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幻想系物語音楽サークル・Krik/Krakのフルアルバムです。
活動歴では、比較的最近に近い盤です。相変わらず、ダークかつ悲壮な物語/コンセプトによって、語りを大々的に導入しながら、質の高い美メロを武器にして、ひとつの世界を描きます。
今回は、「人物の思い」がある種のメインテーマでしょうか。語りや叫びに、切実な思いが宿っています。
また、バンドサウンドの説得力も聞きものです。
曲目・トラックリスト
#1 リプレイ月紅レコード 【L】 (tr1)
#2 幽閉カレイドスコープ(tr2)
#3 Ms.Aの思い出(tr3+tr4)
#4 Ms.Nの後悔(tr5+tr6)
#5 双色ダンス・マカーブル(tr7+tr8)
#6 アンジェリカ・ムーンウォーカー(tr9)
#7 リプレイ月紅レコード 【R】(tr10)
#8 井戸の底の会話(tr11+tr12)
1。
最初、懐古的な音+「最初の問題提起」みたいな導入のあとに、さらにうさんくさい語りが少し入ります。
そこから「タメ」をしっかりきかせたバンドサウンド! コーラスがそこにからみます。それがなんとも少女感。
今回の盤は、ゲストvoを招いて、様々な声色でもって紡がれているのですが、その使い分けが絶妙!
「ぐっ、ぐっ」みたいなタメ感のあるギターに乗せて、万華鏡のようなvo、コーラスワークが矢継ぎ早に(ミドルテンポですが)きます。
甘い感じのメロでありますが、しかしハーモニーとリズムアレンジに、どことない戦慄感があるのが、緊張感が途切れませんね。
どうも「黒い森」でも思ったことですが、意外にKrik/Krakは、ストリングスが、オケ並に分厚いものじゃないんですよね。だいたいリズムやギターリフにあわせるように、ヴァイオリンが流麗なハーモニーやフレーズをあわせる感じで。
でも、それが非常に分厚く、聞き応えがあるように感じるのは、全体のアンサンブルが、しっかりまとまって……そう、物語音楽を紡ぐ上において、すべての音に意味を持たせるように、アレンジが磨かれているからなんですね。
つまり音域がまとまっている。うーむ、Krik/Krakについて、サウンドプロダクトがいまいち、みたいなことをよくいわれるのですが、このバンドサウンドの「しっかり」感は、もっと評価されてもいいと思うんですよ。
2。
クラリネットみたいな音に乗せて、語りが淡々と入ります。この「不穏な落ち着き」、語りですが飽きませんね。
そこからぐわっと、バンドサウンドが入って、美メロとともに、ギターが結構主張するアレンジでもって、「歌」がきます。
ミドルテンポなのですが、しかし……このメロディーはあまりに黄金!
とくにサビの「誇り高さ」と「かすれ声による、心細さ/寂しさ」、そこにギターが絡むことにより、非常にエモーショナル!
さらに休むことなく、はずむようなバンドサウンド(ミドルテンポ)が続きます。先に述べたように、アンサンブル/音域がまとまっているので、ロック的激しさ(メタルみたいな)が少なくとも、ぐっと腹に収まるみたいな、説得力があります。
それを最大限に保証するのが、この美メロ!
声の張り上げ、音の下降(沈殿っぽさ)から一気に飛翔する、Krik/Krak独特のシグネチャーメロ(サンホラを消化し、そこからそれを煮詰める&切迫感を突き詰める)が堂々と展開するのが、ああ、すばらしい!
