●序 最高点で終えるということ
関西のインストシューゲバンド、深海600mのキーボード、村岡龍之介氏。
深海600mについては、過去にレビューあげました。その音世界の独創性に打たれたのは、ただ一曲だけで長々ツイート連投してひとつの記事にしたっちゅうことで御察しください。
で、村岡氏が過去に結成していたバンドの音源を聞いてみました。
そのバンドの名は「未確認飛行物体」。
公式HPはこちら……で、現在、解散しております。
azuki氏というのが、村岡氏です。
現在、深海600mで豊潤なるシンフォニックシューゲを響かせるその手腕……エフェクター多用で、甘美なる【ハウリングするシンセサイザー宇宙】を響かせる(構築する)手腕は、この当時からある。
ただ。
ビートが違うのである。
オレはこの解散を、後追いとはいえ、嘆いたことは確か。
それはつべの音源を聞いたからのこと。一枚もアルバム手にしてないが、どうにかして手に入らないかな、と思ってる。
その解散――バンドが提示する世界を構築しきって、村岡氏が「これ以上はない」と悟ったこと。
それは――1番に連想したのが、ホワイト・ストライプスだった。
ジャック・ホワイトは、順調にいってた(傑作・「イッキー・サンプ」を出した)ストライプスのキャリアを、唐突に、「これまで」と打ち切った。
なぜ?と思った。
ジャックがいうたのは「ストライプスの最高の形のまま終わらせたい」と。
ちょい、意味がわからなかった。有終の美? まあ確かにジャックは昔堅気のミュージシャンだ。
それにしたって……もっと、ストライプスの「現代ブルース/カントリー/アメリカンミュージック」を、いろんな形で展開していってもよさげなのに。とか。思った。
● 破 次のフェーズに移るということ
でも、未確認飛行物体の解散、ということを通じて、なんかわかったような気がする。
それがミュージシャンなのだと。
ミュージシャンは、「次」へ行くことを、何より望む。
ウザいくらいオレらリスナーが言うのは、
「あのときの○○をまた演ってよ!」
である。
もっと露悪的にいうならば
「オレらが求めてるのは○○みたいなのの、改良版なんだから、そこよろしく頼むよ」
っていう……吐き気するな、こういうこと書くと。
未確認飛行物体のビートは、深海600mよりも、より鋭角的で、ビートバンド然としている(パンクというわけじゃないけど)。
静と動。要となっているのは、常に村岡氏の定位置の左(観客側からみた)に位置している、Baである。
村岡氏のキーボードタッチに同期しつつ、曲を前へと進めていく。
それは深海に比べて、より「ゴリっと」、リズムの定型性を、兎にも角にも保っている。
しかし現在の村岡氏のシンフォ/シューゲ的な宇宙的・自然的音世界もある。
それでいて、展開の美……フィルムスコア的なドラマティックさ。ピアノ、ストリングス、シンセ。
さらにエフェクト多用の村岡氏の宇宙的なプレイ……
このあたりを、質問してみたことがある。ご本人に。こんな感じで仮説立てながら。
やりとり↓
@azuki_600m 轟音と静寂のビート・バンドから、より広い、雄大な世界を描くバンド(プロジェクト?)へ移行されているのかな、と(勝手な推量すいません)。それは、未確認の時点で、村岡さんのエフェクティヴシンセが「宇宙」を奏でていたから、レンジを広げるのは然りかなー、とか。
— 残響 (@modernclothes24) 2013, 10月 28
@modernclothes24 リアルタイムでフレーズや音をサンプリングしてループや加工、それでどれだけ不思議な宇宙感を表現できるかが目標でした。鍵盤だけぢゃ出したい音は出せてもやりたい音楽はできないなと悟って深海を作ったのもありますね。
— 村岡 龍之介 (@azuki_600m) 2013, 10月 28
フレーズや音のリアルタイム加工、ということを仰ってくれた。
実際のループ/サンプリング状況の把握・分析まではまだ出来ないけど(少なくともカオスパッド多用というのはわかる。あとモジュレーション系(フェイザー、フランジャー)を、時にエグくかける。ギタリストが歪みとかワウ踏むみたいに)、ひとつ言えることがある。
このエフェクティヴ・シンセパートのときは、村岡氏は明確に「宇宙」を志向してる。自然的な宇宙というよりは、人為・人口的な、ある意味SF的な宇宙を。
いや単純に、ピコピコ的な音がフィーチャーされてる、ってことなんだけど。
にしたって、その音の、チープにならず、「得体の知れなさ」を表現している、ある意味でのソリッド感よ。
楽曲の中で鳴ってる必然性がある。
まさに「未確認飛行物体(UFO)」!
