残響の足りない部屋

音楽旅行と模型人生と愚にもつかないジョーク

わたしはこんなうたがすき(私的五七五韻律詩選)

ゲームや音楽等、趣味人として執筆されるブログ「SIGHtseeing」のSIGHさんとお話をしていたら、短歌の話題が出て、大学(院)で日本古典文学を専攻していた筆者の身としては、嬉しくなった次第なのでした。

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SIGHさんは現代短歌だけでなく、万葉や平安の歌も良し……と、短歌(和歌)の沼にどんどん入っていらしている姿が見えます。良いですね。一度歌集を「読む」ようになると、いつまでもヒマが潰せるんだ……。

それじゃ、自分の好きな歌も少々ご紹介してみましょう……という話の流れで、この記事を書いています。以下思いついたままに書きます。

 

壬生忠岑「夢よりもはかなきものは夏の夜の 暁方の別れなりけり」

前の句の、一気加勢に美を歌いあげるのが良いですね。「ゆめよりも はかなきものは」とみずから吟ずれば、溢れ出るポエティック・ドヤ顔が抑えきれません。「暁」っていうのも中2心をくすぐられますね。しかも「あかつきがた」ですよ。この言葉のカタカタカタッとしたトレモロたるや。業平の「からくれないに水くくるとは」がこのトレモロの至上ですが、この句だって良いですよ。そりゃあ下の句を吟ずる時も妙に芝居かかってしまいそうなポエティック・ドヤが出てしまいますが(苦笑

 

中務「秋風の吹くにつけても訪はぬかな 萩の葉ならば音はしてまし」

Sound of Silenseって感じですね。京都の乾燥した晩秋の情景です。東方project博麗霊夢が林の中で箒を持って掃除しながら、霧雨魔理沙ガチ恋)をツンデレ気味に待っている情景の解釈でも良いです。いわゆるレイマリ(百合)ってやつです。なに?古典解釈に現代サブカルを出すなと仰る? 今を生きる古典こそ血の通った威力のクラシックって言葉を知らないのかよ……(わたしの言葉です)。

 

中務「忘られてしばしまどろむほどもがな いつかは君を夢ならで見む」

ナユタン星人曰くのドリームドリーム夢ドリームってやつですよ。

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初手から一気に茫漠な夢の中のエモーション(虚無な白背景)で「夢攻撃」をしてきます。現実逃避!現実逃避です!これぞ文学ってやつです! 外貨獲得や緊縮財政とかとは遥か離れたところにあります!しかしアナタ中務好きねぇ。

 

柿本人麻呂竜田川もみぢ葉流る神奈備の 御室の山に時雨降るらし」

これが古典和歌の堂々たる格好良さって奴ですよ!(俺意見)

バシバシ格好良い(中2寄り)名詞を繰り出して、しかもそのどれもが音としても良いというのだから、吟じたくなる韻律トップですよ。さらにその情景がたおやかな自然美でな。

「威力が強すぎる」以外あんま欠点ないなこの歌。まあ、その「威力が強すぎる」から、「弱さの美」には届かない、って欠点があるんですが。でも人麻呂はこういうキラーチューンを出すから歌聖なんだよなぁ。

 

柿本人麻呂「少女子が袖ふる山の瑞垣の 久しき世より思ひ初めてき」

ほーらそんな人麻呂のこんなリリカルな側面ですよ。しかし詩歌を評するにリリカルって何よ。自分の語彙力の阿呆さに言葉も出ませんが、それでも「リリカル」という言葉の可愛らしさが、とくに上の句にぎゅっと凝縮されてるじゃないですか。下の句でそれに「時間性」を付与することにより、さらにエモみが展開されていくって寸法ですよ。カレーには福神漬、ってレベルですね(クソ批評)

 

藤原実方朝臣「墨染の衣憂き夜の花盛り 折り忘れても折りてけるかな」

下の句がちょっとパワー弱いですが、やっぱ上の五七五の威力ですね。吟じたい「やってやったぜこれが和歌だ!」感とはまさにこのことです。これまた東方で西行寺幽々子が出てきそうじゃないですか。BGMはもちろんコレ。

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……って、幽々子なのに妖々夢なのに西行じゃないのかよ!ってツッコミをしたアナタはエラい。

 

和泉式部「暗きより暗き道にぞ入りぬべき はるかに照らせ山の端の月」

和泉式部ってひとの人生を思うと味わいが深いですね。そうでなくても、普遍的な情念と修羅道と諦観、そして美のある歌です。中2度も良い。まぁ、絶望のただ中って、こういう「速度」ってあるじゃないですか。

 

斎藤茂吉「一本道」連作

あかあかと一本の道とほりたり たまきはる我が命なりけり

かがやけるひとすぢの道遥けくて かうかうと風は吹きゆきにけり

野の中にかがやきて一本の道は見ゆ ここに命をおとしかねつも

芥川龍之介が「東洋と西洋の融合」と評した斎藤茂吉です。ゴッホを愛した芥川が「ゴッホの絵よりも強く、沈鬱なる光を照らした」と評した茂吉です。処女歌集「赤光」という名からして格好良い茂吉です。そして「東洋と西洋の融合」というあたりで東方projectを想起したアナタに「同志!」と花束をささげたい。

 

岩倉文也「雨の降りはじめた音が耳をうつ 末路といえばすべて末路だ」

新しい歌人から。現代詩歌のホープたる岩倉氏の代表作です。一見技巧的な下の句は、しかし技巧を越えた何かがある。吟じたくなる何かがある。そして自分の心が何かに響いている音がする。そんな情景はやっぱり雨だ。曇り空の沈鬱な曇天だ。未来なんてあるのかわからないけど、この歌人の言葉に耳を澄ませたくなる。

 

思いついた先からガーっと書き綴っていきました。紹介したいうたはまだまだたくさんあって、俳句にも連歌にも漢詩にもいろいろありますが、まずはこれくらいで。