残響の足りない部屋

もっと多く!かつ細やかに!世界にジョークを見出すのだ

最近わたしの音の暮らしはこう 0824夏

音楽に関する文章の書き方を変えたいな……、と思っています。

これまで私はこの日記ブログでは、試聴音源(youtubeやbandcampなど)を貼って、その音源の「ここが良いよ!」という分析をする形で感想(賛辞)を行ってきました。それはそれで、音楽を分析的にしっかり聞く力が高まったので良いのですが。しかし、そういう分析ばっかりしていて、ちょっと飽きたところもあり。

今はそれよりも、私個人の日常のことを書き(つまり日記)、その中で日常で聞いている音楽を列記し、思うところあれば音楽について所感を書く、というスタイルの方をやってみたい。その方が日々のブログ更新が続きそうな気もする。日記を書いていきたいですね。本シリーズタイトル「最近わたしの音の暮らしはこう」も、そもそもそんな感じですし。

 

最近、稲葉曇(いなばくもり)氏というボカロPを知ったのです。だんだんとスルメ的に気に入ってきて、先日2ndアルバム「ウェザーステーション」の盤(CD)を買いました。


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とくに気に入っているのがこの2曲(代表曲)です。

同じボカロPの先達たる故・wowaka氏の影響を感じさせるサウンドですが(稲葉氏本人も公言しています)、なんだか稲葉曇氏の曲は、どの曲も「諦念」を感じさせるところがあります。その諦念は「ああ、まぎれもない稲葉曇の曲だ」とすぐわかるこの人独特のシグネチャーです。疾走曲でもリズミカルな曲でも、いつもどこか片隅でじりじりと体温が下がっていくかのような感じがあるのです。そこがたまらん。絶望や狂気ではないのですが、この冷感のある諦念がとてもたまらん。

ああ、この日記を書いていて気づきましたが、その諦念による体温下がり感、ポストパンクっぽさがありますね。それもジョイ・ディヴィジョンみたいな。楽し気な音(リコーダー的な笛やリズミカルなアレンジ)があっても、裏側に確実に虚無や諦念がある。そこがたまらん。

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話は変わってボカロP・もちうつね氏なのですが、新曲「風呂入るプロファイル」良いですね。新曲がどんどん勢いが増しています。しかしこの世界観というか病み・虚無・闇を内包したほんわかサウンドの勢いが増すって、良いのか悪いのかw


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キャッチ―の嵐、ほわほわの嵐。こちらもシグネチャサウンドです。

対談インタビューで「soundcloud的なミックス、音作り」と指摘されていたのを読んで「なーるほどそういう捉え方があるのか!」と納得しました。そう思えばsoundcloud界隈とニコニコ・ボカロ界隈の「感じ」ってなんか違う気がする。Soundcloudにupされてるトラックが基本「音が磨かれている」傾向にある、っていうのは納得してしまったし。

szri×もちうつね、ボカロP歴わずか約1年のルーキーたちが語るVOCALOIDの魅力 「人間のネガティブな一面や尖った個性を大きな武器に」|Real Sound|リアルサウンド テック

 

キーフレーズ「漏れはお風呂が好きだから」「風呂入るプロファイル」「すーさいどへるぷみー」なんというキャッチーさでしょう。でもこれを日常で口ずさんだらアウトですね。

 

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Vaporwave系MIXのこういうアニメループgif画像ってどこからキャプってきてるんでしょうね。こういう引用というかサンプリングを見るに、いつも感心しちゃうんです。少し前までは誰も見向きもしなかったジャンクな80~90年代アニメの1カットを、こうして探し出してきちゃう方のオタク生活っていうのに……。いや、これは皮肉ではなくて、「それこそがアニメマニアかくあるべし」な正道たる極北の姿だよな、と尊敬すらしています。映画監督クエンティン・タランティーノがジャンクなB級フィルムを夜な夜な漁っていた姿をも思わせるように…。私も音楽マニアとして、こうありたいとすら思います。

