残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

屋根裏部屋のある生活--At the Garret全作品感想

※11/01:秋M3新譜「The Guest of Honor」ネタバレ感想追記

 

同人音楽サークル・At the Garretは、

作詞・作曲・編曲 霧夜 純 氏(サークル・三ツ星☆リストランテでも作曲)

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歌唱 鹿伽 あかり 氏(サークル・Ideadollでも活躍)

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歌唱 桃羽 こと 氏(サークル・Ideadollでも活躍)

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の3人で、「物語音楽」を展開しているグループです。

公式サイト ↓

atthegarret.web.fc2.com

M3秋2021 おしながき ↓

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物語音楽とは、複数の楽曲を用いてストーリーを展開する連作作品です。ひとつの盤の中で、「語り(ナレーション)」も有りの楽曲、考察を誘発する歌詞といったように、「物語」をリスナーに強く訴えかける音楽性です。Sound Horizon的、とも言えますし、ミュージカル的、とも言えます。事実、サークルの御三方はサンホラにもミュージカルにも強い影響を受け、愛好しています。

同人音楽シーンでは、サンホラ以降のこの10年あまり、ひとつの潮流となっているジャンル・スタイルです。At the Garretはこの形式に拘る……というより、「物語音楽をやることが自分たちにとっての当たり前だし、やりたいこと」という、音楽サークルとしての自然な確信を感じさせます。

ミュージカル的、と先ほど申しました。では華麗で絢爛豪華な音楽性……?とこの文章だけだと、そう解釈できます。しかし、「屋根裏部屋(the Garret)」は暗いのです。あるいは、灯りがともったとして、そこには何らかの意図があり、童話的狂気の香りがうっすら漂ってくるのです。

そう、At the Garretの世界は、屋根裏の密室感をどこまでも想起させる「閉じた世界」。自分は過去の感想でそれを「霧夜純の密室芸」と何度も書いてきました。そういう感じが凄いするのです。自分には。

そんな屋根裏部屋が、わたし(筆者)の生活に有るようになって、数年経ちました。これまでの作品全部聞いてきたっていうだけのことですが。……で、その屋根裏のある生活が、自分のここ数年の音楽生活で、ひとつの大事な音楽体験となっているので、ここで改めて纏めてみることにします。

なお、この記事は前々から書き溜めていたものでありますが、発表がM3秋2021の前日っていう、あとぎゃれ(愛称)賑やかしにしてはギリギリもいいところなので、同人でよくある極道入稿とはこのことですね(違)

 

1stアルバム「Assemblage」

2012年作品

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屋根裏にあるガラクタたちの音(SE)から始まるこの盤は、ユーロ歌謡あり、バラードあり、ピアノ曲ありと、ジャンル的には「いろいろ」。
しかし共通しているムードは、新鮮なヨーロッパの息吹、というよりも、屋根裏の埃っぽさというか、光のあまり当たらない密室感。
そのくせ、夢は空想の中をどこまでも駆けていく、という趣の密室さ。狭い空間から彼方を見続けるという夢想。

サウンド的に爆裂もしていなければ、後年のように音が磨き上げられてもいない。
だのに、屋根裏部屋の孤独さが、サウンドの行間から満ち満ちている、滴り落ちている。
そのかすれたセピア色の色彩、過去を常に追憶する姿勢。
静かに燃えているこころの炎。この場合、初期衝動という言葉が似つかわしいかよくわかりませんが……(そういうパンク性の音楽ではない)、この盤には独特の魅力があるのです。
それはジャケットからして。このジャケット、凄く内容と合っていると思うのです。


メロディの哀感は「Eternite」で極点に至り、霧夜氏の曲を鹿伽あかり氏(当時はAkari名義)が痛切に歌いあげます。トラック「屋根裏にて」でとつとつと語られる内容とサウンドは、At the Garretの「決意表明」というか。

屋根裏部屋が変わらない以上、音楽性も変わらない……ということを考えてしまいます。実際、後年あとぎゃれは、この処女作をリアレンジする形で「パピエ・コレ」を発表しています。それだけ、この盤で「屋根裏部屋の世界」はすでにしっかりと提示されているのです。

霧夜氏が特設ページで「中の人の趣味全開です!」と書いているように、密室の趣味性で展開される世界は、最初からブレがないのです。というかブレようがないとすら言えるのかもしれません。

