ちょっと前に読了していたのですが、ここ最近の残響のリアル仕事の忙しさと体調不良(なんかテンプレになりつつある)で、感想が伸び伸びになっていました(申し訳ないです)。
そんなわけで今回は、「謎降舎」(めいこうしゃ)塔上月扉氏による、「絵を描く生活」の小説作品、「一日一枚好きな絵を描くことに決めた僕の日々」の感想です。

公式ページ
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【新刊発売情報】
— -謎降舎-★Kindle小説販売中 (@meikosyabook) 2025年7月10日
7月10日発売
『一日一枚好きな絵を描くことに決めた僕の日々』
塔上月扉 Amazon Kindle電子書籍 200円
絵を描くって決めたのに全然描けてない。かっこいい画材も欲しい! この気持ち、わかる人にはわかるはず。あなたの創作意欲を刺激する物語、読んでみませんか?
Kindle… pic.twitter.com/aPeK7TLBsU
謎降舎さんが描く「絵(を描く生活)」の物語は、私、大変好きでして。
前々から、しっかりした感想を書こう書こうと思いながら、今に至ってしまいました。ああ、夏が終わっちまう……。
さて、本作の発表時から、私は謎降舎さんの過去作「スケッチとアイスティーの夏」を想起しておりました。
私はこの作品が大変好きで、自分自身が絵の道ーー絵を自分のものにするには、愚直に進むしかない「絵の道」ーーに、くじけそうになる度に読み返しております。私も、この作品の主人公のような気持ちの良い「絵の道」を歩みたいものだ……と思いながら。
そんなわけで期待しておりました本作「一日一枚~」ですが、今回も大変なシンパシー(共感)を覚えながら読みました。
なにしろ、出てくるアイテムと心情が「これは私か?!」としみじみ思いましたもので。
まず、登場アイテム(画材、モチーフ)ですが、鉛筆やペン、数々のモチーフ(題材)、万年筆、スケッチブック、持ち運び用ノート、絵の具、そしてデジタル(タブレット)移行……。「日々」と題するだけあって、この作品は日記形式なのですが、毎日毎日主人公はいろいろなものを試していきます。
It'sシンパシー!私もやりました! この日記ブログでも過去に結構書きました!
アナログ画材とデジタル画材。机の上の画板を斜めにしてみたり、お絵描きソフトをいろいろ試したり! アナログ画材への愛と、デジタルガジェットへの興味。ンモーーー、私はこの小説に出てくるアイテムのほとんどを手にとっていますよ! なので私はこの小説の描写が「手に取るように」わかる!字義通り!
modernclothes24music.hatenablog.com
画材道楽になってもしょうがないなぁ、と思いながらも、しかしこの画材道楽が楽しくて仕方がない。それは今も続いております。
ーー画材道楽。楽しい。
しかし、絵を実際に描かねば、絵は上手くなることも、完成もしないわけです。
このあたりを巡って、本作のストーリーは、「絵を描きたい!」という気持ちから、なんか少しずつ「ズレていく」のです。画材を道楽的に試していきながらも、心情が……。はい。
作中、なかなか、バッシバッシと絵を描いて……はいかない状況が続いていっちゃいます。実際はこの主人公はそこそこ絵を描いているのですが、バッシバッシと快刀乱麻に描きまくって作品が完成しまくり、絵の技術も上達しまくり!…ってわけではない。
め、滅茶苦茶わかる……!この「心情」というか、実際になかなか描かないが故に絵の道からズレていってしまっているような感じ。そのズレを肯定出来ない自分の矛盾した心情。そんな日々。わかる……わかりまくる!
本当に絵の才能がある人なら、どんな画材だろうと(それこそチラシの裏紙と鉛筆)バッシバッシと描いていくものだ……という通念。才能、あるいは「本当に絵が好きならば」という……。
うーん………。
私もこのあたりでは随分苦しみました。理屈の上ではこの「才能or愛があるならどんどん絵を描いて完成させていくもんだろう」式の考えを、いつも念頭に置いて考えてしまっていて。日々実際に絵を描く(絵を勉強する)のがなかなか腰が重くなってしまっていました。実をいうと今もそのきらいはあります。
本作のラストですが、唐突なようで、軽いようで、それでも主人公自身が「絵を好きで居続けたい」という心情を着地させたという点で、私は納得しました。
ハングリーに、自分自身を追い込むようにして絵を「頑張って」、技術が上手くなって、その果てに「絵が嫌いになる」日々を送るようになってはいけないんだ……という主人公の考えが伝わってきます。だって、絵は「趣味」なんだから。
「趣味を趣味として楽しみ、貫徹する」というのも、なかなか難しいものです。技術を上げたい。認められたい。自分の夢見た世界を正しく描写したい。……やがて、絵を描くのがめんどくさくなって、辛くなって。
私も思うのですが、絵を描くということを、改めて趣味に「する」、趣味として「育てる」って、案外難しいな、と。
結構いろいろ考え込んでしまうのですね。自分には才能がない、とか。自然に絵が描けていない自分はそれほど絵が好きでないのでは?とか。だったら、もっと才能のある他の分野(表現ジャンル)に専念した方がよいだろう、とかいう打算。
でも……。絵に関わっていた時の全てが、辛かったわけでもないんですよ。
また、絵に関わる道具の道楽も、全部が「逃げ」だったわけでもないし。
なにより、とにかく「絵が好き」なんですよ。私たちは。
「絵の文化圏」とでもいいましょうか。作品、画材、画家、模写、画材屋さん、美術館、デジタルガジェット、画集……そういう絵に関わるもの全部。
本作ではそういう文化圏なる言葉でもっては説明してはいないですが、同じことを確かに言っています。ともかくあの文化圏……「あれら」がもう全部好きなんだと。画材屋さんに入る度に胸が高鳴るこの気持ち。
絵が上手く描けなくても、なかなか上達できなくても、その文化圏まで嫌いになりたくないし、自分に嘘をつきたくもない。
だから、この小説は画材を買いまくってバッサバッサと絵を描きまくる快刀乱麻の小説ではないです。
そうではなく、自分の生活に「絵」というものを取り入れて、日々を善くしていければいいな、と願う一人の絵描きのお話です。
趣味として絵を描くことを、自分の生活のなかでどうにか落ち着けさせる……というか、「趣味(ホビーライフ)」の取り扱い方、上手い距離の取り方、っていうことにも言及している小説です。
だから、実際に絵を描いている方にぜひこの小説をお薦めしたい。出てくるアイテムと心情へのシンパシーももちろん感じながら、この主人公が最終的にたどり着いた、軽みある「絵との付き合い方」を、あなたがどう思うかにも私は興味があります。
それに対し、共通の正解はあんまりないような気がする。趣味はどこまでも高みに登れば良いのだ!というのもひとつのドグマでありイデオロギーであるかもしれない。趣味を自分の日々の生活の中でどう取り扱い、落ち着けるのか。それは各々にとって確かに「違う」から。それこそが人生の形(諸相)だと思う。
ともかく、絵を描く生活を楽しみたい……。そのアプローチは思ったよりいっぱいありまくる。そんなふうにして、絵を描く過程をこそむしろ楽しんでいこう。そんな風に私はこの小説を受け取りました。
塔上氏の文体はとても丁寧で、嫌みがありません。今回の絵のお話も、やっぱり爽やかで、さらに絵を描くことが好きになる作品でした。有難うございました。
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