「ラヴレス」作る上で、徹底してモノラル、中域、ミッドを志向した。
「ハイファイなオーディオでも、チープなラジカセでも同じように鳴り響くように」レコードを作った。
彼が一番嫌悪していたのは、80年代的な、左右にやたら振れまくるデジタル感であった。スティーヴ・リリーホワイトが確立したドラム処理であるが(そういえば、80年代はこの手のハイファイデジタル処理がもう全盛も全盛であった。あのジョニ・ミッチェルでさえ、そういう音づくりになってたのだから)、それをおぞましいとすら語っていた。
「ヴォーカルがメインじゃない。ギターが音の中心で爆発するように」
ケヴィンはそう語った。(マイブラ伝記より)
さて、大幅に話がずれたが、機械人間氏の音源である。
このうち、オレがやはり興味を抱いたのは、電子ドラムにエフェクターかけたやつである。(「実験電子ドラム」「即興野良ドラム」)
はじめに驚いたのは、そのドラムテクニックの確かさである。
だいたいドラムを飛び道具的に使おうとすると、ビートが乱れる。乱れこそ「歌=ドラムソング」だ、みたいな。
そう……ドラムで自己主張しようとするタイプは、このあたりからおかしくなってくるのだ。ドラムで歌おうとする。ハイハットをバッシャンバッシャン叩こうとする。意味のない裏打ちがやたら響く。
ダイナミクスをつけようとしてるのはわかるが、結果……なんつーかな、聞いてて落ち着かないのである。おもしろいことしようとするのはわかるが、こんなこといっちゃなんだが、酔っぱらいが叩いているのと、そう大差はないような。
機械人間氏が優れているのは、やはりドラムで「曲」……というより、「実験的なトラック」を作ろうとしているのだが、この手の「アホなブレ」がないのだ。
ふたつのドラムプレイ音源を聞いていただきたい。ドンツクドンツクとビートが鳴って、そこにエフェクトが大量にかかるが、しかしそのドンツクが、きちんと「床まで」叩ききっている。BPMも乱れなし。
この生音(電子ドラムの場合これなんていえばいいのだろう……原音?)の強靱さが、まず第一だ。このテクニックを評価したい。
さらにテクニックを論ずるならば、小手先に終始してないということだ。
この場合の小手先とは……ほんと、言葉通りの小手先である。
ちょっとしたドラミングのオカズをいれて、曲を展開していく、歌として展開していく、ような気まぐれめいた心よりも、体全体、ドラム全体で、ダイナミクスを形成する。
ドラムのキメ方というか、ブーストしていくときのギアの入れかたが、実にいい。小手先じゃなく、全身で叩いてるな、ということが感じられる。「ドンツクドン! ドクドクズッタカ!」と。
エフェクター使用ドラム、ということで、ゲテモノキワモノ、と一見して目されがちだが、しかしドラム自体のソリッド感が、聞いていて素直にオレらの体をノらせる。
「ドラム・パフォーマンス」であることは間違いないが、重要な点は、このソリッド感だ。
●急 異端の使い道
さて、音域の話がどっかいってしまったが、ここから再開する。
基本的に、エフェクターかけると、音域っちゅうのは変わってしまう。とくにドラムは。
鮮烈なビートは鮮烈な「ナマ」であるから意味があるのであって、そこに調理を加えたら、鮮度が落ちる……というのが、基本的なロック原理主義者の意見、といえるだろう。
ただ、クラブミュージック視点では、かならずしもそうではない。
あの業界では、ドラムビートに、ガンガンエフェクトかけていくことは周知の通り(ダフトパンクとかのフィルターハウスでも、ダブのビート処理でも、なんでも思い浮かべていただきたい)。
ドラムは、ひとつの音色にすぎない、という編集的感覚。
機械人間氏のエフェクターも、ロックというよりは、そのような文脈で語ったほうが適切だろう。
実際、オレが最初に件の音源で連想したのが、アタリ・ティーンエイジ・ライオットあたりの、デジタルハードコアだった。攻撃的で不退転のビート。すべてのサウンドをエフェクトで切り刻むスタイル。
ある時期以降、打ち込みビートを人力ドラムで再現する、という試みがなされてきた。
ゼロ年代以降の特徴的なスタイルか。Rovo、The Dillinger Escape Plan、ハイファナ、ファイブコーナーズ・クインテット……ロック、テクノ、ジャズ、メタルの枠を越えて、「打ち込み音楽を人力によるアプローチでやったらどうなるか」という、命題。その成果は、上にあげたレジェンドたちの今をみればわかるだろう。ハレルヤ!
機械人間氏の試みも、その流れの、2010年以降の試み、としても、とらえることは十二分以上に可能である。というかそう捉えなくては嘘であろう。
加えて、機械人間氏の、個性的な実験的音響感覚についても。
「実験」であることを隠そうとしない氏であるが、共通しているのは、「ザラりとしたリバーブ」である。
メルヘンにフワフワ漂うような感じではなく……ある時は宗教的なリバーブ、あるときはシューゲ的なリバーブ……まずリバーブからはじめる、というのが機械人間スタイルである。エフェクト作法の。
オレは、エフェクトドラム、と聞いたとき、まず歪ませるのかな、とおもった。攻撃性付加だべ? みたいな感じで。
しかし機械人間氏は、ドラムのビートを維持しながら、音響派としてのアプローチをしていくようだ。
モジュレーション的にドラムにエフェクトかけて、サイケな感じにするよりは、なんちゅうか……現代版アインシュトゥルツェンデ・ノイバウテンいたいな感じもするんよ。
そう、この強靱な鋼鉄感すら感じさせるビートと音響は、ジャーマン……ノイエ・ドイッチュ・ヴェレ(ドイツのニューウェイブのことをこう呼びます)。
そのスタイルがクラウトロックを再度通過してポストロックにつながっていくことは、現在のポスロク、マスロックのアプローチが証明している。こんなにCANが、ノイ!が聞かれる時代があったか? こんなにワイアーが、ディス・ヒートが聞かれる時代があったか?