ところで、最近のVaporwave系はまだ良いにしても、Chill系、Lo-fi HipHopのmixの引用画像、AI美少女絵がかなり増えましたね。まぁそりゃそうか、な流れですが。

前にも語ったように、あんまり高解像度な絵だとちょっとLo-Fiのダル感、ノスタルジア感、グリッチノイズ、ウェザリングといったアトモスフィアが減退する感はあります。AI絵はちょっと……という以前に。

じゃあノスタルジックバリバリなAI絵だったらokなの?って聞かれたら、多分OKって言っちゃいそうな気がしますw でも…そういう絵って出力出来るのかな。プロンプトの設定次第だとは思いますが。やはり問題はLo-Fiの哲学、ノスタルジアの哲学なのか。

↓前に書いた参考記事(youtubeリンク外れてる…)

最近のLo-Fi HipHopのMIX動画の現代エロゲ風サムネ画像におもふ - 残響の足りない部屋

 

うーん、今回日記的なことがあんまり書けなかった(苦笑
まぁ次回以降で。

 

お気に入り音楽記事「最近わたしの音の暮らしはこう」バックナンバー

前の

最近わたしの音の暮らしはこう 令和5年の梅雨時期 - 残響の足りない部屋

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最近わたしの音の暮らしはこう 2023年春先(1) - 残響の足りない部屋

去年の今頃の

最近わたしの音の暮らしはこう 2022年夏 - 残響の足りない部屋

最近わたしの音の暮らしはこう 令和5年の梅雨時期

すごい!このお気に入り(fav)音源記録コーナー、書くのをサボっていたらあっという間に2ヶ月経ってしまった!

※残響さんはその間ず〜っと新作まんがを描いていました。

4月に書いた前回、(1)と続き物で書いたくせに、それから全然(2)が書けなかったでやんの。

最近わたしの音の暮らしはこう 2023年春先(1) - 残響の足りない部屋

 

その時に書いた次回予告は、

次回(2)ではトウキョウ・シャンディ・ランデヴとナートゥ・ナートゥとワタシダケユウレイ(ぼざろ)とヰ世界情緒の「鳥の詩」カバーとКИНОと신촌(新村)Bluesとtofubeats「朝が来るまで終わる事の無いダンスを」について書きます。

って具合でした。今もこれらの音源について書く気はあるのです。が、結局4月から今に至るまでの2ヶ月の間で、どんどんお気に入り音源が増えていってですね〜。

もうしょうがないので、思いつくままに、音楽のある日常を文章にしてみます。

…ってあれ? お気に入り音源がいっぱいあるッ!? それって…「Happy」なことじゃないですかッ!? あー、これはこれは。シャレオツイタリック体での強調はさておき、「音楽に飽きていない」という点でいえば、こりゃありがたい話ですね。

 

・「音楽に飽きたのかい?」というの懸念にまつわる過去の話

ジャンル時流に乗るのを切っちまうのと、これまで伸びまくったジャンル世界樹が今ますます爆発する34歳の話 - 残響の足りない部屋

中年音楽マニアとLo-Fi HipHop - 残響の足りない部屋

 

スピッツ「ひみつスタジオ」

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そんなわけでスピッツの新譜アルバムですが、もう最近はスピッツばかり聞いています。

もともと残響さんが一番好きなロックバンドはスピッツなのです。上海アリス幻樂団は? ZUN氏は「一番好きな作曲家」なので…。えっ、ZUN氏1位、草野マサムネ2位? 自分で書いていてなんですが、ちょっとこのランキング贅沢すぎない?