 

1stシングル「記憶のレーア」

2012年作品

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あくまでこのシングルは、次のアルバム「白鳥の城」に至る前日譚なわけでありますが、しかし非常に魅力的な小品となっている盤です。ジャケットからして、トータルで好きな盤です。


基本的にこの盤、暗いのです。
何か「城」感のあるユーロ歌謡から始まります。曲調に、世界観に、常に影があります。何かよろしくないことが起こっているのだろうという不穏さが常にあります。ほら、愉快なミュージカルな感じじゃないでしょう……。

霧夜氏のピアノ曲は、鋭く刺す情感があります。雨のSEと相まって、罪や後悔から逃げないピアニズムのシリアスさ。悲痛な心情を美しく刺していくタッチです。

なのに、聞き終わって、次が楽しみになると同時に、なんか「聞いてよかった」と思わせる盤であります。
At the Garretのシングルは、そんな味わいがあります。次につなげながらも、その盤でひとつの世界観情景スケッチをバシッと叩きつけていく感じ。


2ndアルバム「白鳥の城」

2013年作品

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美しいオルゴールの旋律にのせて語りが入ります。もうこの時点で勝利への予感がしますが、次のオルゴール&ピアノ、ギターとストリングスの疾走曲「白鳥の城の物語」でぐっと掴みにかかります。勝ったな。


バンドサウンドはヘヴィではないですが、ここまでの勇壮で誇り高いメロディを、乱舞するピアノとコーラスを入れながら、女性voで疾走してシンフォニックロックとしては勝利ですよ。というか2番にあるバンドサウンドをガガッとキメるアレンジは燃えます。さらに小刻みに切りつけまくるストリングスとチェンバロとピアノが、若干バロックさも演出しながらもうシンフォニックロック、そしてコーラスと絡み合いながらのvoですよ。勝ちまくり。

物語の「語り」にも実に説得力が出てきています。そこから展開する歌メロの美しさ。At the Garretはメロディが初期から完成された完成度なのです。
ストリングスの美しさもですが、先にも述べたようなピアノの「刺す」感じが、楽曲のアクセントになっています。

「煌めく舞台を蝶は舞う」のユーロスウィング歌謡、もうこの時点で歌謡美メロとスウィングアレンジ、完成されていますね。アコーディオンを前面に出しながらリズムをぐっと後ろの方で打つ感じ、良いと思います。近年流行のエレクトロスウィングなるジャンルがありますが、彼女らのアプローチはその潮流とは全く別のところで、ユーロ歌謡ジャズテイストを確固と追求しております。

 

シンフォ曲は「白鳥の城の物語」と「飛翔」の二つだけで、実は曲の量だけで言うとロックチューンは2つだけなのですが、
しかしこの盤がシンフォロックの感があるのは、この2曲が特に強い!というのが理由でしょう。
複雑な乱舞をするサビのメロディ、壮麗なストリングスのコード感、東方project並みに連打するピアノ、そして打ち込みギターソロをダメ押しのようにぶち込んで、曲は疾走、否「飛翔」! まいりました。 物語のラストへ向けて盛り上がりまくって、そしてラストの語りと曲でしっかり締めます。そんな、ノイシュバンシュタイン城をモデルにしての、ヨーロッパ感溢れる城の物語です。

 

3rdアルバム「屋根裏美術館 -East Wing-」
4thアルバム「屋根裏美術館 -West Wing-」

東翼……2015年作品

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西翼……2016年作品

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なんとアルバムを2作続けてのコンセプトアルバム作品とは恐れ入ります。
イラストを公募し、その絵とのコラボ曲を作りまくる霧夜氏です。凄まじい。作風は、童話・民話感のあるというか、曲調も様々で、まるでビートルズのホワイト・アルバムのようなバラエティの豊かさを感じさせます。ただし、ホワイト・アルバムのような散漫さはないです。むしろ、このバラエティは「美術館の展覧会」の感が圧倒的に強い。そりゃそうです。各イラストに合わせている曲なんですから。

 

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思うに霧夜氏は、三ツ星☆リストランテでの活動で、野宮塔子氏の原作テキスト・詩を常に求めているように感じます。
このAt the Garretの活動でもその「テキストを求める」スタイルは変わっていないように思えます。屋根裏の美術館に持ち込むイラストという「原作」を公募したように。
後に言及するサークル・欠陥オルゴールとのコラボ作品でも、欠陥オルゴール・兎角Arle氏の物語と絵……「世界観」を霧夜氏は求めています。

