残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

創作漫画制作日誌(3)ネームの為の画力

現在、漫画コピ本同人誌第三作目「Port Sacevo,Phantasmagoria ~幻想軍港佐世保」を制作しています。

アナログ作画環境

通常、画力の話となると「完成原稿の画面の美麗さ」になります。それが現在の残響さんの漫画で一番足りていないところだ、というのは、まことその通りなのですが(要するに漫画の画面が美しくない)。

ただ、画力と言うのはそれだけではなくて、「ネームの為の画力」というのもあるのだな、ということを、漫画を描くようになって改めて発見した次第です。今回はそのお話。

アナログ作画環境2

漫画を描くには、最低でも

発想→ネーム→ペン入れ

の工程を踏みます。時に、超絶画力や脳内パースを持つ荒武者みたいな神絵師・漫画家は、発想していきなりペン入れ(ネーム無し)で漫画を描いたりしますが(宮崎駿の雑想ノート浦沢直樹のTV番組「漫勉」を参照)、そういうバケモノのことは今は置きます。

www.nhk.or.jp

「ネーム」のところで何をやるか、は個々人の漫画描きスタイルで異なりますが。自分の場合は、ネーム作成のところで、セリフやシナリオ・プロットをライヴ感で作成していきます。それと同時に漫画的演出をどうキメるか、ということを、かなり試行錯誤します。

この場合の漫画的演出、とは、コマ割りに始まって、コマの中でキャラがどういう動きをするか。背景のパースをどう取るか。背景をどこまで書き込み、どこまで余白に託すか。そういうことをいちいち考えて、雑な絵で指定&活写していきます。ネームの段階では描きこまない……というか「描き込めない」。キャラの動き(モーメント)ひとつを決めるにしたって、いろいろ紙の画面上で動かすトライ&エラーが必要になるから。もし「描きこむ」ような意識にするなら、自分はペン入れ原稿の下書きのところでそういう意識になります。するようにします。

そう、このキャラの動きにせよ、背景のパースにせよ、画面で描くキャラや背景の動き・配置の「正解」はいろいろあるわけなんです。
例えば「彼女は雨の中立ち尽くしていた」という一文をビジュアライズするだけでも、正面から描くか、脇から描くか、斜め上か、アオリか……ってだけでも、絵では、次々カメラの可能性が浮かんでくるのです。発想はいくらでも出来る。ただし、その発想力は、かなりの場合己の「画力」に限定されます。

今回のお話の「ネームの為の画力」、とは、ここで必要になってくる類の画力です。ここでは美麗さや繊細さは求められていなく……ようは一言で言えば「デッサン」ですね。それもかなりクロッキー寄りの。(ここでは明度や彩度よりも、速写で「動き」「配置」をどう捉えられるか?という話) なぜ画力が必要か? それだけレベルが高い(美しい)漫画を描くことが出来る。

然り。……しかしその一方で、玄人漫画読みたちは皆「漫画の本質はネームにあり」と言います。「漫画力」とはネーム力(りょく)のことだ、と。どれだけキャラを生き生きと動かせることが出来るか。背景を生きた「世界観」にまで高められるか。キャラの動きとセリフが混ざり合い高め合うことが出来るか。コマ割りの勢いが漫画的ダイナミクスに成っていくか……! 

それを作りだすのは、まぎれもなくネームを練るときの試行錯誤です。そして、ここでは「発想力」だけあっても仕方がないのです。ある程度の画力が必要なのです。なぜか? それは、「ネームの為の画力」があれば、それだけ発想が殺されずに済むからです。

例えば「ある角度からのキャラの動きが苦手」。絵を描くにおいてこういうことはよくあります。「俯瞰視点で、箒に乗った魔女が、上空からゆっくりビル街の三叉路に着陸する」というシーンなんかわたくし吐き気がします。今描いている漫画のシーンですよっ!

それでも、脳内で思いついてしまったシーンがあるとして、それを演出(ネーム)段階で殺してしまっては、何のために漫画を描いているかわかりません。ここで渇望の叫びがあるわけです。「絵が上手くなりたい」ッ!! 発想したシーン、漫画がより面白くなる演出!これらを殺したくない!おれの手でおれの漫画を殺したくないッ!!

よく、「演出」というと「小手先」というニュアンスで語られる場合がありますが、とんでもない。演出は、漫画のネームで言えば明らかに「自由度」です。そしてその演出の土台になっているのが、「ネームの為の画力」です。そういう理屈です。いわばこれは、美の為の画力というよりは、「自由のための画力」とでも言いましょうか。……まぁ、それはちょっと勇み足の議論でしょうか。そもそも企画を立ち上げる発想力(妄想パワー)がなかったら、確かにこの「ネームの為の画力」は「演出スキル」となり、「小手先」の技術に終始するでしょうから。

しかし、自分で漫画を描くと、こうも発見が多いものですね。というか、自分がここで書いていることは、結構レベルの低いことだ、とも言えると思います。「ネームの為の画力」って、画力としては結構最低限のレベルに近いぞ、と。ただそれでも、ネームをこうして試行錯誤することで、キャラクターの言葉や動き、背景や世界観が導き出されてくるこの感覚は、悪いものじゃない……自由だ、と思っています。

……絵が上手くなりたい、ですね……。