ともあれ、「自分が愛するバンドの新譜がすてき」という状況は、音楽ファンにとってかけがえのない「幸福」だと断言します。さらに、そのバンドが長年キャリアを重ねてきて、未だに創作意欲が衰えず、バンド内の結束固く、健全な風が吹いている…という状況にもなっていると、もう本当素晴らしい。ありがたい。

まぁそれは長年のスピッツファンとしての思いですし、ミュージシャンがキャリアを積むということがいかに難しいか、という話でもあります。

しかし……仮にそういうレジェンド論、キャリア論を全部うっちゃっても、「今回のアルバムも曲がめっちゃ良いんじゃぁ」と世の音楽ファンに叫んじゃいます。

無論のことスピッツのアルバムに駄作は一枚もないんですが(信者乙)、とりわけ2016年作・15thアルバム「醒めない」、2019年作・16thアルバム「見っけ」と続けて「各曲が良すぎるんじゃぁ!」という傑作アルバム状況が続いているのです。
しかも「醒めない」も「見っけ」も、どちらがより傑作か、ではなく、「どちらにも固有の幻想(ファンタジー)の世界がある」という「どちらも良い味」状態なのです。

 

※あ、14th「小さな生き物」ですが、これも最近聞き直して「地味に染みる」と再評価していますわたくし。

 

さて今作17thアルバム。まず冒頭で動画貼った「ときめきpart1」からしてすでに曲が良い。MVだって良い。このノスタルジア! 

この音楽性を安易に「枯れた」と表現したくない。それ言うんだったらスピッツは相当昔から枯れている音楽性です!

マサムネのメロディが良いのは当然ですが、バンドメンバーが曲を相当練っているのもよく分かります。テツヤ、田村、崎ちゃん、バンドメンバーがマサムネの曲を活かすべく、様々なアイディアを持ち込んで曲を練る。練って練って、スピッツというバンドは「幻想」を形にする。

先に、「スピッツは昔から枯れている」と言いましたが、それは幻想性が退屈になっていっている、という話ではもちろんありません。そもそものスピッツの世界観はノスタルジックで枯れて達観したところが結構ある、という「世界観の傾向」の話です。

そういう世界観を演っている以上、印象として「枯れている」は当然感じ取れるのですが、末期スピッツ病患者は「その枯れにどういう幻想を見出すのかに用がある」という欲望で動いています。どうしようもないな。

だからシングル「大好物」が、例えば過去の名曲「ロビンソン」に比べて枯れてない?と言われても、「でもロビンソンって枯れた世界観の曲でしょ?」と逆正論カウンターパンチをしたら、相手しばらく黙っちゃいますよw もちろん論点ズラシの反論ですけどこれ。でもスピッツが好きっていうのは、ぜったい彼らのノスタルジック世界観や、オールドロック趣味という「枯れ」さを是とするものだと私は思っています。だから、スピッツの曲が「瑞々しい」と評価されるのは喜ばしいことですが、その一方で彼らの「枯れ」 の中に「幻想」を見出すのも、間違いではないのです。

 

スピッツは! 世界のテッペンを獲りにいこうとするバンドではないだろ! ヒバリのこころッ!

 

そんな永遠のオルタナティヴ精神、ノスタルジアに美を、幻想を見出すバンドの最新作の曲が良い!(話が戻る)

バンドメンバー4人が代わる代わるヴォーカルをとる「オバケのロックバンド」、もうこういうのですら「尊い」と感じてしまいます。我が愛する人間椅子も妖怪みてぇな奴らのバンドですが、 スピッツだってオバケです。「音楽のある日常を愛するバンドマン」のスピッツ4人が尊いのはもちろんですが、そういう音楽日常の功夫クンフー)の果てに彼ら4人はロックオバケになってしまった、というのもまた素晴らしいではないですか。

「未来未来」に民謡コーラスを導入し、田村のベースがダンサブルに動くリズムセクションのグルーヴィーさ。それが飛び道具ではなく曲として練り上げているのですからたまらない。

そしてアルバムの終わりには「讃歌」。この荘厳さと誇り高き意志、あまねく小さな生命の肯定といったらどうですか。

それから、既発表のシングル曲をアルバムで「通して」聞くと、これが化けるのですね。オバケ! もちろん「大好物」も「紫の夜を越えて」も「美しい鰭」も事前に聴き込んでいましたが、アルバムで聞くとさらに違った側面が出てきて、聴き込んだ曲なのにさらに魅了されます。あたかもクラシック音楽で、よく知られた曲でも違う指揮者が演奏すると「この曲にこんな側面があったんだ」って新鮮な感じで聞こえるあれです。オバケ!