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以前、村上春樹が音楽エッセイ「意味がなければスイングはない」で、フランスの音楽家フランシス・プーランクの音楽を語ったとき、プーランクが詩……テキストを常に欲し、そのテキストを活かす曲を作っていたことに触れていました。

ですがもちろん霧夜氏は「原作テキストをただ音楽に移し替える」だけの音楽作業をしているわけではないと思います。
霧夜氏=At the Garretの音楽性はユーロ歌謡、シンフォニックロック、バラード、というようにヨーロピアンなミュージカル調のものです。原作や音楽シーンの流行に合わせて音楽性を次々変える、というものではありません。EDMテクノやデスメタルが入る隙間はないのです(当たり前だ)。
重要なのはテキストを霧夜氏が「私はこう解釈しました」というスタンスが、常に見えることです。その視点から、メロディや和音が生まれてくる。
原作をもちろん霧夜氏は大切にしています。しかし同じくらい大事なのは、彼女の解釈(そして楽曲としての再構成作業)にもあるのです。
別に原作テキストを魔改造している、というわけではありません。
原典テキストを「霧夜純はこう解釈したのだな」という知性のきらめきが、リスナーのこちらにも判る。

たびたび、野宮塔子氏や兎角Arle氏が「霧夜さんは凄い」と仰るのは、原作者のテキストを深く愛し、その上で「そう見るか!」という解釈をし、さらに楽曲として再構成してしまう。その現場を間近で見続けられることにもあるのかなぁ、と勝手に思うわけでした。

 

3rdシングル「石の花」

2017年作品

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イントロの語りから、剛速球のトラック2で幕を開ける本シングル。鉱山と森での、石工の少年と幼馴染の少女が繰り広げる、ロシア民話に影響を受けた作品。

ただ、もとの民話「石の花」をそのままなぞるのではなく、物語の一部がどんどん原作から「ズレ」ていく……って言い方は適当ではないですね。
--原作の再解釈。イマジネーションがどんどん飛翔していく。それだけの物語の読み込み。その読み込みが、曲の世界を複雑で味わいの豊かなものにしていきます。

この盤もまた、シリアス度の高いものです。ある意味、北国的なハードで沈鬱なところがあります。しかしそれだけに、その世界の静謐な硬質さが印象に残ります。なお、音(ミックス)も実に磨かれています。世界観に繋がっている音の磨かれ具合です。

At the Garretのシングルは、こうして世界観をバシっと叩きつけてきます。記憶のレーアのとこでも書いたなこれ。いや、大事なことだから2回言うのです。


5thアルバム「Papier collé」

2019年作品

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1st「Assemblage」のリアレンジ……というかAssemblageの再解釈、とでも言う作品でしょうか。また、現在のAt the Garretのサークル活動の活発さが、この作品から始まっているようにも思っております。作品の内容がどんどん良くなるまま、サークル活動が旺盛になるって、最高じゃないすか。

 

2019年当時、自分はこの作品をtwitter個人アカウント(現在、そのアカウントは削除しております)で感想をつぶやきました。連ツイで。こんな感じです。

 

M3リスニンタイム、1枚目、At the Garret 「Papier colle」、Go! #パピエコレ 

2(歌曲)「パピエ・コレ」、
この言葉は「紙素材、印刷物コラージュ」の芸術スタイルだが、楽曲自体がヨーロッパ歌謡ジャズをベースに、弦やツイン女性vo、小刻みなクラップリズムを重ね合わせてる。しかも齟齬はなく「ひとかたまりのユーロ歌謡の妖しき緊張感」としてぶつける! #パピエコレ

トラック2→3、
ジャズ者としては常々「スウィング感(横揺れリズム、グルーヴ)」に耳と体がいってしまうのですが、旋律もバッキングも、果てはオルゴールとベースだけになっても、屋根裏密室の中で緊張感高くグルングルン歌謡スウィングしてるな…… #パピエコレ