アン=アイデンティファイド・フライング・オブジェクト! その音のオブジェ、実在の知覚領域を超科学で越えていく!(意味がわかりません)
●急 自ら終わるということ
このライブ音源
未確認飛行物体 11.12.29@大阪心斎橋FANJ - YouTube
の8分あたりのkeyソロの音形を、深海600mのFineと聞き比べていただきたい。
この独特のテンションは、まさにFineの原型たるメロで、このころからこのセンスはすでに構築されていたのだなぁ、と、感慨を新たにする。
……と、8分あたりの曲目みたら、「クラゲの生活」。う~ん、海や。
村岡氏の頭の中では、もうこの時点で、深海600mの音世界は鳴っていたのだろうか?
それの伝記的事実を云々するつもりはない。
最も重要なのは、村岡氏が仲間を集めて「Fine」という音源で形を結実さしたということ。
ここまでの論旨で、
・村岡氏、キーボードトリオでの「人為的・エフェクト的宇宙感」をやりきった
・村岡氏、深海のイメージがどうしても消えなくなった
・あえて「UFO感覚表現」すらも、とりあえず封印してでも、深海表現やりたくなった
とまあ、簡単にまとめてみようか
バンド(未確認飛行物体)の音源聞く限り、ビートバンドとしての未確認飛行物体のフォーマットを維持したままで、深海600m的な表現を追求していくことは可能であったはずです(メンバーの技量的に。あ、こう書くとディスってるようか? いや、この界隈で「ヘタ」なプレイ聞いたことないし。ちょっと前の若手では考えられん。それでもってオレが「技量」いうたのはわかってね)
でも、それは、バンドとして「UFO表現」をここまで可能/結実させといて、
「んじゃ第二期未確認は海表現ね!」
って感じで、ラーメン屋でのヨタ話みてえに変更はできますまいよ。
ガチ方向転換となると……な。
メンバー一丸となって、その方向転換にトライすべし!
っていうのは、楽なんよ。
オレ自身、そのような批評を何度もしてきたし。
でもなぁ……これほどのエフェクティヴプレイ……そして明晰なキーボード・タッチするひとが。
そしてこのメロを作れるひとが。
「どっちつかず」とか「妥協」でバンド続けることは……そして「ただ単にキャリアのために」バンドを存続させることは、できますまい。
そんな安易な精神で、UFOを追い求めることも、深海に潜り続けることも、出来ない。
ああ、ここまで書いてなんとなく掴めた。文章化できた。それ、いまから言うよ。
名は体を表す、というが、まさにそんな感じで。
UFOの世界、UFOを見続けること、UFOとともにあることを、現在出来なくなったから、解散した。
技量の問題じゃない。村岡氏がいうてた「やりたい音楽」「やりたい世界」というのは、いまはそこではない。
「負け」とか、そんなこと言う奴は、ちょっと水かぶってこい。かぶったな? よし。 毛布? ちょっとオレの言うこと聞いてからな。
「勝ち逃げ」とか言う奴、うん、まだセンスある言い方だが、ちょっと熱湯かぶってこい。今の時期はよけい冷えるぞー。かぶったな? よし。お前死ね!
「ある世界」に居続けることは、ひとにとっては夢追い人というだろう。
「シューゲイザー」が「スターゲイザー」のもじりで生まれた造語であるのは偶然じゃない。時折、その閉鎖性というか、夢追い的な姿勢を、シューゲはたびたび批判されてきた。
でも……夢を見続けること、「どこか違う世界」に居続けることは、それ相応の気合いが必要なんであって。
ストライプスが「赤と黒と白の、アメリカ音楽の歴史性」という、確固とした世界に居続けるのは……ジャックのアメリカ音楽への愛なら、可能だった。
実際ジャックはその若き帝王となった。
そして……オリジネイター/ルネッサンシストとして勝ち逃げをした、というのではない。ない。
むしろ自分の責任でもって、葬った、というほうが確かだ。
これはひとつの夢/世界を、「思い出」にするのではない。
負けたから「思い出」にする、のでもない。
「世界に居続けること、夢を見続けること」こそが大事だったら……現実的なしみったれたモンに軟着陸しちゃ、アカンよ。
芸術に「これは完成した!」と断定することが出来るのは、その作者だ。
ミケランジェロの無数の未完成の彫刻に、後世の芸術家/批評家は、さまざまに「いや、これ、完成品よ? ここからでも、相当学べるぜ?」とする。
それもそれで正しいのだが、しかし芸術家自身の判断、というのも、尊重されるべきだろう。
……とするならば、ある時点で、葬ったり、解散したりする……純芸術的・純表現的な立場で「終わり」を決めること、
これもまた、芸術活動の一環なのだ。
少なくとも、その「終わり」決断の勇気は、作品完成の礼賛、パフォーマンスの成功の、次くらいには、ファンならば、オレらは黙って受け入れなくてはならないのではなかろうか?
(いや、そりゃ、キツいけどさ)
●キーボーディスト村岡龍之介氏と、バンドの終わりについてのお話、おしまい
●追記 しかし村岡氏は、宇宙の夢を「諦めて、捨てた」わけではないことは、びわこ氏とのセッション音源聞けばわかる。
……再結成でも、別バンドでもいい。また、このひとの、また違う宇宙を見てみたい、という気持ちも、オレの中にはある。