残響の足りない部屋

模型と音楽についての日記ブログです。楽しい随筆文章を書くのを継続していきたいです。

【短編小説】獄中詩人村正村治の右手はながい(下)

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SSの「上」編はこちらです。

modernclothes24music.hatenablog.com

 

看守

私はこの監獄の看守です。
私は望んでここに務めています。
なぜなら、村正村治さんがここに投獄されているからです。

村治さんの罪状は、私からしたらそんなに大したものではありません
もっと許せない罪人などいくらでもいます
そんなことより私は、獄中詩人村正村治の作品に惚れているのです。

四方に敷き詰められた石壁は重く、
鉄格子には罪人たちの怨嗟の声が沁みつき。

そんな獄中でありながら村治さんは、
詩を作り続けています。
床には大量の紙、紙、紙…………

やがて、完成した作品が石壁に貼られます。
あの、夏の匂のする詩が。
ことばが、そこにあるんです。

なぜ村治さんはそんなことが出来るのか。
なぜ村治さんはこんな状況でもこんな詩が詠めるのか。
今日も村治さんは作品を作ります。

私は作品を読ませて頂きます
初稿ですら光り輝いているのに、推敲された作品の輝きといったら!
村正村治が獄中に居るのは間違っていると私は思います。
けれど村治さんは、獄中にいることを意に介さずに、今日も詩を作るのです。
「なんでそんなに作れるんですか」
「書きたいことが多すぎてね」
「外界への焦がれって…」
「…それなりに、帳尻というものは必要だと思う。おれが人斬りであったこと。おれが、おれ自身を無駄にしてきたこと。許してくれとは言わん、が…」

ひと呼吸。村治さんは続けます。

「…世の摂理のバランスというかな。まぁ帳尻だ。そういうのも、必要だとは思う」
「……」
「貴女には、いつも感謝しているよ」
「え……?」
「つくづく、読者というのは有難い、と思う。本当に…」

さて、この時
私は覚悟を決めたのです。

 

次の日の夜。私はいつものように村治さん。

ただし、手には爆弾。
「……爆刑とは斬新だな」
「違います。村治さん、出ますよ」
「…石壁を爆破して、おれを連れ出しどうするのだ?貴女はどうなると……」
「変わるといえば変わりますね。私は看守じゃなくなる。しかしそれ以上に…」
「……?」
「村正村治が外の世界を見て、さらに詩を書く!
その詩世界の高まりを私は見たいだけッ!!」
ぽかん、と村正村治。次に、クククと笑い、
「酔狂なる……貴女は、それで良いのか?」
「これも推しごとの一環です。人斬りや獄中よりはふぁんさ(ファンサービス)くらい楽勝でしょ、村治さん?」
やがて、村正村治は紙と作品と辞書をかき集める。

村「外界……世界、か」
看守は爆弾に着火し、牢獄の石壁を破壊する。
夏の風が、吹き抜ける。
村「届くかな?」

 

 

遥か昔に剣を捨て
ペンとインクを手に持って

村正村治は右手をのばす
その詩の射程は文学史よりもながく

世界を愛した詩人がひとり
入道雲ばかり追いかけて

夏の匂がした
彼は詩人、村正村治

 

(おしまいです)

 

あとがきというか中世レッズ・エララ上の倭国情報

登場人物
・村正村治:獄中詩人
・看守:文学少女
・黒魔術師:エヴィルといいます。頭がいい
・少女剣士:時雨といいます。つよい

 

倭国」という極東の国での話です。

 

※より詳しいレッズ・エララ設定……

倭国、滅んだよね?って話ですが。
正確には、この時点ですでに国土崩壊に至った人災「極東捻転」は起こっておりますので、「倭国」って国は確かにもう無いんですよね。
つまりこの話は極東捻転後の混乱期で、人斬りもそりゃ居ますわな、っていう。
それからやんごとなき貴族、おまえよく生きてたなって思いますが、まぁ資金を隠し持ってたんでしょうか。それぐらいでないと混乱期の倭国である程度の勢力になってはいないたぁ思います。