トラック4(インスト) 
電子音+ピアノ、弦楽のインスト。どこかポストロックを思わせる(それこそ例えばtoeとか65daysofstaticから歪んだギターを抜かした感じ)、機械的で流れるアルペジオ、しかし緊張感は途切れることはない。ポスロク勢としては極めて好みであるし過去曲「夜汽車」の系譜 #パピエコレ
あと、凄い音が良いですね。その良い音で「古い手触り」を表現している、ブレのなさね #パピエコレ

トラック5「死の島」、
この曲が極点であるが、この作品、全曲通して「届かなかった手紙」感が強い。アートワークに乱舞する切手からも、それは的外れな印象ではないと思うのですがいかがでしょう #パピエコレ

At the Garret 「Papier colle」
vo二人が正式メンバーとなって新作の気合いが凄い。従来の「屋根裏甘美な密室芸」はそのままに、ツインvoや全体のサウンドプロダクションをぐいぐい上げた挙句、妖しく流麗な歌謡ジャズ曲とバラードの良さで正面から霧夜純が貴様を殴り付ける!(すいません #パピエコレ 

たまらん!リピートだ!(※CD再生) #パピエコレ

細かくいうと「パピエ・コレ」のサビ前、桃羽こと氏がスタッカート的に切る感じでメインメロディーを歌い、間髪いれず鹿伽紅梨氏がコーラスを入れ、そこからガツンとツインvoとアコギ刻みとホーンでサビが展開するアレンジ。しかも2番ではvoの配置が逆転する仕掛け、吐く程良いな…! #パピエコレ

この金管ホーンの歌謡的な、「かわいさ」と「路上で妖しく舞う扇状性」の、やらしさ一歩前でどこか哀愁を感じさせるとこ、まさに歌謡ジャズだなあ!!戦前、魔都上海では、ヨーロッパジャズと東洋キャバレー歌謡曲が混ざり、ジャズが妖しく煌めいておったのじゃ!(年寄りの戯言) #パピエコレ

結局聞き始めて3回リピートしてしまった #パピエコレ #あとぎゃれ

 

それから後日、「屋根裏への道」と題して、以下のように連ツイしておりました。

(あとぎゃれツイキャス放送まで)あと40分なので仕事を超スピードで片付けて全裸待機也。待ってる間、At the Garretについてつらつら連載ツイートします。

 「屋根裏への道」 At the Garretを聞き始めたのは2016年で、先に三ツ星☆リストランテを聞いていて、その作曲者がソロプロジェクトをやってる、と知って。 #パピエコレ

「屋根裏への道(2」 #パピエコレ
また、今もお世話になってる同人音楽ファンの相互フォロワーさんから「At the Garretいいよいいよ。ていうか残響さんまだ聞いてなかったんですか逆にびっくりだ」とお勧めくださっていて。いざ実際に試聴音源聞いて、当時から「メロディで殴っている」感が凄かった

「屋根裏への道(3」#パピエコレ
その後実際にM3でスペース言って三ツ星の作品と共に「あとぎゃれ全部下さい」作戦を実行し、全作品を聞く。1stから全く一貫しているのが、霧夜純(エッセイ形式なので呼び捨て失礼)による「密室芸」なのだな、と強く思った。なるほどソロプロジェクトだ、と

「屋根裏への道(4」#パピエコレ
三ツ星も三ツ星で大変「閉じた」表現なのだけど、三ツ星が野宮塔子(作詞)の文学哲学精神の「圧」によってパワーがどんどん深くなっていく閉じ方だとしたら、あとぎゃれは霧夜純の箱庭世界として、屋根裏(Garret)内で閉じ切ったちいさな密室芸、という違いがある

「屋根裏への道(5」#パピエコレ
そういうわけなので、あとぎゃれ最初期からvoとして参加している鹿伽紅梨と桃羽ことが正式メンバーとして、あとぎゃれを「プロジェクト」として活動形式を定め、「外に開く」形で同人的プロモーションをしていくことになったのに驚いた。自分はこれに好感を持ってて→

「屋根裏への道(6」#パピエコレ
別にどこまでも「霧夜の屋根裏密室芸」で完結したって良いあとぎゃれなのだけど、嫌味なくまっすぐに「屋根裏を聞いておくれ!」のプロモーションには「気合を感じる」としか言いようがない。その心意気に打たれている。このあたりで結構霧夜としては意識の変化が→

