残響の足りない部屋

音楽旅行と模型人生と愚にもつかないジョーク

ART-SCHOOL「Just Kids.ep」

EPの3曲目「ミスター・ロンリー」というと、すぐにOSSAN&OBASANは昔から続く深夜ラジオ番組「ジェットストリーム」のテーマ曲「ミスター・ロンリー」を想起しますね。とりわけ古い時代のジェットストリームは、深夜、疲れきった心を慰撫するように、映画音楽やイージーリスニングといった穏やかな音楽を「飛行機内放送」というテイで流していました。懐かしい……(OSSAN

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病んだこころっていうのは何でしょうか。ともかくも疲れております。そのくせ、見かけほどゆったりしてはいなくて、いつもダメな意味で激動です。なので、慰撫を……心を休ませてくれるものを必要としています。

アートスクールの心臓・木下理樹は、2019年から体調不良により活動を休止していました。今回のEPはそこからの復活作です。

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2005年のナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナーの4th「with teeth」の時も思ったけど、こういう「病を経てからの確かな一作」というのはとても嬉しく思います。

木下理樹の病がどういうものであったかは、わかりません。インタビューと、音から、少し伺えはしますが、自分は詮索する気にはなれません。

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伺える、というのは、体調不良の最中、とてもこのひとは憔悴しきって、焦燥に駆られていたのだろうな、ということ。安らぎを求めていたのだろう、と思う。それが歌詞と音からわかる。サウンドコンセプトからわかる。

おそらく、通常の木下だったらイージーリスニング的な音楽など唾棄していたでしょうが……ひょっとしたら、この休養時、結構聞いていたとしても、とくに不思議ではないとも思える(推察)。

病気に苛まれ、周囲の社会から取り残されての焦燥感、というのは、僭越ながら私も覚えがあるから。アレは、動けないんだ。動けないくせに、やたらにダメな意味で退屈しないんだ。神経はいつも研ぎ澄まされて、それが卑屈と結びついて。……いや、木下がそうだった、と断定はしません。あくまで推測と、個人的な経験なだけです。

EPの音を聴いて思うのは、木下が「光を求めてやまない」ということ。まずもって、ギターの音に、光がある。朝露が零れ落ちるかのような繊細さ、遠くを見つめる憧憬、そして、音と歌詞に、ささやかでもいま日常の中に確かにある安らぎを、大切にしようという意志が、ある。

木下理樹は、このアルバムで鳴らされている音そのものを愛している。大事にしている、と私は思った。このアルバムの音像は、暴力的にささくれ立って泣きながら逆ギレ的にぶん殴る音、ではないのです。かつてのアートスクールだったら、「表現」「芸術」の名のもとにそれをやっていたかもしれない。ただ、今回はそうではない、と私には思える。木下理樹とバンドがちいさな光の音を放つことに、木下自身が癒されている。その結果、このEPを聴くリスナーは……いや、少なくとも聞いている私は、木下が救われたことのお裾分けをもらっている感じがした。

けして鼓舞しまくる内容ではない。光と音の波を自意識に載せて絢爛たる世界を展開しまくるような豪勢さもない。地味と言えば地味かもしれない。ただ、朝露が零れ落ちるかのような静けき落ち着いた心情がある。内省の暴力的な嵐はとりあえず一段落して終わって、再び音楽を紡いでいこう、日常を紡いでいこう、という意志がある。

「病後の一作」という面もあるかもしれない。別にそれで判官贔屓的に本作の評価をグン上げしようとは思ってないです。けれど……これはアートのリスナーとして大変ニワカな自分が申すのもなんですが、ART-SCHOOL木下理樹の作品って、いつもどこか「病中・病後」なところってなかったでしょうか。だからこの場合、「病後の一作」としての贔屓目って成り立たないかも、と。

むしろ、自分はコロナ禍の中にあって、こういう私小説的な、地味で、しかし穏やかな光を放っている一作が生み出された、ってことの方が嬉しいですね。そういうのは、音楽というものにおいて、本当に良いことなんだ。表現媒体としてのEP(4曲入り)というのがまたよろしく思います。
この狂いつつある現世で、作品を作り続ける……バンドが奏でる音に、自分自身で癒され、作品を丁寧に作る、っていうことは、簡単なことではないから。

木下理樹が丁寧に音楽を作ったことを、私は喜びたいと思います。

 

 

●参考記事

↓ 今回、アートの新譜を聞こうと思った記事です。ありがとうございました。この記事には愛がしっかとある。

sigh-xyz.hatenablog.com

 

↓ 私はまだまだ、ここまでアートへの愛を深められておりませんで。愛が凄い。

mywaymylove00.hatenablog.com

 

↓  過去に私が書いたアートスクール「Flora」の感想。アートの4thにおける「ポジティヴ」さと今回のEPの「ポジティヴ」は、少々異なっているように思えます。今回のEPの方が「日常性」を感じる。

ART-SCHOOL「Flora」全曲感想ついったー連投 - 残響の足りない部屋

 

↓ 今回の記事と魂が通底している

深夜に延々と癒し系音楽映像の垂れ流しを見て静かに涙を落つる心情を君は経験したことがあるか(フィラー映像入門) - 残響の足りない部屋