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SSの「上」編はこちらです。
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私はこの監獄の看守です。
私は望んでここに務めています。
なぜなら、村正村治さんがここに投獄されているからです。
村治さんの罪状は、私からしたらそんなに大したものではありません
もっと許せない罪人などいくらでもいます
そんなことより私は、獄中詩人村正村治の作品に惚れているのです。
四方に敷き詰められた石壁は重く、
鉄格子には罪人たちの怨嗟の声が沁みつき。
そんな獄中でありながら村治さんは、
詩を作り続けています。
床には大量の紙、紙、紙…………
やがて、完成した作品が石壁に貼られます。
あの、夏の匂のする詩が。
ことばが、そこにあるんです。
なぜ村治さんはそんなことが出来るのか。
なぜ村治さんはこんな状況でもこんな詩が詠めるのか。
今日も村治さんは作品を作ります。
私は作品を読ませて頂きます
初稿ですら光り輝いているのに、推敲された作品の輝きといったら!
村正村治が獄中に居るのは間違っていると私は思います。
けれど村治さんは、獄中にいることを意に介さずに、今日も詩を作るのです。
「なんでそんなに作れるんですか」
「書きたいことが多すぎてね」
「外界への焦がれって…」
「…それなりに、帳尻というものは必要だと思う。おれが人斬りであったこと。おれが、おれ自身を無駄にしてきたこと。許してくれとは言わん、が…」
ひと呼吸。村治さんは続けます。
「…世の摂理のバランスというかな。まぁ帳尻だ。そういうのも、必要だとは思う」
「……」
「貴女には、いつも感謝しているよ」
「え……?」
「つくづく、読者というのは有難い、と思う。本当に…」
さて、この時
私は覚悟を決めたのです。
次の日の夜。私はいつものように村治さん。
ただし、手には爆弾。
「……爆刑とは斬新だな」
「違います。村治さん、出ますよ」
「…石壁を爆破して、おれを連れ出しどうするのだ?貴女はどうなると……」
「変わるといえば変わりますね。私は看守じゃなくなる。しかしそれ以上に…」
「……?」
「村正村治が外の世界を見て、さらに詩を書く!
その詩世界の高まりを私は見たいだけッ!!」
ぽかん、と村正村治。次に、クククと笑い、
「酔狂なる……貴女は、それで良いのか?」
「これも推しごとの一環です。人斬りや獄中よりはふぁんさ(ファンサービス)くらい楽勝でしょ、村治さん?」
やがて、村正村治は紙と作品と辞書をかき集める。
村「外界……世界、か」
看守は爆弾に着火し、牢獄の石壁を破壊する。
夏の風が、吹き抜ける。
村「届くかな?」
遥か昔に剣を捨て
ペンとインクを手に持って
村正村治は右手をのばす
その詩の射程は文学史よりもながく
世界を愛した詩人がひとり
入道雲ばかり追いかけて
夏の匂がした
彼は詩人、村正村治
(おしまいです)
あとがきというか中世レッズ・エララ上の倭国情報
登場人物
・村正村治:獄中詩人
・看守:文学少女
・黒魔術師:エヴィルといいます。頭がいい
・少女剣士:時雨といいます。つよい
「倭国」という極東の国での話です。
※より詳しいレッズ・エララ設定……
倭国、滅んだよね?って話ですが。
正確には、この時点ですでに国土崩壊に至った人災「極東捻転」は起こっておりますので、「倭国」って国は確かにもう無いんですよね。
つまりこの話は極東捻転後の混乱期で、人斬りもそりゃ居ますわな、っていう。
それからやんごとなき貴族、おまえよく生きてたなって思いますが、まぁ資金を隠し持ってたんでしょうか。それぐらいでないと混乱期の倭国である程度の勢力になってはいないたぁ思います。
あと、エヴィルが辞書を持ってた件ですが、ナボコフの例を出すまでもなく「亡国の民、亡命作家ほど辞書を求める」というので、倭国の言葉=カンシブン基本コトノハの書物はこの時期、大変な貴重品です。それをあげたエヴィル君の心意気ってやつですね。
このあたりの倭国動乱のテーマ曲はこんな感じです。↓
この曲が収められているシングル盤はこちら