3。
「アーキタイプの井戸の怪物」のキャラの語り。背後のコミカルなピチカート音に乗せてエスプリのきいた語りが。やはりこの「語りアレンジ」は飽きませんね。
4。
オルゴールに乗せて、非常に悲しげな語り。そこからの「ルルル……」な声も美しければ、ヴァイオリンの悲しい調べが、この曲に通底する悲しみを示唆しますね。
そこから、童女な感じのvoが、悲しい歌詞を歌うのですが、「童女(ロリ)vo」とはいっても、非常にエモーションが入っているので、よほどロリvoがお嫌いなかた以外は、「うむ、これはこれで」みたいに思われるでしょう。
(童女voがアイドルロリポップ・バブルガムポップスみたいな嫌らしさだったらイヤになるでしょうが、シリアスタッチですからねえ)
途中の語りが、切実な思いも相まって、ぐっときますね。
この盤は、物語をときに俯瞰したり、ときにぐっとカメラをキャラの近く(心情レベル)に寄ったり、さまざまな角度で語るのですが、そのどれもにある緊張感がありますし、バックの音アレンジが秀逸なので、「音楽」として飽きないのがありがたいです。
それをサンホラ直系というのは楽なんですが、「語りで飽きさせない、音楽的に」というのは、誰もができることじゃないでしょう。
5。
これも、ピチカート音に、語りが、物語/音楽の導入になりますね。うさんくさくも、上品。
6。
静かな語りから、微弱なコーラス+アコーディオンの、ゆったりした悲劇的なメロが入ります。
バラードなんですが、非常に「しみます」。
Bメロの展開が、「それでもあなたを愛している」的なエモーションをぐっと表現して、そこからのサビの、「押さえつけた感情」を切々と表現するのが、泣けますね。間髪入れずに語りを、コーラスとアコーディオンとアコギに乗せて、これも切々と描く……ああ、この「もう失われてしまった風景」の悲しさよ!
語りが「会話タッチ」なのに対し、歌パートの歌詞は、どことなく抽象的なのです。しかしメロが物語とエモーションをしっかり描いているので、この歌詞と相まって、非常に「想い」を描いてやまない!染みる!
終末感を伝える悲しげな会話、それを断定するような重い語り……ううむ……
7。
しかし、この語りは、演技派というか、飽きませんね……だいたいわたしって、語り飽きてしまうんですが。
8。
童女めいた歌から入ります。そこから悲しいヴァイオリン、そしてバンドサウンド+コーラスが、やや疾走でもって盛り上げ、そこから弾むようで、悲壮感をも同時に表現する、なんともすばらしいメロ!
童女voがそれを引継ぎ、さらにブリッジからは中域voと童女voがユニゾン、これも聞き応えがある!
そこからのサビの「バンド一丸となっての戦慄感」の疾走! さらに間髪入れず語り! 一瞬たりとてダレがない!
語りが終わったら、バンドサウンドの感じが裏打ちドラムに乗せて、様々なコーラス、さらに万華鏡のようなヴォーカルワークが次々と! この繊細かつ「後に引けようがない」感情を、少女感とともに次々と!
そしてラストのヒリヒリした、悲劇的な語りが胸を締め付ける! このエモーションは本物だ!
当然ながら美メロ!
とにかくバンドサウンドとコーラスワークが一丸となって、疾走感でもって、悲劇とエモーションを伝える……すばらしい曲だ! これぞ物語音楽よ! 当然ながらアレンジの練りこみがすごい!
9。
クワイアに乗せて、語り。これもまた、韜晦しながらも、緊張感に満ちていますね。
10。
メタルだ! 様式美(クラシックのイディオムを導入したロック)メタルだ!
チェンバロ、ギターがゴシカルな美意識を表す……と思ったら、すぐにVOに入る。この戦慄感!
ブリッジのところで「ダッダダ、ダッダダ」なギターリフに併せて、これもまた戦慄で煽るようなvoがくる! きたきたきた!
チェンバロを効果的に使いながらサビを、高音で歌う「一気に突き抜ける」感は、もはやこの音に身をゆだねるしかない。
さらに語りに入るのだが、ここにギターをものすごくフィーチャー……かなり暴れさせる(Krik/Krakにしては)。さらにサビ後の第二ブリッジに美メロを次々に放り込んでくる。
先ほどと同じく、ギターのリフに併せて「たらら、たらら」みたいに切迫感を表現するvoがすばらしい。そこからギターもさらにアグレッシヴ、さらに休むことなく、vo/コーラス/語りが一切のダルさとか休みとか入れることなく、駆け抜ける! 駆け抜ける! クラシックめいたメロ/ギターをフィーチャーしながら、悲劇を……救いようのない悲劇を!
この怒濤の展開には、もはや涙とヘドバンを押さえることはできないっ!