i-O(修理のうた)の「メンテナンス」という精神性に対する熱い個人的共感や、「跳べ」の勢いの良いバンドサウンド、とかまだまだ語りたいことはありますが、もうスピッツ新譜だけで2700字も使ってるじゃねぇか。

そんなわけでとりあえず切りますが、最後に。私残響はこのアルバムをカセットテープで予約して買いました。やはりカセットは良いですね。音楽体験として、親密さがあります。好きな音、好きな形のモノで音楽を聞く。その音楽アルバムがとても良い曲で、バンドも健全に活動を続けている。そしてロックバンド・スピッツはアルバムを引っさげてツアーに出る!全国あちこちすごい数の! シマーネ農業王国には来ないけど! まぁこれはしょうがないよ!自分だって半ば納得しちゃってるのが悲しいよ!

・過去のスピッツに関する記事

スピッツ田村のベースに耳を空けられてから - 残響の足りない部屋

●MAISONdes(feet.花譜、ツミキ)「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」

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驚いちゃいました。花譜のヴォーカリストとしての表現力はこんな方向もいけるんだ!っていうので。

もともと私は花譜を、この独特の「弱い」声質と「張り詰めた」表現でオルタナ精神と中2世界観をぶちかます少女歌手だと思っていました。カンザキイオリ氏の曲、神椿スタジオのプロデュースもあって、「そういう方向」の歌手なのだと。

ところが、このシティ・ポップというか半ばシティ・ファンク的な曲でここまでの自由自在、天衣無縫な表現力を聞かせてくれるとは。ラップパートでリズムを自由に解釈したフロウの心地よさといったら。それから「ワオ!」とか「いぇす!」とか声を入れていますが、そのジャストタイミンな声の入れ方でもう耳が心地よい。

・過去の花譜に関しての記事

音楽の旅の路上にて ーー最近聞いている音楽、カナリヤさんへのお返事その2 - 残響の足りない部屋

 

●令和の音楽のレベルの話

まーしかし、レベルが高いです、今の邦楽は。

邦ロックの勢いがー、シーンの勢いがー、とかいう話もまぁありますが。洋楽も含め、ロックは別に死んじゃいないでしょうが。

しかし「いちジャンルに収まったかな」という感じは受けます。伝統芸能とまでは言わないけど、少しずつそっちに近づいている節もある。

私個人の意見?
私としては別にそれで良いのでは?と思います。
私は、ロック=「電気ギターを中心とした生演奏バンド・アンサンブル・サウンド」とロックを定義していますが(ようは複数の人間が楽器持って集まって音を出す音楽)、別にそういう音楽ジャンルは死んでないと思います。

ロックが音楽シーンの覇権を取る。さもなくばロックの死だ、っていう言説もあるにはあるんでしょうが、冷静に見たらこれってちょっと妄想が過ぎね?って思います。

重要なのは「生演奏バンドアンサンブル」に可能性を見出す人たちがいて、歪んだギターの音色が心象風景を描き出す、ってことなのです。私にとっては。そういう意味ではロックは死んでいない。

 

この「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」にしても、YOASOBI「アイドル」にしても、現代HIPHOPからの影響は強く、ジャンルの越境&混合はこの令和、いや増しているばかりか、もはや当然というレベルです。
当然、ロック=生演奏アンサンブル、の人たちも、いろいろな音楽を越境し、混合させています。
その一方で「ジャンルに殉じる」バンドもいます。人間椅子とか。

HIPHOPだから良いとかロックだから良いとか、そういうレベルの話ではなく。
大事にすべきは自由さ…「好きにやる」。その勢い。
花譜のこのヴォーカルの勢いも、そういう令和の音楽混合状況を自然に前提としてラップしているわけですし、人間椅子も古いロックを愛してやまなくて、まだまだ可能性があると思っているからこそ素晴らしいわけで。

