残響の足りない部屋

「ホームページオブ百合機械」の別館日記ブログ。毎日更新。今日も世界と逆向きに。

試作ショートショート

○第二文芸同好会の思い出(第一回)

県立薄ヶ原(すすきがはら)高校の春はうららかに過ぎていった。図書室の第二書庫では、相も変わらず「第二文芸同好会」の四人が書物を持ち寄り、和気あいあいと話に花を咲かせていた。例によって、持ち寄られているのはラノベや漫画(ほとんどが私物)である。一般文芸書は図書室やこの書庫から持ち込んだ。机の上には、ティーセットが用意され、紅茶のあたたかな香りに満ちている。
到底年長(二年生)には見えない、いかにも「少女的」な可愛らしさを持つ少女――であり第二文芸同好会部長、桜野こはるは、極めて分厚い文庫本を机の真ん中に置き、のんびりと話し出す。栗色のセミロングの髪は、いかにも柔らかで、彼女の容貌に似あっていた。寒がりなのか、暖色のカーディガンを制服の上に羽織っている。
「やっぱり面白いね、『境界線上のホライゾン』。キリのいいところで止めないと、徹夜一直線だよ」
艶やかな黒髪を持ち、こはると同じく二年生の、端正な顔立ちをした少女、藤原月(つき)は、いたって淡々とコメントする。
「かの美少女作家、井上堅二は風呂場で読破したそうよ。こはるもそれくらいしてみなさい?」
冷静でありながら発言は突飛であった――しかし冷静とはいっても、さすがに高校生なだけあり、それは「大人びている」の範疇を越えない。それは彼女の可愛らしい顔立ちにもよる。それだけに、本人の「冷静なキャラでありたい」とする意志と、現実の姿とのギャップにいささかの齟齬を覚えることとなる。
それに比べたら、一年生の矢野総司(そうじ)のクールさは堂に入ったものである。至って沈着冷静な面持ち、なおかつ「いかにもメガネ男子」という正統派の風貌のためである。
「また『美少女』ですか。あの人、もうラノベ界ではその呼称を終生脱ぎ捨てることはできないんじゃないんでしょうか?」
総司は月のコメントにツッコんだ。
そして最後に、新入会員の一年生、糸杉浩太が発言する。決して華美でもなければ、甘い顔立ちでもないのだが、小ざっぱりとした清潔さを彼は持っていた。
「さあPixivやグーグル先生の画像検索に『井上堅二 美少女』の単語を入れてみよう! どんな美少女化井上堅二のイラストが出てくるでしょうね!?」
発言はこの者が一番イロモノだった。総司は呆れてツッコむ。
「お前バカか?」
「バカ? てゆかそれ褒め言葉! だって『バカとテストと召喚獣』の作者だぞ? この場合『バカ』とは即ち、各話冒頭テストの珍回答的意味合いだろ流れから言って!」
「誰がうまいこと言えと」
月は冷静に、しかしにっこりと微笑んで言った。発言内容のネタ性を無視すれば、それは誰もをうっとりさせる、穏やかな笑みであった。
「月ちゃん、同好会規則第4条に反してるよ。『ネットスラング、とりわけ2ちゃん語はリアルでは控える』でしょ?」
こはるはぷんぷんと口を挟んできた。もっとも本気ではないのでいたって可愛らしい。というより、同好会の他の面子からしてみたら、「愛らしい」。
月はクールに答える。
「『控える』でしょ? 連発はしてないわ。それに、この手の言葉は今のように、時と場合を踏まえてさりげなく使うと効果的なのよ? その上、一般人はこれがスラングとすら感じないわよ?」
「うぬぬ……それを言われると何も言えないよ……というか徹底的に論破しないでよ月ちゃん……」
「あらごめんなさい、こはるをいじめるのが楽しくって」
「ドS!」
「そして、こはるをいじめていいのは私だけだから」
「ちょっと違う意味になってきたよ? みんな、私どうしよう?」
そして浩太が身を乗り出して、興奮して総司に話しかけた。
「来た! リアル百合! おいおい総司、俺たちは歴史的瞬間に立ち会っているぞ!?」
「お前黙ってると好青年なのに、どうして俺たちの前で口を開くとこうキモいんだろうなぁ?」
「ひどっ! ねえ月さん、こいつ僕ちんのことこういう風に言うんですよぉアナーキズムの増進〜」
月は冷ややかな目線で、
「どうして玉吉の『漫玉日記』のヒロポンの真似をしたかはともかく、今の浩太君は確かにキモいわね。その上あの元編集者の真似だもの。客観的に見て救いようがないわ」
「うっ! ……容易に予想がついていた反応とは言え、やっぱり月さんの罵倒はこたえます……」
しかし、月は再び穏やかな視線を浮かべて、
「でもすぐネタに走り、ネタを貪欲に吸収し、ネタに勢いよく喰らいつく、その精神は高く評価するわよ。大正時代の古い言葉を使えば「ジャーナリズム至上主義」といったところかしら」
「月さん……」
「でも内心、私の罵詈雑言にハァハァしてたでしょ、浩太君?」
ビクッ、と浩太は震えあがり、
「……すいませんでした」
そう言って、バタッ、と勢いよく音をたてて机に突っ伏した。
「あ、浩太君が死んだー」
こはるはぽつりと呟いた。
第二文芸同好会は今日も平和である。