残響の足りない部屋

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2023年に良く聞いていた音楽(3)

だいぶ間が空いてしまいました。申し訳のないことです。

このブログの筆者が2023年に愛好していた音楽の記事です。今回がそのシリーズ最後の回です。

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選考基準は例年と同じく

発売年度を考慮せず、【自分が去年よく聞いていた】という縛り

ですが、記事に入る前に、ついさっき(2024/03/05)ヨルシカの新曲「晴る」のMVが出まして、これにとても心打たれたので、ちょっとだけ書きます。

 

反戦歌、平和への祈りとしてのヨルシカ「晴る」MVについて


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この曲はアニメ「葬送のフリーレン」第2クールのオープニング曲です。「葬送のフリーレン」はとても静謐で情感のあるファンタジー作品でして、私も原作漫画1巻が出た時から愛読しておりました。ヨルシカがOP曲を書いて、その似つかわしさに良かったと思いました。

そしてこのMVは、アニメとは関係がなく、ヨルシカの「映像作品」としての発表です。ヨルシカはシングルカットされた曲はすべてMVを出していて、いずれも「物凄く」力の入った映像作品です。その意気は確実にn-buna氏の「映像へのこだわり」によります。

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そして本作「晴る」MV。

そうか、n-buna氏、本曲を「反戦歌」としましたか。

少年、今は亡き父親(「幽霊」と書いただけでもうヨルシカ世界の住人ですね)、軍用機、破壊された思い出の町、汚れた服、手紙と喪失、墓と芽吹き……「嘆き」、そして「壁」……ラストのsuis氏のアカペラ、「遠くまで遠くまで」と壁の上を飛びゆく鳥。

朗らかな曲調で、一個も歌詞では戦争について語っていません。MVも隠喩の数々です。でも今列挙しただけでも、この2024年の戦火に、思い当たるところが多すぎます。

私はこのMVに感化され「うおぉぉおお反戦反戦!」て言うつもりはないです。文字にして改めて思いましたがちょっと馬鹿っぽすぎるじゃないですか…ヨルシカファンを名乗れないぞ。「晴る」は素直に良い歌で、n-buna氏もこの曲に政治性を絡ませまくるのを意図しているわけではないはず。

それでも私はn-buna氏がこの曲に「反戦歌」そして「平和」への意志という側面を持たせたことに、じんと胸打たれるものがあります。

音楽と、社会派・政治性が一緒になってがなりたてる事は、時に意味がありますが、時に正直「勘弁してくれ」と思うこともあります。そのあたり、前にも書きました。「私は」、音楽と政治を結びつけることは基本的に良いことだっ!…ってなかなか思えない人間なのです。(私は、ね。他の人のことは知らないのです。ご自由に)

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それでも私は、今回のn-buna氏が「晴る」MVで提示した「反戦歌」という側面を支持します。

ヨルシカファンとして言えば、n-buna氏という作家は「考えすぎてしまう」男です。芸術至上主義のスタンスをとる氏ですが、自身(ヨルシカ)が「どう見えるか」というのを精密に考えることも出来てしまうクレバーさを持っています。だから、n-buna氏は今回のMVを作る際に相当考えたと思うのです。それも、自己批判的に。

「それでも」と。n-buna氏がいろんな思考や自己批判にぐっと堪え、それでも、とこのコンセプトで世に放ったことを、私は支持したいです。

この現実世界には確かに希望が足りない。でもこうやって意志を形にして作ることも出来る。鳥が飛んでいくように。

反戦歌についてはZAZEN BOYSの項でも書きます。

 

人間椅子「色即是空


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本作、サウンドが実に重い…!どのリフもメロディも、重く、そして切れ味鋭い。歌詞も文学的・哲学的で、人間の生き死にを真っ向から見つめます。

人間椅子の歌詞は、ただ狂気と猟奇でデカダンスの愉悦に浸るだけではなく(それはそれで素晴らしい)、もはや「生きた説法」と言うべき刺さり方をします。「三途の川」の時もそうでしたが、人間の生き死にを見つめ、「それでも!」と強い励ましを与える歌を歌います。それが彼らのハードロック、プログレッシブロックです。

ラストの曲「死出の旅路の物語」が特に好き。勇壮なメロディーとリフ。直線的に疾走していく曲ですが、世界観は新約聖書ヨハネ黙示録を引用しつつの「死」を見据えるものです。そのようにハード極まりないですが、曲としての説得力が凄い。

アメリカ民謡研究会「戻れ戻れもどれもどれも」


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トランシーなシンセサイザーサウンドに乗せて、詩の世界が虚空の天球に響く!