だから今の令和の音楽シーン、そりゃ全部が全部ではないですが、まず邦楽ポップスシーンに限っても、レベルは日に日に高くなっていってると思います。総じてのレベルだけ単純に比較しても、10年前、いや5,6年前と比較しても確かな違いがある。

その中で気に入らない音やメロディやアレンジとかありますけどね。でも私としちゃ基本的にレベルが高いので、not for meな楽曲に出くわしても「そりゃそうか」って構えていられます。

少なくとも退屈はしていない。これは、今も音楽リスナーでいる上で、とても喜ばしい状況です。

きさま、「推し」がいるからそういう安穏なこと言えてるんだろ? っていう批判もありそうだなぁ。ルサンチマ〜ン! 

だったら推しを探しなさい、見つけなさい。
スピッツはどうだい?(露骨な布教勧誘) 

無難なポップスバンドだと思ってる? ふふふ、ふっふっふ…このバンドはね、30年以上も、さまざまな「幻想」の世界を各曲で展開し続けてきたバンドなんですぜ…しかも幻想のバリエーションが多すぎてな…。ヒット曲以外にも名曲がヤバいくらい多くてな…とりあえず「魚」とか聞きません?(のっけからマニアックなB面曲を出すな、スピッツファンはクソ名曲だと周知でもッ)

最近わたしの音の暮らしはこう 2023年春先(1)

今年(2023年)に入ってからのお気に入り音源紹介コーナーです。このブログのメインコンテンツの片割れです。メイン!コンテンツ !ですってよ。照れちゃうぜ。

それじゃさっそくいきましょう。今回、Kawaii音源が多いかもです。

 

前回の

2022年のわたしの音の暮らしはこう M3秋、Lo-Fi、ノスタルジア - 残響の足りない部屋

前々回の

最近わたしの音の暮らしはこう 2022年10月、秋1 - 残響の足りない部屋

2022年ベスト

2022年に良く聞いていた音楽 - 残響の足りない部屋

 

ずっと真夜中でいいのに。「綺羅キラー(feat. Mori Calliope)」

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お気に入りな楽曲です。この曲で一気にずとまよに対する興味が湧いたといえるかも。ACAね氏の気だるい歌とMori Calliope氏の高速ラップが、お互いを引き立てあっています。m.o.v.e以来おれはこういうのに弱い。

ずとまよのトラック(楽曲アレンジ)は情報量が多いですね。この曲だけではないですが、AメロBメロみたいに構造を分けて書き出していくと、どこのプログレ組曲か?と思うような構成です。しかもこの曲、前半部ラストのメロディを、贅沢にも1回しか使っていませんし。現代R&BもHipHopもポップスもVaporWaveも全て雑食的に咀嚼してずとまよサウンドとして表現するこのACAね氏の才能は凄いですね。まさしく次世代の邦楽を背負って立つシンガーソングライターです。

それからやはりMori Calliope氏のラップが凄い。この曲においてはメインvoのACAね氏の歌よりCalliope氏のラップの方がお気に入りだったりします。ACAね氏を「喰ってる」とまでは申しませんが、なにせ聞いていて気持ちが良いフロウなのです。速射砲のように畳み掛けながらも、けして圧迫感を覚えさせないCalliope氏のラップ。これは本気でVの方々の楽曲を聞かねばならない、と思わされます。令和の今になっても、Vの方面に疎い私なのですが、もうそんなことは言っていられないなぁ、と。

HoneyWorks「可愛くてごめんfeat.ちゅーたん」

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令和の大塚愛「さくらんぼ」かっ!?と思いましたが、比較してよく聞いてみるとけっこう違ったでござる。「さくらんぼ」はAメロで結構スカコアっぽいアレンジでした。平成後期の名曲「さくらんぼ」のこのアレンジ、当時風といえばそうかもです。

