残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

自然現象は無理数を内包する

○自然現象は無理数を内包する(即ち神とは虚数の異名)
※ブログ一周年記念作品


月があっても、スモッグで覆われて見えない朧月夜
ヨットハーバーは漆黒の帳に閉ざされる
お決まりのように、コンテナの影で行われる集団リンチ
鈍い音をたて平凡に、金属バットに打ちつけられる少年
誰一人として知らない、
「あの時」の少年がいかに天使のごとくであったかを


しとしとと降り注いでいた雨が急に止んだ
しかし樹々にはたくさんの水が溜まっているから、
風が吹いたら雨のように僕の頭上に水滴が降り注ぐ
左側から死神の声が聞こえたが、何を言っているのかわからない
その上僕は覚悟をしなくてはならない
この後やってくる茜色すぎる夕焼けが世界を切り裂くのを


懲罰は鋼鉄のサラダボウル
悲鳴すら聞こえない夜更け
人はこうして圧殺されていく
機構はシステムとして冷酷に
血しぶきを撒き散らせ
暴力は街頭の衆目から隠される


君のポニーテールにキスをする
すると君は僕の腰に服の上から口づける
そんな愛し合い方の二人が、これから海に行く
長い一本道を歩き続けた果て、砂浜が鳴らす硬い音を聞き、
君はカモメを見るだろう
そして僕に出来ることは何一つとしてないだろう


任務というリンチが終わる
少年の命の行方は誰の目にも明らかだ
撲殺された跡、朱に染まったコンクリート
最期の瞬間に少年は想う
とても微かに
「神よ、神よ、どうして僕をお見捨てなさる?(エリ、エリ、レマ、サバクタニ?)」


彼女が海辺を歩く間、僕はヨットハーバーに行く
すでに何もかも手遅れの惨状がそこにあった
僕は知っている
神の姿は賢人のそれではなく、機構(システム)のそれであることを
そうだ、何重もの意味で、もはや、神は死んだ
そして当然、僕の神も死んだのだ