残響の足りない部屋

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中年音楽マニアとLo-Fi HipHop

●Lo-Fi HipHop

激烈に「刺さる」音楽を求めてきたわたくしでありました。シリアスに音と自己との対面・対話を求めるような音楽。速くハードなリズム。味わいの深い美しいメロディ、和音。美と世界観を表現するノイズギター。魂の叫びの発露のアドリブ。


ところが、そういうのとは対極の音楽に、35歳の現在になって、ハマることとなりました。今回のお話の主題は、Lo-Fi HipHopです。あるいはそれに近しい音楽。


RAINING IN OSAKA (Lofi HipHop)

実にタルい癒し系の現代R&BHipHopトラックです。リズムは穏やかで変拍子なんてない。生活に調和するかのような和音、コード進行。メロディは控えめで抑制が効いている。そう列挙してみると、なんだかボサノヴァに近いように感じてしまいます。うーん、実は一部のボサノヴァはかなりLo-Fi HipHopの美学に近いのではないか?と思っています。少なくとも、後述するLo-Fi HipHopフィルター、ないしLo-Fi HipHop的音楽美学でボサノヴァを聞いてしまってみると……

 

Lo-Fi HipHopを自分がどう楽しんでいるかを正確に書くと、わたくしは「チルい音像に浸る」ということを求めている節があります。
冒頭で書いた、シリアスな音と世界観に対峙するような聞き方でなく、生活そのものと近しいところで、音に緩やかに包み込まれる。

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エレクトロニ子さんが頻繁に夜中upされているトラックはよく聞きますね。

 

●中年オタク問題

さて、これはどこまで自分が「中年になった(オタクとして劣化した)」証左か? ーーと、自分自身を煽ってみます。シリアスに音楽に真剣になっていた自分はどこに行った?みたいに。

でもその問いに対しては、「正直どうでもいい」とスルっと返してしまう自分がいます。なぜなら、シリアス世界観の音に対峙するのを止めたわけではない。まぁ確かにシリアスに対峙する回数は減ったかもしれません。ストップ、まだデタミネーション(決断)は拙速だ。
しかし、レコード(CD、カセット)やMIX音源を聞く回数は、Lo-Fi HipHopやSynthwaveやチップチューンにハマって以来、ますます増えていっているのです。結局、一日何時間も音楽を聞いている。
むしろ、Lo-Fi HipHopあたりのチルい音を取り入れることによって、音楽をずーっと聞くにあたって、うまいサイクル、ルーティーンが出来ているとすら言えるのです。Lo-Fi HipHopでうまく自分の機嫌や調子を整えつつ、シリアス世界観の音にもしっかり対峙し、しかもシリアス世界観の盤の中のタルいチューンをLo-Fi HipHopとして聞いてしまってみる、というねw

Lo-Fi HipHopの楽しみ方(美学)を一度「よし」としてしまったら最後、これまで良さを見逃してきた様々な曲が、違った輝き方をしてきます。それは例えば、ロックのアルバムの中のタルい曲。

例をあげるのもなんですが、Red Hot Chili Peppersの「By the way」の後半って正直ダルくない?という意見が、前に聞いたことがありました。正直音楽雑誌にまで書かれていた。自分もぶっちゃけた話このアルバム、#6のゼファーソングと#7のキャントストップあたりまでと思っていました。
ところが最近、この後半部がやたら面白い。激烈にリフで刺さってくるようなロックではないものの、チルい、とまで言ったら言い過ぎですが、なんとも味わいがあるように聞こえてくる。そういう耳でさらに最近のレッチリを聞くと、ジョシュ・クリングホッファー在籍時の「The Getaway」を聞くとまぁ染みる染みる。爆裂ファンク・ロックチューンを求めている「いわゆるレッチリ」ファンからしたら肩透かしも良いとこだろうと思っていたこの盤ですが、一度「音に浸る」ことを良しとしたら、まぁ実に良い。

こんな風にメインストリームのロックですらこうなのですから、エレクトロニカとか古いR&Bとかヒップホップとかもうdig(レコード発掘漁り)の宝庫。ましてジャズなんてすごいですよ。もともとジェリー・マリガンの「Night Lights」(ブルックマイヤーとジム・ホールが入ったやつ)なんて、「良い感じ……落ち着くなぁ……」と以前から愛聴はしていました。しかしさらに「都会派チルの聖典」としてチル・フィルターを通して聞くと、これが凄いんだ……何もかもこの盤にハズれってものがないんだ……。こうなったら従来、「趣味は良いが地味」と言われてきたビル・クロウ(ジャズ物書きとしても有名)のベース・プレイの再評価ともなってきます(自分内)

