残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

2023年に良く聞いていた音楽(2)

前回の続きです。選考基準は

発売年度を考慮せず、【自分が去年よく聞いていた】という縛り

です。書いてて結局長くなったので、すいませんがまた次回に続きます。

それではよろしくどうぞ。

modernclothes24music.hatenablog.com

 

スピッツ「ひみつスタジオ」


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ずっと推し続けてきたロックバンドが、ずっと健全なバンド生活を何十年も送り続けている。そして新譜・新曲がとても良い。「レジェンドだから〜」の下駄履かせじゃなく、本当に新譜が良い。こんな嬉しいことってなかなかないです。

私も歳をとったのかな。でも、私個人が実際に歳をとってわかったのですが、バンド(音楽家)生活を「10年も、20年もそれ以上も」ずっと送り続けた例っていうのが数少ないわけです。まして「健全なバンド生活」ってなると余計に。「良い曲を作り続ける」というとさらに(所謂、若い頃の曲の方が勢いがあったね現象)。歳月を重ね続ける、っていうのは、なかなかなものです。若い頃、私はもっと居るかと思いましたよそういうバンドが。でも、何十年もそれを実現出来たバンドは、ほとんどいなかったわけでした。そういうことが、自分も歳を重ねてリアルにわかった。だから、スピッツが今も変わらずスピッツの幻想世界を、ロックバンドとして四人で作り続けていることが本当に嬉しい。あなた達を愛して良かった、と思う。スピッツはとてもマイペースなバンドです。そのマイペースさと幻想世界が、無理なくひとつのものとなっている。そんなロックバンドなのです。激しく燃え尽きるようなのだけがロックじゃない。むしろ私はスピッツの、土に根付いて小さな花を咲かせるような、誠実なマイペースさこそを、真にロック…というかパンクとすら言えるのかもと思う。

UNISON SQUARE GARDEN「Ninth Peel」


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「ロックバンドは、楽しい。(1stアルバムの帯のコピー)」ということを自らのバンド生活で証明し続け、今年で20年。続けることで見えてくるロックバンドの素晴らしさ…今、スピッツのとこでも書きましたが、そうなんですよ。何十年やって、アルバムを何枚も出して、初めて見えるものがある。

ただ、これもスピッツのとこで書きましたが無理のない「マイペース」っていうのも難しいものです。こう言っちゃなんですが、ユニゾン(特に田淵)も「マイペースであろう」とバンド自身に言い聞かせているようなとこが見受けられます。そうでなきゃ揺れてしまうのが、落とし穴の多い音楽業界なんでしょうね…。

だから私は、この9枚目のアルバム「Ninth Peel」が、マイペースな活動の結果として出たアルバムだってことを好ましく思っています。

ぎゅうぎゅうに情報量を詰め込んだり(CIDER ROADの時期)、ガチガチに完成度を上げたり(MODE MOOD MODEの時期)、っていうのもバンドの歴史の中では大事なことですが、それをずーっと続ける、っていうのもこれはこれでまたバンド活動の健全さからは離れるわけです。

音楽業界の彼らへの期待度もあります。バンドメンバー自身がロックバンド「UNISON SQUARE GARDEN」に期待する物語もあります。どっちも必要なものなのでしょうが、USGは三人とも、今はつとめてバランスを取ろうとしているように感じることもあります。斎藤さんのXIIXでの活動、田淵のアニソン作家業とThe Kebabs、貴雄のyoutubeでのドラム解説講座…。(この貴雄のドラム講座、僭越ながら自分も作曲をする人間として、凄く良かったです)


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なかなかマイペースを貫き、バランスを取りながらバンド生活を続ける、っていうのも大変だよなぁ、と思います。それでもUSGは「ロックバンドは、楽しい。」を証明する。頑張っていって欲しいと思います。私はUSGのバンド生活の物語を追い続けたい。

と、いろいろ書きましたが、アルバム1曲めの「スペースシャトル・ララバイ」が私は好きすぎてですねw 成層圏を抜けてどこまでも突き抜けてしまえっ!的な爽やかなロックナンバーです。このアルバム、コンセプトアルバム感はなく、アルバムトータルでの完成度をギリギリに高めているわけではないです。でも、良い曲はとても良い曲だし、アルバムタイトル曲の「City Peel」だってなかなかの穏やかな都会派ポップスですし。良い曲はいっぱいある。そして彼らは「長くロックバンドを、楽しく続けていく努力」をしている。それで良い、と私は思いました。

 

Mammal Hands「Gift from the Trees」

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イギリスのジャズレーベル「Gondwana Records」から2023年に出た、トリオ編成のジャズバンドの新作です。私はこのレーベルを推しているのですが、去年はこの作品がとても良かった。

サックス、ピアノ、ドラム/パーカッションのトリオ編成で、ベースレスです。音楽性というか音像は、静謐、叙情的で、透明感ある音作りをしています。ビートはもちろんありますが、どこかアンビエント感のある音響でもあります。聞いていて、目を閉じたら、遠くの風景がふわっと幻視してしまうような音の世界観です。なので、それはもしかしたら「ニューエイジ的に綺麗」と癒えてしまうところもあります。でも私はニューエイジ音楽の愛好家です。私はこの幻想的で静謐な「ジャズ」を支持します。上海アリス幻樂団が好きならば当然の帰結ですね(東方原曲=ジャズ+ニューエイジ)。ていうか、ひょっとしたらGondwana Recordsの諸作、東方ファンに結構訴えかけるところがあるのではないか?とふと思うのですがどうでしょうか。