「屋根裏への道(7」#パピエコレ
→あったのかと思われる。自分も同人サークルしてて、今回自分以外のvoを迎えるという作品を作ったから、そのあたりは僭越ながら気持ちはわかる。「裏切れない」って感。でも背中を正しくキックされる感。 何よりあとぎゃれの場合やっぱり新作でも「屋根裏密室」なのだ

「屋根裏への道(8」#パピエコレ
新作パピエコレは、音のレベルを上げながらもやっぱりやってることは「屋根裏密室芸」なのである。今日一番最初に出した「Assemblage」を、パピエコレが非常に意識しまくっている時点で、ブレも迷走もなく、高まったのは本気度だけなのだ。主題回帰は後ろ向きでない

「屋根裏への道(9」#パピエコレ
何より、プロモーションにしても、楽曲にしても、「たのしげ」なのだ。無理なく同人サークルをたのしんでいる。そこの好印象と、楽曲が殴ってくることで、15時からのラジオを楽しみにしているわけですね。以上です(終

 

6thアルバム「子供部屋の共犯者」

2020年作品

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コクトォの「恐るべき子供たち」を原作テキストとして、作中人物たちの心情をイマジネーション豊かに歌いあげる作品。凄く暗い作品です。だがそれが良いッ!

以前書いた感想です。↓

modernclothes24music.hatenablog.com

 

サークル「欠陥オルゴール」とのコラボシングル
「Invitations to Black Theater」

2020年作品

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物理媒体だと「封筒」が手元に届く作品。内容をこれ以上ないほどに表している装丁にも感服ですが、楽曲も次作「劇場の化物」に続く期待大のいざない。

以前書いた感想 ↓

modernclothes24music.hatenablog.com

 

欠陥オルゴールとのコラボアルバム「劇場の化物」

2021年作品

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欠陥オルゴール・兎角Arle氏の物語世界を舞台に、2020年からのコラボ活動の集大成として、満を持してのアルバムを出しました。さあ、劇場に来たぜ……!(アアッ、コロナウィルスでM3サークルブースリアル会場に行けなかったよ畜生ッ!)

何しろ音楽性と世界観の充実が凄い。まさにミュージカル的めくるめく世界の展開、劇場の進行。

欠陥オルゴールが紡いだ世界・キャラ・言葉の上で、At the Garretが劇を回す回す! どちらがリードしているということもなく、欠陥オルゴールの原作ありてあとぎゃれの音楽が飛翔する、あとぎゃれの音楽がますます兎角Arle氏の筆を飛翔させる!これが同人コラボと言わずして何という、と言いたいね!

舞台からして、人物からして、狂気が隠されてない世界。ダーク。シリアス。それなのに「少女が自然に舞い踊っている」感がどこか幻視されるほど、時折凄く微笑ましいのは、欠陥オルゴールの原作の品というか魅力というか。シリアスな世界なのに、キャラに愛情を抱けるという。

そう、これだけ練られた物語ですが、聞いた後の感覚は「良かった」なんです。劇と言う文芸を観た。終劇まで手に汗を握る、作品の表現。ある意味でのカーテンコールまで、緊張感の途切れることなく、この「劇場の化物」世界は幕を下ろします。

音、心情、ナレーション、終劇。これを席で「観劇」した後にぐっと手の汗の感触が、「これぞ文芸よ、劇よ」と、「良かった」と納得します。

しかし、この「劇場」展開感。ミュージカルに影響を受けているってレベルじゃない。盤……音源とイラスト、ブックレットデザイン全て使って「劇場」を表現したその姿は、この作品こそがミュージカル体験、ってくらいのものでした。拍手! 

 

4thシングル「The Guest of Honor」

2021年作品(秋M3新譜)

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昨日の記事(日記)で、この新譜を応援していることを書きました。記事のラストにあります。

modernclothes24music.hatenablog.com

 

※11/01追記 web通販で盤が筆者自宅に届いて、さっそく聞いての感想。ネタバレ注意!

 

 

なるほど。ハロウィン合わせの新作、今回は実に「館もの」という設定。……設定? ていうかもはや主題でありキャラクターではないですか。キャラソン

そもそも館の「増築に次ぐ増築」……完全に無茶苦茶な建築様式の積み重ね。この時点で「建築様式のパピエ・コレ」的な様相とも言えます。言い過ぎじゃない。事実、歌詞カードにしっかり外装&内装の図面が記されております。

で……困ったな。前の応援記事(日記)で語ったように、トラック3「Identity」に思いっきり言及しようとしたら、桃羽氏の歌唱と鹿伽氏の歌唱がスイッチする所、これ、アレンジの構成を語っただけでネタバレじゃないですか! 