あと、エヴィルが辞書を持ってた件ですが、ナボコフの例を出すまでもなく「亡国の民、亡命作家ほど辞書を求める」というので、倭国の言葉=カンシブン基本コトノハの書物はこの時期、大変な貴重品です。それをあげたエヴィル君の心意気ってやつですね。

このあたりの倭国動乱のテーマ曲はこんな感じです。↓

この曲が収められているシングル盤はこちら

www.youtube.com

【短編小説】獄中詩人村正村治の右手はながい(上)

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このSS(ショートストーリー、短編小説)は、2025年8月30日に、レッズ・エララ神話体系/8TR戦線行進曲の告知ついったーでリアルタイム執筆したものです。ログはこちら(Twilog)

その後Twitterまとめサービス「posfie」で一連をまとめました。↓

posfie.com

本ブログでは、文章を少し調整し、イラストを添えてのUPです。

これは残響(ブログ管理人)が妄想し続けている「レッズ・エララ」という世界のお話です。どうぞお楽しみください。

 

レッズ・エララ神話体系 中世篇 時雨とエヴィルシリーズ「獄中詩人村正村治の右手はながい」

彼の詩は、
自身がいかなる境遇にあろうとも、
いつも夏の匂(にほひ)がした。

かなたの幻想に目を転ずれば、
ほら、濃い藍の空、入道雲

挿絵

村正村治(むらまさ・むらじ)の半生に特に意味はない。彼自身もそう思っている。
人斬りふぜいに何の意味があるものか。

村正村治の右手は、産まれた時から異様に長い。
餓鬼の時分にはすでに足の長みと同じい。
あたたかな親愛に恵まれぬからだ。
されど太刀を振るうには恵まれた体躯。

気づいた時には親を惨殺していた。惨殺しなければ、彼は殺されていた。
かくして彼の長い右手は剣を持つ。
あまりに長いリーチからの刃の軌跡、そは大蛇のやうであったと人は云う。
彼の剣術は八分の才と二分の鍛錬と見なさるるー--生き残る為の人斬り重ねを「鍛錬」と呼べばの話だが。
……鼻白むに過ぎない。

「奴は強い」と、まあまあ持て囃されたが、村正村治にとっては何の意味もない。
人を斬って飯と金、己を明日に繋ぐだけ。
そんなおれを繋いでなんなんだ?
……彼の鼻白みはますます増す。

彼は無学だから「殺してもまぁ良いだろう」程度の者を斬って飯と金を得ていた。
そして、彼はある日しくじった。その殺しは全然よくなかった。やんごとなき方(貴族)の関係者を殺ってしまった。

かくして彼はまぁ、追われますわな。
一人二人を斬るのとは訳が違う。蟲のように湧いて出てくる追っ手たち。
それでも村正村治は強かった。逃げ切れるくらいは強かった。
…逃げ切って、どうなる訳でもないだろうに。

服は血に塗れ(まみれ)、足は土ぼこり。
疲れに疲れ、悪霊に取り憑かれているかのよう。
疲れ切ると益体もないことを思いつくのを彼は経験で知っている。
絞り切るように走り詰め、いい加減追っ手も途切れ。
村正村治は立ち止まる。そこで人生をやめてもよかった
おれに何の意味もないことはわかっているーー ー

 

ーーーけれど、
村正村治は見てしまった。
藍色の空に、
何の意味もないまっしろな入道雲

恐ろしいほどの永遠の無音
陽炎がゆらめいている
倭国はいま、夏だった。
そんなことにも気づかなかった

村正村治は、泣いていた。
なぜだろうと思う間すらなく
ながい右手を伸ばしていた
届くはずもない空にむかって 

 