休日、趣味人同士で。「ベノム」


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作曲者・かいりきベア氏に対してとても悪い表現かもしれませんが、このカバーを聞いて「この曲ってこんなに良かったんだ」と思ってしまいました。こりゃ確かに悪い表現ですねすいません。この曲のメロディラインそのものの良さに気づくのがこんなに遅れてしまった。

この曲は「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(以下プロセカ)という、ボーカロイド(楽曲)を全面的に用いたゲームから生まれたカバー曲です。ゲーム上ではちょっとイレギュラーな立ち位置に居るユニットの4人による歌唱です。

このユニット4人による個性と可愛さのあるvoにメロリンであります。歌唱力も萌えも充分以上。率直に、耳が幸せです。これが「アイドル推し」ってやつですかッ!?なんということだ…私は…ついにアイドルの魅力というものを…

さてプロセカ。このゲームを通じて、いろんな人たちがボカロ曲の魅力を再発見、というサイクルに入っているようです。それは良いことだと思います。過去の名曲は、再発見されなければならない(断言)。それは音楽レビューの大事な仕事ですし、そもそも渋谷系だってレア・グルーヴだってそうだったでしょう?

MORE MORE JUMP!「モア!ジャンプ!モア!」


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(ナユタン星人による初音ミク原曲ver)


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2023年の紅白歌合戦を私は見なかったのですが(理由:自分の音楽digや創作に忙しい)、家族が紅白を見ていて、私が自室に戻る時にV(バーチャル)なアイドルグループ「すとぷり」が出ていました。イントロが流れて即座に「これナユタン星人の曲じゃない?」と思い、作曲者クレジットを見たらやっぱり!ナユタン星人氏作曲「スキスキ星人」でした。おー、ナユタン星人氏、紅白で流れるくらいの作曲家になったのかー、と感慨がありました。

さて、そんなナユタン星人氏がプロセカに書き下ろした曲「モア!ジャンプ!モア!」ですが、さすがナユタン氏です。作曲家業が順調で良かったです。そりゃ私個人は「ナユタン星人」本隊としての新作フルアルバムを待ち続けていますが、まぁそれはファンの欲だ。「物体N」からそろそろ4年経とうとしていますが。アルバムでないと「ストラトステラ」や「カノープス」的な切ないエモ名曲入れられないからなぁ(しつこい)

しかし本曲良いですね。原曲もMORE MORE JUMP!verもどちらも良い。MORE MORE JUMP!の方、それぞれのキャラ性豊かな歌唱&コーラスが良いです。とくに桃井愛莉の、不安定でも荒っぽくても「私は歌う!ここに居る!」という意志が感じられるボーカルが、「あなたのハートをずっと離さないから」でセンターになった時の高まりがこの曲のハイライトです。

・ヨルシカ「幻燈」


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CDでもレコードでもなく、「音楽画集」。絵をARコードとして読み取り、絵と歌詞を見ながらスマートフォンタブレットで再生して聞く「音楽体験」をしてくれ!という作品です。

実際私は体験して、なんか「久しぶりにレコードを聞いたな」という気持ちになりました。カセットテープを愛好しているとはいえ、日頃、MP3プレイヤーやYoutubeでインスタントに音楽を聞いてしまっている私です。Youtubeなんてコメント見ながら音楽聞いちゃってさぁ。SNSなんてどうでもいいでしょうに。

そういう私が本作を聞いて「久しぶりに音楽を静かにしっかり聞いているなぁ」と思ったのは情けないやら何やら。日頃、忙しすぎるのかなぁ。何のために働いてるんだ。趣味のためでしょうが。ともかく私は音楽作品(盤)としっかり向き合うことの大切さを改めて思いました。

作品の内容もまた、静かに心沈み込むような静謐さと情感があります。n-buna氏は本作では、キリキリに神経を研ぎ澄ます世界ではない、ふわっとふっくらした人間の暖かさがあります(今までも暖かさがなかったわけではないですよ。ただ卑屈な神経っていうのもあったじゃないですか)。
幻想世界は「第2章 踊る動物」からどんどん深みに入っていきます。幻想の色が、濃くなっていく。変なものも出てくる。

それはつまり、n-buna氏とsuis氏が、幻想としっかり向き合っているということです。彼らヨルシカは、幻想を抱えながら現実で生きていくことで、時に壊されそうになるなんてことは、もはや織り込み済みで、それでも幻想と向き合っていこうと、物語を音で紡いでいこうとしている。ヨルシカは、夏草の彼方消え去るようなバンド生活を選ぶのではなく、しっかり幻想と向き合って音楽活動をしていこうという気概。

もしかして、こういう暖かみの境地すらも含めて、音楽画集という形式にしたのだ、としたら…それは深読みし過ぎかな。それでもともかく、この音楽画集での視聴体験は、良い体験でありました。この作品を聞いたあの春の宵の質感を今も手に取れるかのように覚えている。

 

また長くなったので切ります。次回(3)で終わらせにします。ラインナップはちょっと追加して、

人間椅子「色即是空

アメリカ民謡研究会「戻れ戻れもどれもどれも」

・東方獣王園BGM「タイニーシャングリラ」

・MONO「FENDER SESSIONS」のライヴ演奏

・なみぐる feet.ずんだもん「ずんだパーリナイ」「ずんだシェイキング」

・Где Фантом?「Это так архаично」

ZAZEN BOYS「永遠少女」

 

です。それではまた次回〜。

(つづく…)