※このバンドレポートはフィクションです。
※「架空のバンド・HTTのライヴ」に参加して、それのライヴレポートを書く残響、という体(テイ)で、ディスクレビューを書きます。二次創作SSのようなものです。
※二回に渡って続きます。今回レビューする盤は
桜高軽音部「Don't say "lazy"」です。
●会場の様子
会場(ハコ)は大入り!
確かにこのライヴ全盛時代、「ライヴだからこそ感じられるナニカ」を目的に、こうやってライヴハウスに足を運ぶ連中が、ゼロ年代以降やたらと増えたが、放課後ティータイム(以下HTT)のライヴに足を運ぶ連中は……なんというか、微妙にカオスなのである。
分布がね……年代もバラバラなら、音楽クラスタもバラバラ。
HTTが愛してやまない、オールドスクールロック(こいつら、ガールズバンド&パンク系出自なわりには、音色がやたら古くさいというか)を「当時どんぴしゃ」で体験したような、オッサンオバサン。
よく見かけるのは、メロコア・オルタナ系のTシャツを着てるようなの。まあこれは順当。アジカンとかくるりとか。そこにメタルT着てるメタラーもまじってるが、顔つきが「モッシュ&ダイブを今からするぞ!」という肉食的なんじゃなく、この場を楽しもう!という健全な意気込みなツラ。
それからサイリウム者もいる。だが、オタク的な雰囲気に満ちている、というのではなく、あくまでリスペクトとしての……HTTのポップ性を一緒にリスペクトしようという意気込みが、こちらからも溢れてくる。意外にオタ芸を打てないのがHTTなんである。
……さて。
そんなファンたちの熱気は、さっきから流れている、サウンドチェック用の音源によって、微妙に削がれているようにも感じる。
王道ロックバンドが……
Aphex Twin - Fenix Funk - YouTube
なんでテクノの帝王・エイフェックス・ツインやねん!!
しかも、さっき、リードギター/ボーカルの平沢唯が、本番前だと言うにも関わらず、
唯「ねーね、みんなー、このアルバム面白いんだよー。これ作ってるひと、こんなすごい顔のひとで(上の動画画像)、すっごい、すっごい、楽しい音なんだよ!」
と会場にCD持って現れるではないか! 我々一同、ぽかーんとしたぞ。
それからドラマーのりっちゃん(田井中律)が首根っこつかんで、唯はバックステージに連れていかれたが。まあ……この程度のことは、HTTのライヴでは日常茶飯事である。あのノリ、これだけの客呼べる規模になっても、変わらないんだよなぁ……でも唯は、あのジャケット、画像加工したものだって知ってるんだろうか……普通にリチャード・D・ジェイムズはああいう顔だって思ってやしないか……思ってるだろうな、絶対。
しかし。
じゃあ、それは、ゼロ年代のミュージシャンによくありがちな、
「客との距離が近い、慣れ合い的なバンド=オーディエンス一体感」
というのかというと、それが違うのである。
ステージを見れば、それは分かる。インディーズ若手随一のライヴバンド、放課後ティータイムは、鉄壁のライヴ布陣を見せるのだから!
そして、SEは消え(変な空気である)、いきなりライトがまぶしくなる!!
●メンバー登場
最初に登場してきたのは、突撃少女、この界隈で一番走りまくるドラマー、田井中律である!
「やーやーどーもー」「うえーい」みたいな感じで両手にドラムスティック持ったままバンザイしながら、どかっとドラムセットに座る!
このふてぶてしさ! さすが部長!(以前インタビューで、HTTは高校生のときに部活で組まれたバンドだと言っていた。そこで田井中は部長だったらしい。その感覚で今も部長と呼ぶと、やたら喜ぶ)
次に登場するは、気品漂う感じで、しずしずとキーボードに向かう、琴吹紬である。
「お姉さまー!」という黄色い声がどこかから上がる。その度に琴吹はにこっと笑いながら手を振る。物おじしてない……さすがだ。彼女愛用のキーボードの真空管が、青く光る。
さらに、最近別バンド「わかばガールズ」として、高度なプログレッシヴ楽曲を平然とこなしている、精力的な小柄サイドギター、中野梓の登場だ! ムスタングを駆るために生まれてきたような、玄人の面構えである!
っと、ホールを見渡せば、そのわかばガールズの面々が、しれっと参戦しているではないか!
