残響の足りない部屋

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修道院は眠らない

この小説に関しては7月31日の更新をご覧ください。

○修道院は眠らない

まといつくような闇の夜、深い森の外れにその修道院はある。建物の後ろには、色々な暗い色を塗りたくられた木々が、油絵のようにうっそうと重く茂っていた。木々のすきまから見える闇の深さは、ここよりずっと遠くにある海の深さとどちらが深いのか見当がつかない。
修道院は木々よりわずかに高かった。その違いは本当にささいなもので、鳥がてっぺんに止まったかどうかでどちらがより高いかはっきりわかる程度。カットされ食卓に並んだチーズのような屋根を持ち、横に長く、決して小さくはないが大きくもない、中くらいの建物であった。広がる森に付属として取り付けられたかのように、その修道院は存在していた。
修道院は夜が更けていくと共に眠りにつくかといったら、そうではない。ひっそりと起き続けている。神に祈りを捧げている。
シュミィ教のハルシメーラ派は、全神ルーメ・ラディクファエ、日神スセバ・ク、月神アセパス、地神クル・エイの四神を信仰している。神々に仕える者は、昼間は日神、夜中は月神に絶え間なく祈りを捧げることになっている。毎日、毎日、一年中。
規則正しく並んでいる修道院の窓の一枚に、小さい光が陽炎のようにうっすらとともっている。風が吹けば消し飛んでしまいそうな、ほこりのような光であったが。
祈りが捧げられていた。
聞こえるのは、粘度の高い風が木々の間で奏でる緩やかな音だけであった。獣のざわめきも聞こえなくなるほど、夜は深まっていく。そして大地は、森は、一つの深い闇へと姿を変えていく。

(続く)