村正村治は何かに触れたい、と思った。
なんでもよかった。
あのきれいなもののやうであれば、なんでもよかった。
それは銭金でないことははっきりしていた。
そしてすぐに「もしかしたら何でも役に立つのかもしれない」と気づいた。
例えば、先ほど思いついたような、益体もない言葉であっても。

路傍の石はこんなに面白い形をしていたのか
樹々の涼けさが染み入るように目を閉じたくなるのはなぜだ
夕陽が沈む色はここまで暴力的だったか?
見るものと思いつくものが多すぎる。
それら全部を覚えておくのはおれの頭では無理だ
……記録するしかない。
すぐに村正村治は剣を紙束と交換した。

だが村正村治は当然ながら字を知らない。
誰かおれに字を教えてくれ、出来るものならばもっと多くのことばを教えてくれ!
彼は生まれて初めて狂わんばかりに願った。

 

これはたまたまの事であるのだが、
その時、村正村治が居た場に偶然、銀髪黒衣のギラついた目の黒魔術師がいた。

たまたま居たこの旅の黒魔術師は大変な知恵者である。
黒魔術師が、隣に居る異常に強い少女剣士に語る言葉の数々。耳にした村正村治は魔術師の天才を感じ、畏るる、そして希望。
(※試すまでもなく少女剣士が異常に強いのがわかるのは、村正村治も強いからです)
村正村治にはもはや恥などない。

「お願いする。どうかこのおれに、読み書きを教えてもらえないだろうか…!書きたいことが多すぎるのだ…!」
愚にもつかぬ願いだとはわかっている。
無様であるとも。
だが何の躊躇いもなく村正村治は土下座する!

次からの展開は余りにも意外であった。
狂暴な笑みを浮かべた黒魔術師は、物凄く丁寧に村正村治に読み書きを教えはじめた
後になって村正村治は、この異国の若い黒魔術師がここまで倭国の言葉に精通していることに驚く。
だがそれ以上にこの師は旅の途中だというに、一週間かけて熱心におれに読み書きを教え続けてくれたばかりか、最後には餞別と言って辞書までくれたのだ!

なぜ師はここまで親切にしてくれたのか、未だにわからない……
だが、おれは今も最大の感謝をしている。あそこで師に出会わねば、おれは今、詩を書けていない…!

 

……そんなことを、獄中に繋がれた村正村治さんは、看守の私に話してくれました。
ながい右手で、傍らの辞書を大事そうに撫でながら。

 

(下)につづく……↓

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漫画「月光査読」

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本作は、残響が描いたオリジナル4コマ漫画同人誌「月光カモミール」に収録された作品です。2024年作。

創作世界観「レッズ・エララ神話体系」の中世篇「時雨とエヴィル」シリーズ作品。

あらすじ、登場人物

p1

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p6

p7

書誌情報

表紙

同人誌「月光カモミール」2024/05/05刊
同人誌刊行サークル名:RedsElrla Publising(現「レッズ・エララ」)
レッズ・エララ神話体系 中世篇「時雨とエヴィル」シリーズより

「月光カモミール」収録作品その2

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ホームページ「レッズ・エララ神話体系」掲載ページ(内容は同じです)

redselrla.com

 

今年から、これまで残響が作ってきた漫画作品や、音楽作品を当ブログにてUPしていきます。
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漫画「カモミールを煎じる」

Info

本作は、残響が描いたオリジナル4コマ漫画同人誌「月光カモミール」に収録された作品です。2024年作。

創作世界観「レッズ・エララ神話体系」の現代/近未来篇「ほうき星町」シリーズ作品。

 

あらすじ・人物紹介

 

 

 

 

 


書誌情報

同人誌「月光カモミール」2024/05/05刊

同人誌刊行サークル名:RedsElrla Publising(現「レッズ・エララ」)

レッズ・エララ神話体系 現代~近未来篇「ほうき星町」シリーズより


今年から、これまで残響が作ってきた漫画作品や、音楽作品を当ブログにてUPしていきます。
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