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●退屈


Herb Ellis & Remo Palmier – Windflower (1978)

ハーブ・エリスのリーダー作をこういう形で聞き返してハマることになろうとはこの残響の目を持ってしても……っていうかわたくしの若かりし頃には想像もつかなかった……?
さて、どうだろう。自分の若い頃は「今はこういう風に轟音ギターロックや上海アリス幻樂団ばかり聞いてるけど、将来はゆったりしたフォークの良さがわかったりするようになるんだろうか……」と思いながら、(うーんローリング・ストーンズはタルい……)っていう風にしていたリスナーでした。フォークに関しては正直まだ、どうなるかわかりません。「タルいチル音に浸るため、ますますdigを頑張るようになる」っていう、チルくタルくなるんだか、頑張ってるんだかなんだかよくわからん状況になっています。どっちなんだ。しかし今、ますますレコード(CD、とくにカセット)のdig(レコード屋発掘漁り)が楽しくなっています。

その「ますますdigが楽しくなっている」という一点にフォーカスを当てれば、なんだか全然退屈していないんですよね。中年とかオタク劣化とかそういうのが全然頭にのぼっていない。若作りもしていないし、成熟たる老年であろうとしているわけでもない。ただ、タルい音でチルく浸るのを求めている。

そういうのを求めるようになるということが、即ち老化、劣化、退化、オタとしての敗北なんだよ、と言われたら、確かにそうかもしれない。しかしそのことを論議するより前に、今の自分はチルい音源のdigに忙しすぎて、オタ中年問題に関わっている暇がない。

ただ多分、オタ中年問題に一番フォーカスを当てるべきところは、最新のコンテンツについていけてるか否か、でもなく、オタ活アクティヴィティの熱量の高低でもなく。ハングリーヤングデイズvs楽したいブルジョワ中年の対立でもなく……もしかしたら「過去の自分への裏切り」問題ですらないのかもしれません。フォーカスすべきは「退屈しているかどうか」の一点だけなのかもしれません。今、退屈していますか? さて、どうしてみましょうか……っていう。

しかしLo-Fi HipHopフィルターという存在、これは妙に面白い。

  • 音はタルくて良し。ギターノイズは必須でない(あるわけがない)
  • リズムはオフビートが望ましい
  • ちょっとした郷愁、哀愁を感ずるメロ(でも哀愁演歌メロディアス歌い上げじゃなく)
  • 生活音の面白さ

っていうLo-Fi HipHopフィルターでいろんな音楽……過去に聞いてきた音楽、今聞いている音楽、そして生活音そのものを考えてみると、音楽、そして「日常」の見え方・聞こえ方が変わってくる。
この「これまで見過ごしてきたものが変容する」というのは、音楽ファンとして最大級の喜びだったりします。中年期を迎え、Lo-Fi HipHopを通して、その「変容」がもたらされたことが、自分にとっては最大級に良い。オタ中年問題よりも面白い、というのは、そういうことだったりします。

ところで、自分が作曲で活動している同人サークル・8TR戦線行進曲ですが、2/20の「ミュートピア Vol.03」と、2021春M3に、両方、webイベント参加をします。
サークルカットはこのように。

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サークルカット

mutopia.hagall.info

www.m3net.jp



ここで非常に恰好良いことを言うんですが、最近、Lo-Fi HipHopジャンルな曲を自作するようになったんですね。こんな感じです。

soundcloud.com

自分で作っていて、なかなか良い感じじゃないかと思うんです。上記の意味でタルくチルい音に浸っていられる。周囲の反応も「優しげでなかなか」という評価を頂きました。ありがたい限りです。
しかも最近、さらに生活環境音を合わせるために、料理している時のトントン音(包丁)、ぐつぐつ音(鍋)を録音するようになりましたからね……(苦笑

 

まぁそんな感じです。最近のみなさまの音の感じはどうですか?

 

●関係があったり、意識したりした参考記事

最近わたしの音の暮らしはこう - 残響の足りない部屋

ジャンル時流に乗るのを切っちまうのと、これまで伸びまくったジャンル世界樹が今ますます爆発する34歳の話 - 残響の足りない部屋

またいい未来で会いましょう。THE NOVEMBERS 配信ライブ 「At The Beginning」の感想を書いてみる。 - Nothing is difficult to those who have the will

オタク中年化問題 in 2021 - シロクマの屑籠