残響の足りない部屋

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かくして招待状を受け取ったからには劇場に行かねばならねぇな!--At the Garret×欠陥オルゴール「Invitations to Black Theater」

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atthegarret.web.fc2.com

原作・イラスト:兎角Arle(欠陥オルゴール
作詞・作曲:霧夜純(At the Garret
歌唱:鹿伽あかり・桃羽こと(At the Garret)

●今回の先行シングルの仕様

漆黒の招待状が届きました。

 

物語音楽同人サークル・At the Garretの2020年秋M3新作は、同人サークル・欠陥オルゴールとのコラボレーション作品です。
今作は、次(2021年春開催予定)の同人イベントで頒布予定のアルバムの先行シングルという位置づけです。

さて今回、自分はAt the Garret公式通販(Booth)で、ダウンロード(DL)配信ではなく、限定生産の現物媒体を予約購入しました。
「盤(CD)」ではありません。DLコードのついたカードです。

同人即売会において、CDを頒布せず、DLコード&パスワードが記されたカードを頒布する形態も、今は普通になりました。
しかし今作、こだわりが凄い。「粋(イキ)すぎる!」カードの装丁なのです。

どういうものかというと、上記写真のように、黒い封筒に今作シングルのタイトルが金色文字で記され、封はによって閉じられているという凝りっぷり。
もちろん封筒の中には、DLコードが記されているカードが入っていて、これが歌詞カードを兼ね、イラストが描かれています。

この粋で上品な装丁の設(しつら)えは、まさに「好きな事を好きなように表現する」同人創作そのものです。
しかし今作、真に素晴らしいのは、この装丁が伊達ではなく、作品内容と密接に同期リンクしていることで……

●#1「Invitations to Black Theater」

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壮麗なストリングスのリフをバンドサウンドが支え、ピアノの旋律が緊張度高く疾走しながら始まる疾走曲です。

ザクザクとギターが刻まれ、ヴォーカルがストレートに流麗に歌い上げます。楽曲アレンジの展開で、バンドサウンドが一時的に「止め」を使ったりしますが、しかし緊張度が途切れることなく一気に聞きとおせるのは、練り上げられたメロディの歌唱が殴りつけてくるからですね。ストレートに美メロシンフォニックロックのパンチを放たれたらノックアウトされる他あるとでもいうのですかあなた。

特筆したいのはコーラス! サビの裏を支えるコーラスワークももちろんですが、楽曲中間部でヴォーカルを交代しての高音多重ヴォーカルで妙なる旋律の声が、世界を切り裂くように入り込んでくる所の格好良さといったらどうだ! そこからまたピアノを挟み、メインヴォーカルに再び移るのが良い。

そして、装丁が作品内容と密接にリンクしている事の「その1」ですが、歌詞内、しかもサビで「招待状の封を切ること」に言及しています。
リスナーがDLカードの封を実際に開けることから作品の全てが始まる……!リアルの音楽聞き体験と作品世界が完全に同期しています。装丁も作品の一部どころか、装丁からすでに作品世界は始まっているんですよ!
DLコードのカード1枚の封筒という物質的形式をここまで「活かしている」。ここまでくると、もはやDLコードカードはこの場合、CD(盤)の代用でなく、「これでしか味わえない」形式なのです。深読み? 否、だったら歌詞中でここまで言及するかって話です。

思えばAt the Garret音楽は、初期から今に至るまで霧夜氏の密室芸ですが、同時に屋根裏の劇場へ「ようこそ」と、客人(リスナー)をしっかり迎え入れている芸術であります。「美しければいいんだろ」の塩対応ではないわけです。
ならばこうして迎えられたリスナーは、装丁を含めた音楽作品を味わうのが本懐です。

王道の、女性voシンフォロックでございます。名刺代わりの招待状リードトラックとしての魅力たっぷりの風格です。壮麗で戦慄する疾走、美しくないパートがマジでひとつもない。バンドサウンドもビシビシ効いています。本作シングル、トラック2でもそうなのですが、ドラムワークが激しいです。

●#2「A rumor of Black Theater」

パレード感のある、騒がしくも妖しい曲です。
どことなくSound Horizonを想起しますが、じまんぐ的なる者はここにはいない。いや、屋根裏密室芸で鹿伽氏や桃羽氏にアレをやってもらっても大層困るので、そっち方面のアクターを充実しなくてもいいですあとぎゃれは。屋根裏でじまんぐがどったんばったん胡散臭く楽園パレード大暴れされてどうするっていう。

ドラムワーク、とくにシンバルがバシャンと鳴るおかげで、祝祭感があるパレード曲ですが、「なんかヤバい事が起こっていることは間違いない」という妖しみが常に漂っています。ワー楽しかった終わりっ!……ってことには絶対ならない曲です。そんな幻惑なるユーロ歌謡色もある曲。ホーンやストリングスのシンフォなリフの壮麗な鳴りっぷりも、mix担当の方すげぇ良い仕事していますね。

さて、この曲の中にも「招待状」への言及があります(その2)。曲の登場人物もまたこの招待状を受け取っているのです。
こうなってくると、先ほど「リアルとの同期」と書きましたが、それは単純に幸せすぎる話なのか?という疑念が出てくるのが、At the Garretと欠陥オルゴールの繰り出す「毒」ですねぇ。リスナーもまた、この楽曲の登場人物のようになるのではないか?招待状を受け取ったということは、おれらの中にもまた「そういう要素」があるのではないか? 毒ですね~怖いですね~。おなじ招待状を受け取ったのだから……という、登場人物との同期。屋根裏で鳴るオルゴールにはまさに気が抜けない……!

●かくして

前に、自分は自作の同人音楽CD(サークル・8TR戦線行進曲の作品)をありがたくも買ってもらった方に、

「作品っていうのは、自分がたのしく作ったものではありますが、こうして手に取って聞いてもらって、改めてこの世に産まれなおすのだから、あなたのようなリスナーは命の恩人のようなものです」

……と話させてもらったことがあります。


リスナーが聞いて、改めて完成する「作品」という劇場。そういう意味において、作者とリスナーは、きわめて良い意味での「共犯関係」にあるとも言えます。少なくとも自分は、良い意味でそう思っています。
そして今作のような「招待状」作品は、「こういう形式(DLカード媒体)」で受け取ったら、もうただの「あー聞いた」に終わるものでなく、ひとつの濃密な共犯の「実体験」になります。
いや、本作は「絶対に招待状DLカードで聞くべし」って言おうとしているわけではなく。誤解のないように付記します。あくまで自分は「贅沢な経験をさせてもらいました」っていうおはなしを、こうして日記として書いているわけです。自慢ではない。ただ、公式通販で予約していてよかったなぁ、と思い、改めてAt the Garretと欠陥オルゴールの両サークルにありがとうございました、と告げます。これが同人、これこそ同人創作活動です。

そういうわけで、招待状をこうして受け取って、楽しんでしまったわけです。ならば、次に見事に控えている、アルバムに期待するなっていうのが無理な話ですよ。まんまと両サークルの思惑にひっかかっているリスナーでございます。しかし、こうして濃密な体験をしてしまった以上、作品世界に対する「愛着」が確かに生まれてしまいました。なので、かくして招待状を受け取ったからには、劇場に行かねばならねぇな!

 

・過去の、At the Garret作品の感想

2020春M3作品感想(1)退廃耽美デカダンスの悲劇なる物語音楽はバチクソ充実しているーーAt the Garret「子供部屋の共犯者」 - 残響の足りない部屋