残響の足りない部屋

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SFなどを読む日々 赤いオーロラの街で、アシモフ、数学ガール、レオナ・ロイヤル・ロード

昨年、このような記事を書きました。

modernclothes24music.hatenablog.com

内容は、「科学技術(テック)&社会派コラム、という観点からSF小説を読んでいきたい」というものです。

この記事を公開してから、記事中でご紹介している書評ブログ「止まり木に羽根を休めて」管理人・feeさんから、私に向けてのお薦め記事を書いて頂きました。本当にありがとうございます。現在、このお薦めに従ってSF小説を開拓していっています。

toolatetoolate.dreamlog.jp

では、前回からSF小説をどう読んでいったかについて、レポートのような形でお話します。

 

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kai-hokkaido.com

前回の記事で、まず読みたいSF小説として、伊藤瑞彦「赤いオーロラの街で」の話をしました。この小説は、太陽フレア現象によって全世界的な「電子機器が使えなくなってしまった」現代日本社会を舞台としています。主人公は北海道にたまたま居て、太陽フレア(赤いオーロラ)以降、少しずつ混乱と再生を続けていく社会の中で生活していきます。

ところでSF設定となっているこの赤いオーロラですが、

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おーい最近も実際に起こってるじゃないの。そしてこの正月の能登半島での地震津波という大災害。正直言いまして、最近読んだこの小説の描写がダブって仕方がなかったです。小説で描かれている災害対策、避難、復旧のさまざまが。

なにせ「赤いオーロラの街で」で描かれるのは、人間ドラマよりも、大規模災害が起きてからの社会の混乱と再生--災害対策、避難、復旧ーーの細かな描写の方が格段に多いのです。ある意味でシミュレーション小説(災害SF)。その強度が高いからこそ、小説の内容(シミュレーション)と、この能登半島の現実の状況がダブって見えてしまうのがとても自然で。

……「科学技術(テック)&社会派コラムとしてのSF」を確かに私は求めましたから、実に読んで良かった本であります。凄く面白かった! しかしこういっちゃ何ですが、初手から現実とのリンクがハードだよ、と思うところも(苦笑) いや、しかしそれを踏まえても読んで良かった。小説のキャラもどこかユーモラスですし。

 

さて、feeさんのお薦めでまずはアイザック・アシモフを読みました。科学エッセイ「空想自然科学入門」と「われはロボット」です。

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エッセイの方、前々から「アシモフの科学エッセイは面白い」という話を聞いていました。動物の大きさの比較をしてみるところで、初手から「対数をとろう」という話のもっていき方に「おぉ理系」、と思いました。確かに科学の王道です。わかりやすく、ユーモアたっぷりに書かれる科学ネタの数々、面白かったです。「改めてそのあたり厳密に言われてみれば、確かに…」ってな具合で。

ja.wikipedia.org

SFの古典「われはロボット」ですが、結構読みやすかったです。ロボット三原則が物語全般に活かされていることは当然ですが、なにより、テックを前にして「人間があたふたしている」というのが興味深かった。作中人物たちが、「人間の定義とは何か!?」みたいなストレートな論調ではなく、日常生活に溶け込んだロボット(技術)を前にして、人間たちが妙な居心地の悪さみたいなズレを感じちゃうところが印象に残りました。

だから「人間」を描いているんですよね。SFは科学技術(テック)を用いますが、その科学技術を作り、科学技術に取り囲まれているのは人間なわけですから。そもそも「物語」「小説」っていうのは人間の思考と行動を取り扱うものですから、SF「小説」もそりゃそうだろ、って言われたらまぁ確かにそうなんですが。集合論じみてきたな。ただここから、私が求めている「社会派」の側面も立ち上がってきますから、見逃せないところです。なるほど、文学ですね。アシモフはもっと読んでみたいです。

 

その次に電子書籍伊藤計劃「ハーモニー」を買いました。こちらも手を出していきたいです。

ところで今ちょっと集合論と言いましたが、結城浩数学ガールの秘密ノート 数を作ろう」はこのSF話題に入れていいのかどうか。

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おなじみ、数学トーク小説です。今回のテーマは「数をつくる」ということで、集合、環、体、写像デデキントの切断…と、「【数】という体系をつくるには、いろいろな要素をどう定義していったらいいのか」というのを、丹念に追っていきます。

自分としてはこれも「科学」の中に入っています。が、「技術」としてはどうかな。「数学ガール 乱択アルゴリズム」みたいなバリバリのプログラム方面だったら確実に「技術」ですが。あ、「社会派」ではないですね。それは確かだ。

しかし「数学ガール」シリーズの清新な気持ちの良さ、数学というものの綺麗さ、は、たぶんSFのセンス・オブ・ワンダーとどこかで繋がっていると思いますし、そう信じたいと思っています。今はさらに結城浩氏の新刊「群論への第一歩」の試し読みをしています。

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漫画で、「映画大好きポンポさん」の作者・杉谷庄吾氏の新作「レオナ・ロイヤル・ロード」を読みました。

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「ゲームの中から登場人物のカリスマ王女が出てきて、引きこもり少女に喝を入れ、ゲーム制作への夢の道を歩んでいく」という話。「ゲームの中から出てきた」というあたりでSF認定されないかな……どうかな…だめかな…。それにそのあたりをちゃんと言っていくと、終盤でのギミックの完全なネタバレになるし……。

まぁでも、すごく面白かったのでここで紹介させてください。杉谷氏の作品ではほかにもっとバリバリのSFもあります。「リトルラボ」とか「猫村博士の宇宙旅行」とか。それから「映画大好きカーナちゃん」もSFを(マニア的屈託込みで)かなり使用しています。うるせぇ!お前みたいな奴はブレードランナー大好きだって割れてんだよ!

さて、「レオナ・ロイヤル・ロード」。pixiv版というか、「映画大好きポンポさん」の第1作目(第1巻)がめちゃくちゃ好きな方だったら、かなり高いポイントつける作品かもしれません。見事に引き締まった短編漫画です。社会不適合者が「ものづくり」の喜びでGO!な話ですから。創作の喜びでバチバチですよ! 

www.pixiv.net

ただ、この作品は「ものづくり(ゲーム制作)」を大事なテーマに掲げていますが、それだけでなく「人生の王道(ロイヤルロード)をいかにして歩むか」というのが、この作品の根底のテーマです。

悔やんだまま、恥ずかしいままの人生は嫌だろう? だったら喜びの王道を歩むのみだっ! という、ある種スパルタの成長物語です。そこんとこ、カリスマ王女は主人公を甘やかしはしません。でも読んでいて「辛さ」がないのは、カリスマ王女の輝きがポンポさん並みに素晴らしいのと、主人公が地道に力強く努力し、その努力が正のループサイクルに入っている「成長物語」の清々しさがあるからです。読んで良かった。再びになりますが、ポンポさん1巻が好きな人なら読みましょう。

 

そんなこんなで、最近はそんな感じでした。それから直近で「シャングリラ・フロンティア」の漫画版を最初の3巻くらい読んだかな。これも面白かった。だんだんSF要素も出てきそう。

shangrilafrontier.com

次は一気に「ハーモニー」いこうか、それとも円城塔いこうか、それとも森博嗣のWWシリーズいこうか、あるいはアシモフか。それとも、2023年7月版のハヤカワ文庫解説目録を手に入れたので、まずこれに目を通すか…(書誌として楽しい)。

kodanshabunko.com

なんかSF小説、新しいフィールドを探索している感がしますね。楽しいです。そんなわけで、科学読み物を読みつつ、SF小説・漫画を読んでいく、って感じでいこうと思います。