考えたら当たり前の話でもあるが、それだけ、わたしはHTTに集中していたらしい。まあ、ワンマンライブだからな……よくわかばガールズや恩那組とスプリットで音源出したり、ライヴやったりしてるが、この界隈のバンドは本当にイキがいい……結束が固いというか。
きりっとした眼差し、どこにも臆するところなく、堂々とステージに上がる凛とした姿を見せるのは、ベース/ボーカルの秋山澪!
まさか、このひとに限って、臆病だとか、あがり症だということはあるまい……間違ってたら、今度出るネオジオング買ってやるよ!
しかしレフティベース似合うな……この佇まいが、意識してのものではないだろうが、ポール・マッカートニーの左ベースと、ジョン・レノンの右ギターの対照を想起させる……それだけのコーラスワークをこいつらは放つ。
「ふぁー、ら、うぇーい!」
すごい気の抜けた声で、満を持して現れたのは、あの平沢唯だ! ボーカルにして、リードギター、「個性」「度胸」という点では、もはやメジャー級といえる、あの平沢唯だ!
「ねえ、ところで、ふぁーらうぇいってどういう意味?」
さりげなく最初にオーディエンスに「Far away」の意味を聞く……さすが平沢である! いつもの平沢である! どこまで本気なんだ……大物だぜ……。
そして、ライヴははじまる。
●GO!GO!Maniac
けいおんのOP GO!GO! MANIAC! - YouTube
ベースが、ドラムが、オルガンが、ギターが唸る!
いきなり挨拶を抜きにして、あのイントロがホールを揺らす!
そして唯のvo……気は抜けてるけど、「本気」は全然抜けてない(この意味がわからない人間は、HTTの音源をちゃんと聞こう)voが、すごい「抜け」でもって、会場最後方まで貫く!
しかし、本番一発で、このような「キメ」多用の、存外プログレッシヴな曲を演ってくるとは……おいおい、平沢、飛び跳ねてるぞ。それでいながら、「ジャッ、ジャ、ジャッ、ジャ! ジャ!」みたいな独特のキメを完全に決めてくる!
意外にキモなのが、琴吹紬のオルガンである。このグル―ヴィーさがぶっとい音でもって鳴らされるのが、古き良き60sオーラを漂わせる。
しかしそれでいて、トルネードのような……ベースと、エフェクターを効果的に使ったギター(これは中野の功績だろう)、そしてなにより、煽る煽るドラムが、「まったりロック」にはならない、独特のタツマキグル―ヴを構築するとき、the Bawdiesにも匹敵する、オールドと新時代の交錯が、いとも簡単にこの世に現出するのだ! これよ! これこそがHTTの本領よ! ただのキャッチーなガールズロックと評する向きには、この音のぶっとさを体感してもらいたいものである。
それからワウを多用した、唯のギターソロはどうだ! もはや暴走の域に達するブチギレぶりだ! このリードギターの頼りがいといったら、最高だっ! 「感情直結」の言葉が実にふさわしい!
理論でギターフレーズを構築する中野に対し、本能でギターフレーズをぶちかます平沢……まさに、アーク・エネミーのマイケル&クリストファー・アモット兄弟を想起してやまない!
「放課後、ティータイム、です!」
ドラムが鳴り終わる直前、唯が高らかに叫ぶ……もうこれだけで、このライヴの勝利宣言であると言わんばかりに!
●Genius…!?
間髪いれず、シングル「ゴーマニ」のカップリング曲である、「ジーニアス」に移る。
この古き良きR&B……「スティッキー・フィンガーズ」時代のストーンズ直系のぶっといロケンローをぶちかます、このふてぶてしさよ。
2本のギターの絡みあいが、まさにキース・リチャーズとミック・テイラーの「ブルージー」な絡み合いを想起させる。HTTにオッサンオバハンがライヴ参戦するのも、偶然ではない。必然である。
そういうサウンドに、半端なvoが乗ると、得てして「だからどーした」な曲になるのだが(世の現代R&Bバンドの抱える問題ともいえる)この年代にして、自らのヴォーカルスタイルを確立している平沢には、その心配はない。
「なんの曲を演っても平沢唯」との批判を受けがちな平沢のvoであるが、我々は「それを聞きたいがためにファンをやってる」のである。知ったことか!