 

まぁ、書かないと話が進まない……あくまで筆者の解釈として聞いてください。自分は「館(の精)の成長」を、歌手のスイッチ(交代)で表現していると思いました。つまり、増築に次ぐ増築。それだけどんどん変わっていく「館(の精)」の姿を、声自体のフィジカルな変化(ソプラノ→アルト)で表している。

そして、どちらの歌唱も同じメロディを強調するように唄っている。即ち、昔の館も今の館も、本質は変わっていないんだよ、今も同じ本質でここで待ち続けているんだよ……と必死に言おうとしているように聞こえてくる(深読みでしょうか)。

しかしトラック2「The Guest of Honor」の壮麗なストリングスの音の磨きが凄い。何気にプログレ的な組曲とも言えて、ミュージカル的とも言える。音が実にダークで流麗で、「ドン!」というオーケストラ衝撃音が印象的。ハロウィン曲としての堂々たる迫力。

 

さて、この物語のハロウィン性……ということで考えると、ハロウィンの「お盆」性によるのかなぁ、と考えてみます。一気にガクッとヨーロピアン緊張が消えたな!w

ハロウィンはキリスト教由来の「聖なる祭」ではなく、祖霊信仰の土着的な祭を起源とします。逝ってしまった者に「おかえり」と迎える心情の祭りなのです。つまりお盆。

そう踏まえて考えると、この物語で「館(の精)」は常に待ち続けています。「The Guest of Honor」の歌詞とアレンジで、館の外装・内装を描写。次に「Identity」で館の心情を描写。全て「待ち続ける」心情の精。

---この盤は全部で館の精のキャラソンなんだよ!(な、なんだってー!)

やばい、この路線で書くとシリアス物語音楽ファンにころされそうだ。ちょっとモードを真面目に戻して……。

 

英語で「The Guest of Honor」とは「主賓」のことです。この盤において、ジャケットの少女も、館にとっては「主賓」でしょう。館はずっと主賓を待ち続けています。共に楽しく過ごすために。ここで「私(館)は変わっていない!」と弁明したい気持ちのいじましさが何とも悲痛。

そうなのです。この盤の奥底にあるのは「待っている」「いつか来訪を迎えたい」という暖かな心情なのです。「ようこそ」であり「おかえり」であります。

シリアスな館の物語で、結局救いがあるようで、具体的救済があんまり無いような話ですが、しかし楽曲「Identity」の誇り高く暖かな音楽性が、「ようこそ」と「おかえり」を希求する暖かな心情の存在を何よりも照明しています。

やはりこの曲のメロディは良い……というかやや意地悪な言い方をすれば、「暖かな名曲でなければ成立しないストーリーになっている」という、この物語企画の難易度の高さ……!

しかし何よりも、聞き終わって実に暖かな心地がする盤でした。ハロウィンのあとぎゃれ解釈……確かに受け取りました。それは、この館の精のいじましい心情を受け取ったようなものです。ダークだけで終わらない。追憶もありながら、しかし暖かさもある。曲と、二人の歌唱の説得力です。……ということで、ますます昨日書いた、以下の末尾文章が、いや増してその通りになってくるわけで……

 

(げすとな感想おわり)

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↓ 以下の文章が、10/31時点で書いた記事末尾の文です。↓

 

 

At the Garretの世界……盤作品をこの数年聞いてきて、良かったな、と今しっかり思います。

文芸と絵と音楽の劇場的世界。独特の「屋根裏の暗闇」感、童話・民話的タッチ。あとぎゃれの世界はいろいろな文化を内包していて、作品を聞いた後、いろいろな本を読み返したくなる気持ちが湧いてきます。

ひとえにそれは、彼女たちAt the Garret三人が、屋根裏部屋で、毎回の企画を練り、「この作品世界は良い」「屋根裏美術館に展覧すべきだ」と、彼女たち自身が物語の楽しさを確信しているところから来るのでしょう。時流に惑わされることなく、安易なショートカットもせず、ひたすらに物語音楽を紡ぐ。あの密室で。

そう、彼女たちはいつも居るのです、屋根裏部屋に(At the Garret)。