またはなしがさらに展開していっちゃったよ。
えとね、機械人間氏の音づくりは、
・ドラムのダイナミクスで、音域の全体をカバーしながら、エフェクターで、まるでチョーキングするかのように、「歌」性を付与もする
・さらにエフェクター(リバーブ)で、空間と音域をさらに再編集して、支配していく
という感じ……に、オレは受け取った。
ドラムを使ってない場合でも、
・エフェクターを必要不可欠に使う
・音響から攻めていく
の二点は変わらないと思った。
だから、編集的な視点とか、クラブ/ジャーマン的な視点、そういうのを加味して考えてけば、機械人間氏は異端ではな……いややっぱり異端なんだけどさ(笑)、しかし「間違い」ではないのさ。
まあ、こんな理屈なんか並べんでも、音聞いて、素直にノれて、いいなぁ、って思えたんだから、それだけでいいんだけどねw
しかしこの界隈……関西のシューゲとかポスロクの若手って、ドラムみんなうまいな……僕殺も深海も六階もFaRangeも、そして機械人間氏も、ヘタなドラム聞いたことねえ。ドラムって、だいたい若手の間では……とくに機材先行型の若手では軽視されがちなのに。
最後に。音域と異端エフェクターについて、さらりと触れてみよう。
機械人間氏は、エフェクタージャンキーであるのは前に述べたが、彼はその中でも、ゲテモノ・キワモノばっかりを集める習性があるようで。
ブログみればわかるのだが、これ、ほんと……なんでこんなキワモノばかりを集めるのだろう、と。
ゲームでたとえれば……そうだな、keyとか、オーガストとか、スクエアエニクスとか、そういうのを買わずに、年柄年中ライアーソフトとかジャレコとか「いっき」とか買ってるようなの。
「やったぜ!マインドシーカーやデスクリムゾン手に入れた!」とかいってるような趣味。どう考えても、まともじゃねえよ(失礼)
極めつけは、POS!
クソエフェクターの代名詞!
これをこれほど(ネタとしてだけど)嬉しそうにたのっしそうに、語るひと、ほかにいない。(機械人間氏ブログ記事参照)
このひと一日にtwitterでなんかいPOSいうねん、みたいな。
ゲームでたとえれば、一日中「魔法少女アイ惨」や「りんかーしょん☆新撰組っ!」をやってるような……おいおい、書いてて怖くなってきたぜ。
……ただ。
ご本人も、半ばネタとしてやってるのだろうが、もう半分は、ネタでなく、ガチでやってるのかも、しれない。
というのも、ギター用エフェクターと、ベース用エフェクターが違うように、
「ドラム用エフェクター」
というのは、DAWのプラグインならまだしも、コンパクトエフェクターでは、未だかつて追求されてなかった分野であるがゆえに、今まで名機とされてきた、数々のエフェクターが、存外役にたたないものであるかもしれんのだ。
オレ電子ドラムやったことはないからわからんけど、手がかりになったのは、電子ドラムの音源にアイソレーターかけてること。
アイソレーターってのは、「なんか音がか細く、こもったような感じになる」ってのなんだけど、ギターでやったら、
こんな感じになる
(ふつうディストーション→フィルタードライブ→アイソレーター→その三種まぜこぜなアウトロ)。
オレのヘタな演奏で悪いけど、参考までに聞いてみてちょ。
(原理的にいえば、フィルターは「音域全域のマスキング」であって、アイソレーターは「特定音域の極端な持ちあげ、それ以外の切り捨て」なんだけど、まあ、似てる感じのエフェクトなので、ここではそんな感じで取り扱います)
……この「こもり感」ってのは、従来、エフェクターでは「悪」とされてたんよ。ギターでもベースでも。
音がヌケないから。音がヌケないことは罪悪だから。
でも……ドラム単体表現、ということで、音域を、先に挙げた各ミュージシャンのように(ブライアンとかケヴィン)、割り切って表現して調整する道を選んだら、この「ヌケなさ=クソさ」は、逆に武器になる。
ということは、POSの音のヌケなさ、クソさは、アイソレーター的編集感覚、という考えでいったら、「使える」ものにすら、なりうるのだ。もともと変な感じで音域を変えてしまうPOSは、ギターにはクソだが、ドラムとかには、案外……
……とするとだ。ドラムにエフェクターかける、という道は、まっっっっったく、未開の地、である、とすら。
そんな「逆転使える」エフェクター、ドラムを通して使えば、ひょっとして、山と……!?
だって、アイソレーター自体、いままで積極的に使おうとするひと、いなかったからなぁ……曲のブレイク手前くらいで使うくらい。
フィルターハウスがそれにかなり近いことをやってる(ていうかもう相当やってる?)んだが。
ワウの半押しをアイソレーター的に使う、ってことですら「発見記事」になるほど、案外アイソレーターって普及してないっぽいから。アイソレーター的感覚、すらも。
うーん……ひょっとしたら、機械人間氏、ガチでエフェクターの地図を変動させるかもしれんな……これ。
●機械人間氏レビュー、おしまい