残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

定時退者「2007年ノベルゲーム10周年批評本」のこと

●年末仕事修羅はさておき、批評系同人誌に寄稿しました。


フフフ……コミケ……アイム行きたい……おれはオタク……そして創作と知の最前線を、同人誌を買って読みたい……。しかし、今の仕事をしている限りそれは無理だ……(盆暮れ正月がどうしても仕事場を空けることが無理なのです)。

そんで、前々から予告していましたが、2017年冬コミで出る同人誌で、わたし残響が寄稿させて頂いた批評系同人誌がありまして。今回はそれをご紹介させていただきます。

サークル「定時退者」さんの「2007年ノベルゲーム10周年批評本」です。表紙はこちら。

http://2007novelgame.year.jp/image/jacket.jpg

 

 

特設サイトはこちらです。

2007novelgame.year.jp

 わたし残響は、

・特別批評(2)「2007年の保住圭」論
Marronひまわりのチャペルできみと」批評
・Tarteカタハネ」批評

にて、寄稿させていただきました。

また、特設サイトの製作・管理や、編集における 些事を手伝わせて頂きました。

 

●Mirinさん=サークル定時退者の「○○年本」シリーズ

 

Mirinさん(@hon_mirin)の評論系サークル「定時退者」は、2014年から、「10年前に出たエロゲ/ノベルゲー」の10周年記念批評本を出しています。

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(左から)
2004年本(2014年発刊)、 2005年本(2015年発刊)、 2006年本(2016年発刊)……の、既刊写真です。

そして今年、2007年本です。

 

サークル・定時退者がこのシリーズでやっていること。
それは
いま、10年もの年月が経った。名作・怪作・思い出の作品を、10年前の記憶と共にいま、語る
というもので、毎回大勢の寄稿者(歴戦のエロゲーマー/ノベルゲーマー)が文章を寄稿する、論集です。

いつも、ある日Mirinさんが「今年も○○年本やりたいのですけど、参加してくださる方いますか?」とtwitterで投げかけます。そうしたら、十数名以上もの歴戦のオタク(レビュアー)たちがMirinさんの元に集まって、それぞれ熱い文章を寄稿します。ここに集まるのは、少なくとも「当時」から確実に10年を経たオタクたち。それぞれが魂の、あるいは屈託の一作について語ります。皆、その作品に関しては一家言あります。
そこには愛があり、屈託があり、熱があり、涙、そして人生があります。数々の原稿をMirinさんは一手に編集し、読み応えのある同人誌を作ります。

 

わたし残響も、2005年本においては「ToHeart2 XRated」、
2006年本においては「その花びらにくちづけを」論(サークル・ふぐり屋&商業ブランド・ゆりんゆりん&聖ミカエル女子学園論)、「めいどさん★すぴりっつ」論、「蒼天のセレナリア」論を寄稿させて頂いた経緯があります。

 

10年、経っているのです。何回も書きますが。寄稿された文章には、どれもそれだけの重みがある。
まさに、酸いも甘いも経てきたオタクだからこそ書ける文章であり、本であります。

 

さて、Mirinさん自身も本シリーズにおいて、論を書かれます。また、巻頭で「セールスランキング」と称して10年前のエロゲセールスの時評を、年間ランキング形式で書かれもします。「ああ、あの時って実際はこうだったんだ」「意外!これ結構売れてるぞ(あるいは、これ売れてないぞ!)」の声が、今だからこそ出てくるものです。結構皆印象論で語ったりするから……。

 

Mirinさんの一声で、皆集まります。凄く自然に集まります。あの歴戦のオタクたちが。屈託を抱え、一家言ある、「ニワカ」とはまるで遠いエロゲーマー/ノベルゲーマーが。なにせ、10年エロゲ・ノベルゲーをプレイし続けてきた人たちです。
そういう方々を集めることが出来、皆が熱い原稿を書こう!と思わせる。まさにMirinさんの人徳であります。

余談ですがここでちょいと。わたし残響は、実は同人音楽サークルをやっております。春や秋の同人音楽即売会・M3において、サークル参加をするのが主な活動なのですが、Mirinさんによく手伝って頂くのですね。サークル売り子として。

その度に思うのですが、Mirinさんに関しては「このひとなら大丈夫だ」っていう自然な信頼がある。オタクとしての熱量・活動量もさることながら、この「大丈夫だ」感覚っていうのは、すごい頼もしい。一人の人間として。皆がMirinさんに協力し、寄稿するっていうのには、この「大丈夫だ」感覚があるからだ、って言うふうにわたしは思っています。

で、実際出来上がった本を読むと、この「大丈夫だ」感覚は間違っていなかった、というか。とても風通しのよい本になっているのですね。読んでいて、どれも熱の入った原稿ですが、なんかトータルデザインとして、紙面デザインも含め、読んでて疲れない。全員が真面目に寄稿し、愛でもってエロゲ/ノベルゲーを語っている。誰かに媚びることも、手抜きもせず、きちんと書かれた本である……という風に思わせる。いち寄稿者としても、そしていち読者としてもそう思ってしまうのです。

