残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

修道院は眠らない

遠くで、精霊と人間との間で争いがあったらしい。それなりに大きいものであって、様々な被害が出たと聞く。しかし修道院は、今日も祈り続ける。
月神アセパスに祈る二人は、変わることなく、日々の勤めを果たしている。時間の感覚もなく、ただ祈り続けている。
二人にとってこの日は、一晩中祈る日ではなかった。闇が液体のように深くなる夜更けまで祈ることになっていた。
二人は無言で祈っている。目を閉じ、神に祈りを伝えようとしている。
やがて、目を開けた修道士は、休憩する? と、手を下ろしながら修道女に聞いた。修道女は、うん、と静かに答えながら目を開ける。お茶持ってくるから、と修道士は言い、礼拝堂を後にする。しばらくして、修道士が戻ってくる。
闇の中に、煙のように湯気が立ち昇る。白い湯気は、高い天井へと昇っていき、やがて薄くなっていく。祭壇から少し離れ、大きな木の椅子に二人並んで座っている。傍らには、小さなランプがあり、中にはろうそくの明かりがともっている。光は、かすかに二人を照らしていた。冷えてきたね、とお茶を飲みながら修道女は言う。そうだね、とポットからお茶を注ぎながら修道士は答える。二人の周りには、闇が取り囲んでいた。その後、修道女がお茶道具を片付け、再び、二人は祈る。
聖典を詠唱する。月の光の賛美の部分であった。外の風の音が聞こえた。消えていくことがはっきりとわかるような音だった。窓をかすかに揺らした。その音は、部屋の中に確かに響いた。しかし、二人は動かず、詠唱を続ける。
闇はより深くなっていく。森の中に木の葉や枝々が堆積していくように。静かに、しかし確かに、戻ることなく、深くなっていく。
明かりに照らされる木像は祈りを聞き入れているだろうか。四神の姿を形作るその一彫り一彫りに祈りは吸い込まれているであろうか。それは見えない。見えることはない。
二人の黒衣は闇に溶けていってしまいそうに見える。水滴と水滴がくっつくかのように、すっと闇の一部となって、取り込まれてしまいそうであった。
やがて、他の修道士たちがやってくる。交代の時間となった。二人はうつむき、手を組み、祈る。そして、修道士たちに挨拶をしながら、部屋を出て行く。この日の二人の勤めはこれで終わりであった。しかし、二人の祈りは終わっていない。終わらない。

(続く)