(すいません、この記事アップするの遅れて!)
●ネットレーベル「neksia records」
関西・神戸のインディーシーンで気を吐く「Alice kitela」と「土曜日と人鳥とコーヒー」。
(上)Alice Kitela
(下)土曜日と人鳥とコーヒー
その中で、Alice kitelaのギター/シンセのゆら氏と、土曜日と人鳥とコーヒーのベースの氏家草太氏。彼ら二人が主体となって、このたび、ネットレーベルを立ち上げることとなりました。
ゆら miiiiiiiuiiiiiiii (@dropofalice) | Twitter
で、挨拶代わりという感じで、ネットでep音源をフル公開っ。
「speciments ep」というものです。現在こちらからDLできます。
その感想は、先日twitterで連投したのですが、今一度、それを張ってみますねここに。
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一曲め Alice Kitela「0-30」
変拍子・キメ多数のバキバキポストロック。実に演奏がタイト。ギターのテクニカルなフレーズから、中盤にシャウトが絡む。フレージングの妙と、ビシビシくるバンドサウンドが聞き所か。勢い重視の曲でありんす
二曲め 土曜日と人鳥とコーヒー「Ewigkiit Tod」
おおっとインダストリアル的スクラッチ音とドローン音のノイズから入り、そこからぶっとくルーズ(この感覚は氏家氏の功績)なガレージロックサウンド。気だるいvoがそこにダーク&シャウトに絡む。Yuki氏のシャウト鬼気を増してるな
三曲め 土曜日と人鳥とコーヒー「rezar」
シグネチャーとも言える、幻惑的な揺れ物エフェクター使った鐘めいたギターフレーズから、これまたシグネチャーたる繊細で夢幻的なvo。夢見心地なサウンドを響かせながら、暴虐的なノイズのあわせ技。今までのどよぺんサウンドがさらに完成度高し
四曲め Alice Kitela「水 summer!」
実にその名の通りな「水」なピアノとSEから入ります。細かく刻むドラムとエフェクター&シンセワーク、そして穏やかでありながら、妙なるメロディーが鳴ります。一番「自然(ネイチャー)の感じ」を与えるトラックです
【総括感想】
前からどよぺんとAlice Kitelaの「なんか親和性、なんか共通性」は感じていたのですが、見ているところ&表現形式が違っているのは解った上で、「音のゆるやかなグラデーション」めいた所は共通項かな、と。でも引き出しを増やしつつ、これまでのシグネチャーをさらに高め、各トラックの完成度を高め、バンドとして、表現としてさらに一段階あがったように思えます(偉そうでごめん)。この路線、この世界観で突き進んでくれれば、きっと関西webレーベルの中でも、とりわけドリーミー夢幻タッチな独自の地歩を占めることでしょう(先走りすぎ?)
【総括感想】
コンピ量産機になるのは嫌だ、とゆら氏言うておりますが、まあ気持ちはわかります(笑)。ていうかわたしもなんかそういうふうになったらイヤンな感じ。でも、このレーベルには人入ってほしいですね。例えばアンビエント系や、バキバキポスロクの中にもドリーミーなのを入れるタイプとか
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ということで、もとからこの2バンドがステキだと思っているわたしとしては、遠き地から「がんばれー、がんばれー」とエールを送っている次第なのですが。
ふと、このテン年代において、ネットレーベルというものがどういうもの(どういう意義)であるかを考えてみたいと思います。
●現代音楽シーンにおける自主/ネットレーベルの意義について
前に、広島のネットレーベル「すきまレコーズ」について少し書いたことがあるのですが、
Let's listenすきまレコーズ!&affable noise音源聞きメモ - 残響の足りない部屋
「音源を持ち寄って、なんと無料でDL配布さすことによって、シーンの活性化を図ろう」
みたいな主旨……はこっちに感じ取ったものですが、「みんなでDIYで頑張っていこう!」という風通しのよさと、音楽的なセンスのよさがこっちに伝わってきました。
たぶん、地理的にも音楽的にも結構交流がある(と思う)ゆら氏、氏家氏のneksia recordsのお二人は、このレーベルをある程度は参考にしたのではないか、と思うのです。
というか。
言い方は悪いですが、neksia recordsを立ち上げる際において、お二人はある程度の戦略性を練っているようで。いや、もちろんそれは、イッパツ儲けてやろうぜビッグになろうぜゲヘヘ、というものからン光年も離れているものなんですが。
そうではなくて、Alice Kitelaや土曜日と人鳥とコーヒーが属しているジャンル……シューゲイザー、ポストロック、ノイズ、というジャンルが、この社会、世において、どう地歩を占めていくのか、ということを真摯に考えた末の、ネットレーベル設立、ということなのだと思います(ぜんぶ推測なので、さっきから「思う」という言葉が多発中)
レーベル設立の主旨をちょっと引用してみますね。
neksia reordsは関西在住のバンドマン二人によって運営されるネットレーベルです。アマチュアバンドマンである二人は「現代においてどのように音楽活動していけばいいのか?」度々話し合っていました。そんなある日、二人の目を引いたのがネットレーベルという在り方。元々「レコードレーベルを立ててみたい!でも…」と話し合っていた二人にとってネットレーベルという言葉はとても刺激的でした。
ここのところをちょっと自分(残響)なりに掘ってみますね。
その精神はDIY。
例えば、ナンバーガール解散後、向井秀徳は「マツリスタジオ」というレーベル/レコーディングスタジオを設立します。
「とにかく自分流儀の音楽を貫く」
という主旨ではじめられたこのレーベル/スタジオは、レコーディングから流通まで、全ての工程を自分でやります。DIYです。
現在のレコード会社の固着的状況は、あえて論ずるまでもないかもしれませんが、最近自分が寄稿させていただいているwebマガジンで、次のようにわかりやすく、かつ刺激的にまとめられております。
バンドは儲からない バンドマンなら”絶対に”知っておくべき音楽経済学
(「地下室TIMES」)
もう、
インディーで活動→レコード会社の青田刈り→ヒット
という、80~90年代のやり方では、通用しないのです。
話題を書籍のほうに持って行ってもいいのですが(というかこっちはわたくしが大いに頭を悩ませているところだ)、現在の書籍業界……とくにライトノベル業界はひどいのですが、とにかく「乱発、乱発、なんか一個あたればいいや」的な手法でやっていってます。
「マイナー文化を守る」みたいな主旨で動いている、良心的な出版社がバカを見る、みたいな、いびつな構造があります。
現在のレコード会社/メジャーレーベルも、同じようなところがありはしませんでしょうか?