10。
小編成の室内楽的(ストリングス+笛)な優雅(しかし悲しい)フレーズのあとに、孤独感、「もう終わった」感のvoが続きます。
静かな曲です。
編成はシンプルなのですが(大々的ではない)しかし……この胸を締め付ける、悲劇感、繊細さ……これこそがKrik/Krakです。
サビは、意外に明るめのフレーズになるのですが、それが一層「もう悲劇は終わってしまった」という感じを逆に表現してしまって……
語りも、ゆっくりと、重要なことを語る(サンホラっぽい感じもすげえするのですが、問題はこのテンションだ!)、これがヒシヒシときますね。」
しかし……Krik/Krakの黄金メロは底なしか? とすら思えます。シグネチャー・サウンドは確かに持っているのですが、「えー、またこのメロ?」みたいな金太郎飴的な感じは、受けないのですよ。サンホラフォロワーといわれているわりには。
そう、それこそが、コンポーザー・鳥島氏の才能であり、コンセプト/ストーリーを作成する、繭木氏の才能なのだなぁ……と。
11。
無音トラック
12。
ボーナストラック的な語りでしょうか。しかしナイチンゲール+イドのこのエスプリ聞いた会話はいつまでも聞いていたいですな……
(ていうかこの変則的なカプは、非常に魅力的。世の物語音楽で、ここまでキャラが立っているのがどれほどいるというのか)
うさんくさいアコーディオン+バンドサウンドなバックで、これもどこまで虚実定かでない語りが入ります。
物語は、謎を、聞き手に残しながら(考察必須ですなぁ)、語りでもって終わります。
この盤、全体のこの「フシギ感」でもって……語りをかなりフィーチャーしながら、この盤は進み、最後まで「フシギ感」でもって終わるのですが、しかし「ふわふわした感じ」よりは、ところどころの鮮烈すぎるエモーション、そして美メロ、そして意外なほどアグレッシヴなバンドサウンドでもって、飽きませんし、あっという間に物語に引き込まれていきます。
もしこの盤に欠点があるとしたら……いや、正直、あんまないなぁ。「物語音楽」の形式、語りっちゅうものがお嫌いな方以外は、このテンションの張りつめ+語りのうまさでもって、聞きほれるでしょう。
それは独自世界が、完全に構築されているから。そもそものコンセプトがしっかりすぎるほどに構築されてるから。
マァそれをある程度、密室芸と表現することも可能なのですが、そもそもKrik/Krakはそのような密室芸をこそ、己の作風としたのだと思います。
サンホラが密室芸を、第一期でとりあえずは終わりにして、それ以降……たとえば「紅連の弓矢」みたいな大編成/ビッグバンド=戦記ものに以降したように、密室芸を捨てた、というのは、既定路線でしょう。
Krik/Krakは、おそらくその方針に我慢がならなかった。だからこそ、このような第一期的な密室芸に拘るのでしょう。
……とすると、それはフォロワーというより、あるひとつの芸術形態を追求する求道的な感じすら受けます。そうなってくると、それは模倣の領域じゃなかろう。
最初に、ヴァイオリンの使い方で、オーケストラ感じゃないんじゃないか、って書きました。つまり、Krik/Krakは密室芸=室内楽、なのだと思います。「どこか彼方に救いを求める」よりも、ダークで沈みこみ、悲劇に対して安易な解決を与えない。
キャラをいじめてるわけじゃなく、キャラの精神性を、安易にハッピーエンドにすることなく、「生」を描ききる……それが、フォロワーのすることでしょうか?
おそらく、Krik/Krak、繭木氏の歌詞世界の鮮烈さ、真剣さは、それを描くために、様々なる美メロを、鳥島氏に要請するのでしょう。美しくも、悲しい物語……それは、美しくも、悲しいメロディーでもってでしか、語られない。
それは、姉妹だからこそ、できる芸術なのだなぁ、っていうふうに片づけるのも問題かもしれませんが、繭木氏あって鳥島氏あり、鳥島氏あって繭木氏あり、それがKrik/Krakなのだ、と、ぼんやり思いました。
ああ、それにしても、聞き応えのある盤だった……!
※過去にKrik/Krakについて書いた残響の記事はこちらになります