私が去年聞いた曲の中で、ベストです。こういう音の世界にずっと居たい、世界にすうーっと吸い込まれたい。手が届かない、とか、もう戻れない、というように感じさせる切望のエモーショナル。

上海アリス幻樂団 東方獣王園BGM「タイニーシャングリラ」


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東方project新作のBGMです。この二十年来、私は東方=上海アリス幻樂団=ZUN氏が世界一好きな作曲家なので、今作も楽しみにしていました。ゲームをプレイし、音楽を聞かない話がないのです。

一番好きだったのがこの曲。胡弓のシンセ音源をZUN氏が導入し、それが世界観的にすごく良い仕事をしています。この音あっての東洋神仙中華幻想ですよ!疾走感あるトラックに、美しく、悠々とたゆたう胡弓シンセ。やはり良い…。ZUN氏が影響を受けている東儀秀樹、そして東洋ニューエイジ音楽を思い出したりもします。

ZUN氏が同時代を生きる作曲家として今も活動を続けていらっしゃることがどれだけありがたく、嬉しいことか。これからも楽しみにしています。

MONO「FENDER SESSIONS」のライヴ演奏


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昨年の年末に聞きました。このシリアスな音響、ノイズ、世界観、ギターノイズシンフォニー……素晴らしいです。私のシューゲイザー観、ポストロック観、シリアス音響観はやはりこういうサウンドだよなぁ、と、原点をビシビシ感じさせてくれました。このギターノイズと空間音響をずっと聞いていたいです。これがオルタナティヴロックです!

 

なみぐる feet.ずんだもん「ずんだパーリナイ」「ずんだシェイキング」


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MONOの次とは思えない選曲ですがw しかし私は聞き逃しません、この作曲者・なみぐる氏、絶対ブラックミュージック好きですよね。曲調に、どうしようもなくファンキーさがあります。それはずんだもん(合成音声、キャラ)のファンキーさだけでなく、音にR&Bが、ディスコが、ファンクが刻印されています。リズムアレンジにJB(ジェームズ・ブラウン)のライヴ演奏の疾走する「血」を感じさせますね。第一歌詞でアート・ブレイキーとか言ってる時点で以下略。

Где Фантом?「Это так архаично」


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2019年より活動している、ロシアのポストパンクバンド。最初、例によってSovietWave的に聞いていましたが、だんだん「もうこれ現代ロシアン・ドゥーム・ポップだな」と思うようになりました。

なんてったって、バックトラック(オケ、演奏)がポストパンク的に軽快なのに、ヴォーカルが暗すぎる。イアン・カーティスジョイ・ディヴィジョン)の数割増しで暗い。最初聞いた時「なんでこんな暗いんだ」と思いましたし、実は今聞いても「なんでこんな暗いんだ」って思います。

しかし音楽って面白いもので、その暗さ、ミスマッチさがクセになるんですねぇ〜。この演奏とvoの調和が、このバンド独自の個性と考えるようになってきました。独特の世界観があります。そしてなんといっても、「異国」の感じが、味がします。ロシア、ユーラシア大陸の味というか。これはこの地域の音楽にしか出せない味です。

 

ZAZEN BOYS「永遠少女」


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ヨルシカのところで予告しましたが、これも反戦歌です。人間に歴史あり、って良く言われるけれど…時に、人は歴史の中に呑まれちまっている。どうしようもなく、歴史がもたらすブルースを、引き継いでしまっている。でも、苦悩をどこまでも引きずっていくだけが永遠じゃないはずだ、とこの曲は歌います。

向井秀徳は、この曲が収録されている新作アルバム「らんど」で、歴史を継承している「人」を見据えるようになったのだな、と思いました。これまで少女や冷凍都市の中に、憧憬や皮肉や、一瞬のキラメキや狂気を見出そうとしていた向井でした。顔のない、無記名の匿名の「彼ら・彼女ら」を描いていました。

それが本作「らんど」では、町の中で生きている、顔のある「人」たちを、彼らの歴史込みでしっかりと見据えて、深いところから大きな心で掬いあげるかのような、やさしさ、愛おしさ、強さを感じさせました。その人間的深みを私は支持します。

ベース・MIYAが本作から加入しました。素晴らしい。不穏でゴリっとした大蛇のようなのたうち回り方。ドラム・松下との相性もとても良い。ギャリっとした向井のギター・コード・カッティングに、カシオメンの紡ぐ悠久さすらあるフレーズが絡むと、なんだかそのサウンドは、「歴史を見つめる眼差し」ってやつすら思ってしまいます。

この曲「永遠少女」も、そんなわけでとても好き。あとすごく気に入ってるのが「YAKIIMO」という曲。「いしや〜きいも〜」という焼き芋屋のサウンドをそのまま歌っている曲ですが、なんだかどうしようもなくブルースを感じます。焼き芋屋の人生、市井の人々のブルースを…。

そうです。反戦、そして平和への祈りは、この「市井の人々の見る景色」を絶対に失ってはいけません。それがなかったら空理空論でしょう。というか「市井の人々の見る景色」を守りたいからこその反戦なのです。争ってる場合じゃない。内ゲバってる場合じゃない。冷凍都市であるけれども、そこに生きている人々はたしかに熱い血が通っているのだと。もしかしたら人々のエゴが都市を冷凍させてしまうかもしれないけど、それでも人の暖かさは…純朴さは…。

私は向井が日和ったとか、ヌルくなったとか、ただチルくなったとかって絶対に思わない。これが向井の音楽家として、詩人として、人間としての成長、深化なのだと強く思う。「らんど」、大好きなアルバムだ。

 

おわりに

そんなわけで、2023年に良く聞いていた音楽でした。

今年も、いろんな世界やいろんな時代の音楽を聞いていきたいと思います。