80~90年代から、関西の「ナゴム」や、小山田圭吾の「トラットリア」のような……そして、現在の「マツリスタジオ」のような、「自分たちの流儀を貫きとおす」という気概。
それは、このメガ資本主義の中で、なかなか上手くやってくには、すごい気合がいります。
もっと時代を遡れば、アメリカ黒人音楽(ブルース)の守り手たる「チェス・レコード」、ジャズの殿堂たる「ブルーノート」も、元来は「俺たちの文化を守ろう!」という個人の気概によって成り立っている、DIYなレーベルでした。「金になる」とかそんなんじゃなく、「俺たちは俺たちの音楽が好きなんだ!」という思いによって。小山田があのように様々な音楽をトラットリアを通じて紹介したのも、アルフレッド・ライオンがレコーダー片手に各地のジャズクラブで実況録音しまくったのも、ひとえにその気概あってのことです。
そして、neksia recordsのお二人はこうも言います。
既存のネットレーベルはエレクトロニカだったりテクノだったりのEDMが主流でロック系やバンドものは少ないイメージだったので、だったら自分たちで主宰しよう!となったのがneksia reordsです。
そうですね、確かに古くはWARPに代表されるように、DIYなレコードレーベルは、どちらかというとテクノ/ニカのほうに多いです。それは「演るのが個人なら流通さすのも個人」という流儀が確立しているからか、それともアンダーグラウンドの流儀がロック以上に浸透しているからか。
日本でのポストロックのムーブメントが、残響レコード以来加速していっているとはいえ、まだまだそれは「全国あまねく知ってる」レベルではないです。そうなったら面白かろう、と思うのですが……しかし、お二人が言うように、ノイズ、ポストロック、シューゲイザーのバンドは、個人で細々と動いているフシがあります。それは事実だ。
ムーブメントを起こすこと自体が目的となったらアレなんですが、しかし、健全な音楽活動をしていくうえで、「ひとりだとやりにくい」ことは確かでしょう。
ギルドのようなもんですかね、このネットレーベルは。相互補助、互助の精神。
何度も言うようですが、「儲けてやろう」の精神じゃないと思うんです。……いや、儲けるにしても、それは「自分たちのフィールドを維持するための必要資金」というか。それで生活できればなおよし。
より重要なのは、ノイズ、ポストロック、シューゲイザーというものの「美」を、広く社会に訴えかけるだけのポータル(基地)的土台が必要、という。
自分たちで「場」をこしらえる必要があるのです。流通もそこに含まれますし、各展開(プロモートとか)も含まれます。
戦略性は、みっともないことではありません。戦略は、あくまで手段であり、セルアウトの方向にいかなければ、それは「クレバー」と呼ばれます。ひとの心に「はい、これだよ」と「美」を与えることは、まずとっかかりがわかりやすくないといけませんしね。アングラ系のロックは、えてしてそこがすげえ下手だ(言うまでもない)
それには、ネットというのはうってつけです。
個人的には、ここに動画(ヴィジュアル、ムービー)も合わさった表現になっていくと無敵……というか、このニコニコ動画全盛の時代、そっち方面でのアプローチも含めていかないとムズいというか。
あと、最後に比較として書いておきたいのが、カゲプロでおなじみ、じん(自然の敵P)が所属している「1st PLACE」について。
ここの強みは、「音とヴィジュアル的な世界観」をとても大事にしているところ。ビジュアルも、キャラも、全部含めて。
neksia recordsの当面の課題は、参加アーティストが入ってくること、というのもありましょうが、「neksia recordsといったらこうだよね」というイメージ作りなのでしょう。
それは、ep音源を聞けばわかるのですが(このドリーミーで甘美な夢のタッチよ!)しかしこれ一枚ではまだ足りない。レーベルの周知には、ちょっと残酷なことを言うようですが「数」が必要なのです。(えらそーなこと言うな自分……)
あえてこの時代において、DIYでもって、ディープな音楽シーンを活性化さしていこう、という気概。これは本当にすばらしいと思うのです。さらに戦略性をもって。
だからこそ、「最大限にいい意味で」うまく立ち回ってほしい。セルアウトの悪牙にも、身内ノリの悪牙にものらず。
……まあ、それも愚問ですかね。以前ライヴ会場でお会いしたとき(今年4月のFANJ)、お二人の目には、曇りがなかったから。
がんばってください!
以前当ブログが書いた、この2バンドについての記事