しかし、ゴーマニのとこでも書いたが、この「オールド」と「新時代」を交錯させるセンスはタダものではない……とくに、the who的なモッズ(ロンドン)感覚を大胆に持ち込むことで、勢いと洗練さと、タイトさを、ダイナミックを「より活かす」類の形で注入するのだから。
そして歌詞もいい。ライブでこの歌詞を歌う……すごい自信だな、と思うわけだが、この流れだと、もう誰も文句は言わないだろう。いやはや。
●Don't say "lazy"
けいおん!ED「Don't say lazy」 フルVer(OP風映像付き) Ver.1.0 ...
さあここで、voがさらりと秋山澪に変わる。
どことなくルーズな感じの「genius」に変わって、一気に会場のテンションが張り詰める! このムード、テンションは、やはり秋山独特のものである。まさかこのカリスマが、上がり症なわけはあるまい! このステージ映えよ! COOLのために生まれてきたような貫禄!
チルドレン・オブ・ボドム的な「ジャン!ジャン!」的なオーケストラヒットをこなしたと思ったら、非常に邪悪なサウンドまで、琴吹のシンセが奏でる。そこに秋山のごりっとした太いベースサウンドが疾走する。
そのようなノイジーなイントロが終わって、なんと澪はマイクスタンドを、こちらオーディエンスに向けるではないか!
その意味が分からない我々であるものか! ゼロコンマ2秒の判断でもって、シンガロング!
Bruce Springsteen - Hungry Heart (Live 1980) - YouTube
まさにこの演出は、ブルース・スプリングスティーンのライヴのお約束「ハングリー・ハート」で、歌の一番めを、オーディエンスに歌わせ(空けわたし)、ライヴの一体感、バンドの世界観との一体感を煽る手法。
堂々たる世界観が確立されてないバンドだと、これをやられてもシラけるだけなのだが、さすがは秋山澪よ! この挑発的なスタイルがサマになっている。1stフレーズを我々に歌わせて、その後voを「待たせたな!」と言わんばかりにとる!
曲も実にいい。この曲一発で、世のバンド志望のボーイズ&ガールズが、こぞってこの曲をコピーしたというのだから! インディーズ系の楽譜にしては、売れまくったHTTのスコア。
シンプルな骨格でありながら、意外なほど中盤(Bメロ)のメジャーキーめいた明るい部分で「憂いのキラキラ感」を出してから、一気にサビの爆走に移るとこがこの曲のキモである。
絶対にこの曲を演奏するときは「後ろに引いてはいけない」のである。この曲の歌詞を読めばそれはわかるだろう。若き飢えた心……まさにハングリー・ハートである。負けない、と。くじけない、と。諦めない、と。
だからこそ、秋山澪は、平沢唯とは違った形での、カリスマと成りえたのである。
●Sweet Bitter Beauty Song
放課後ティータイム Sweet Bitter Beauty Song - YouTube
澪vo第二曲め。
HTTのポップ感覚は、80s~90s的ポップ・ロックの「ダークさ」もカバーする。ぐっと「ダウン」&「ゴー」を繰り返すバンドサウンド。この「タメ」感が、実にアダルティで、クールだ。英語ばっか使ってるけど、ようはカッコいいってことだ。
やはりここでも、古き良きロックンロール感覚……とくにR&B感覚が強い。ディスコ・サウンドとロック・サウンドの「黒さ」がまだ分化しきってないころの、あのどこか猥雑な感覚である。歌詞もそうだし。
でも、下品ではない。ここがポイント。
しかしサビの爆発感は、まさに澪節、と言わんばかりの不退転である。「走りがち」と言われる田井中のドラムも、曲全体ではタメをきかせて、メリハリを付けている……しかし、それでありながら、全体の「GOGO!」感は、やはりこのドラマー一流のものといおうか。 伸びやかなドラミングである。
それにつられて、であろうか、ルーズ感が溢れるオルガンもそうだが、ギターの暴れぶりも聞きものである。「ギー太」から鳴らされる、唯のシリアスなギターは、まさに澪の横に立つものとしてのものである。
若き飢えた心を、そっと慰撫するのではなく、凛とした声でもって奮起を促す。押しつけではなく、彼女ら自身が「自分のライフを生きる」ということでもって、示す。それもまた、HTTのひとつの側面なのだ。カリスマとは……パンクとは、そもそもそういうことではないだろうか。
※前半終わり。
次回は「ぴゅあぴゅあはーと」「UTAUYO!MIRACLE」を同じ形式でレビューします。