Mirinさんは寄稿者に強制をしません。ほんとにしません。寄稿者の自由に書かせてくれます。でも、じゃあ皆「ラクでダメな意味」で好き勝手に書くかっていうと、当然ながらそれはない。皆、Mirinさんが真面目に本を作る方だっていうのを知っているから、この真面目さと熱、このサークル「定時退者」に任せれば大丈夫だ、という確信がある。Mirinさんをこちらも信頼していて、それ以上にMirinさんがこちらの筆力とオタクとしての見識を信じている。だったら応えなくちゃなるまいよ!という表れですな。

わたしはかつて、『エロゲーマー諸子百家」という企画をこのブログ上でしました。エロゲーマーの方々を、自分の視点でみたところを語る、っていうひどい企画です。そのなかで、「歴戦のエロゲーマーの背中」みたいなテーマで、Mirinさんを語ったことがあります。短い文章ですが。

modernclothes24music.hatenablog.com

そのときから、この「大丈夫だ」感覚は変わっていません。むしろ、より深く「大丈夫だ」と信頼を置くようになったからこそ、自分もサイト作りや雑務を手伝わせていただくようになったのです。

本を読めば、その真面目なる「大丈夫だ」の感覚がわかります。手抜きはない。

 

さて……Mirinさんは……定時退者・Mirinさんは、何をしようとしているのか。オッサンオタクの思い出語りか。慰撫するような懐かしみか。
いや。
これまでの既刊のあとがきから、その思想を拾ってみましょう。

「現在美少女ゲームの業界は時代につれ市場を縮小しつつあります。時代に合わせたクオリティ向上によるコストの増大化、オタクコンテンツの多様化、違法ダウンロードの増加、その他の理由は数あれど近い将来にはビジネス的コンテンツとして消滅するだろうとも言われています。全てがまるっきり無くなるということはないかもしれませんが、何かしら別の方向へシフトしていくのではと僕に限らず多くの方が感じているのではないでしょうか。パッケージ販売の停止、アペンド化による長期的な開発、クラウドファンティングによる現物ありきの体制。その選択肢は未知数にしても今業界はこの先、運命の選択を余儀なくされているはずです。
 ですがそれに悲観的になる必要もないな、と本誌を製作していて思うようになりました。もしかすれば今のアニメ業界のように2Dに引けをとらない3D技術が浸透しているかもしれませんし、名前を自然に呼んでくれるゲームも増えているかもしれません。ノベルゲームではないもののメイドロボなんかが実現してた日には今のうちにお金を貯めておかないとですね。

 当たり前のことながら未来は誰にも予想がつきません。ですが本誌を製作しながら10年前と今を比較していると、『これから割きもまだ見ぬ泣ける作品や尖がった作品がたくさん待っていると思うと応援していかないとな』と、『これから10年先の業界にも期待していきたいな』と、自分の中の想いを再確認することが出来ました」ーー2004年本、あとがき

 

 

「「今更」と感じるか、「今だから」と思うか。それは人それぞれでございますが、今を追うだけではなく、節目くらいは過去を振り返ることも悪くないんじゃないでしょうか。そうすることで見えてくるものもあると思うんですよね。無いかな、いやきっとあるはず。この趣味に引きずりこんだ作品とか、心に決めたヒロインと出逢ったあの日から意外と10年過ぎていませんか?」ーー2005年本、あとがき

 

 


……これに付け加える言葉はありませんね。いや、「過去を振り返る温故知新の視点による、再発見の批評」めいた論をぶとうとかも思ったのですが、残響があれこれそういうことを言うよりも、ここに書かれている真摯な言葉のほうが、より真実というものです。

 Mirinさんが提唱した「10年を経て今語る」というこの○○年本のコンセプトは、寄稿者の皆さんがぐっと各々の心のなかで凝縮してきた「作品愛と、10年なるもの」が、星々のように瞬いてこの本の中で表現されています。そしてMirinさんは、その星々たる批評ーー「想い」の数々を、ぐっと受け止め、この本という形で表現します。

 わたしはつくづく思うのですが、「趣味をたのしむ」「趣味という文化を発信していく」ということをどのようにしていけばいいのか、ってことをよく考えます。
 もちろんただ楽しんでいればいいのですが、Mirinさんはそこからさらに踏み出して「場(同人誌)」を作りました。この10年を語る、という場です。そこには愛があり、屈託があり、喜びと涙と人生がある……それもまた「趣味」であり「文化」である、ということを、この「場=同人誌」は伝えてくれます。背中を、見せてくれるのです。
 「そんなことわざわざせんでもwww」という人もいるかもしれません。しかし「そんなことをわざわざしらからこそ、エロゲ/ノベルゲーという趣味文化の豊かさが、また掘り下げられて深くなった」のです。その牽引役をしたMirinさん=サークル・定時退者に、わたしは敬意を表します。

 

 この10年を、様々な作品と、様々なエロゲーマー/ノベルゲーマーの方々と一緒に、振り返り、新しい何か、綺麗な何かを見てみませんか?
 定時退社『2007年ノベルゲーム10周年批評本」は、それを可能にする懐の深い本です。

 2017年冬コミ、3日目! サークル「定時退者」さんへぜひ!詳しくは特設サイトで!


●寄稿者の方々の紹介ツイートやブログ記事

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 blog.livedoor.jp

 

 

『2007年ノベルゲーム10周年批評本』への寄稿について

 (たいきさんのブログ「立ち寄らば大樹の陰」での紹介記事)

 

 

(書店委託についてのMirinさんのツイート)