しかし令和アンセムなこの曲「可愛くてごめん」、なにせこのメインフレーズ(イントロやサビのフレーズ)を思いつき、それを「可愛くてごめん」と歌詞の譜割りをした時点ですべての勝利が確定した類の楽曲です。

私はこのブログでそういうのを「コンセプトがしっかりしていればあとはそれで殴ればよかろうなのだ式」と呼んでいますが、まさにそんな感じです。ラストにこのフレーズを転調してダメ押す所なんか「あざとさの化身」ですよね。大正義とはこのことか。

ともかく「令和」って感じの曲です。キラキラなサウンドアレンジも、コンセプトがこういう曲ですからいたって正解です。そしてそれらはすべてメインフレーズ「Chu!可愛くてごめん」の強度あってのことです。最高のリフにしてメロディです。こんな分析ちっくな感想、この曲にちっとも似つかわしくないしニーズもないでしょうが。そんな人間なのさおれは。

パソコン音楽クラブ「See-Voice」

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令和といえば、しばしば「令和に足りない音」として評されるこのアルバムですが。

去年からこのブログで楽曲をちょこっと紹介してきましたが、私個人的には、パソコン音楽クラブのこの3rdアルバムを半年くらいかけてようやっと消化した感があります。

決して押し付けがましい音楽ではないのです。でも「生活の隣にそっと寄り添う音」と安易に表現するには、かなり夢幻性の強い音です。情景喚起力が強い。

この音はかーなーり現実離れをしている。令和という時代は「もうリアルじゃなきゃダメなんだよ」という諦念が通奏低音になってるような神経時代ですが。しかしこのアルバムでのパソコン音楽クラブは、そういう令和リアリティよりも、自分自身のインナーワールドトリップをしている。

決して押し付けがましい音楽でないのです。「こういう情景があります」とこちらにあっさり提示してきます。インナーワールドトリップにしっかり浸り切って、私自身の心がこのアルバムが提示する情景をちゃんと「受け取った」と思い切るまでに、何度も何度も聞きました。それが半年という期間でしたね。

そういえば、このアルバム、とくに「登場人物」が居なかったな…と、私のインナーワールドトリップを思い返してみて、改めて気づきました。ずっと「情景」ばかりを見ていたような気がする。人がいても、ぽつんぽつんと居るとか。あるいはむしろ、もう居ない人の残留思念のようなものを強く感じていたかも。うん、その方が強いですね。

アルバム特設サイトも素敵なので見ましょう。

see-voice.pasoconongaku.club

Aiobahn feat. KOTOKO「INTERNET YAMERO」

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いやぁ、やってますね!(何を?)
病んだ令和の育成ゲーム「NEEDY GIRL OVERDOSE」の楽曲です。前作「INTERNET OVERDOSE」があやうくこのブログの年間ベスト曲になりかけた昨年でしたが、今年MVが発表されたこの楽曲、「パワーアップ」と言うべきでしょう。そんな感じで我々のもとに襲来してまいりました。

ハードコア感とシンセウェイヴ感をさらに増量。イントロのトランシーで東方っぽいフレーズの威力も増量!そしてサビのメロディの哀愁疾走も良いです。随所に設置されたネタサウンドも強烈。滅茶苦茶な譜割りも健在。歌詞の病みも「大丈夫か?」と思う程です。まさしく全面的に「パワーアップ」です。

うれしいのは、前作にもあった哀愁美メロ疾走が今回も遺憾なく発揮されているところですね。そこのパワーが下がっていないのでとても安心。前作もあって今作もある。それぞれ2曲を味わい分け、「OVERDOSE」と「YAMERO」を反復することがやめられない!インターネットはYAMERUべきですが、音楽はやめない!オーバードーズ!(最後にもまた書きますが、この4、5月新譜ラッシュでして…)

もちうつね「おくすり飲んで寝よう」

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この曲が私が一番最近に聞いた曲なのですが、いやぁ令和は病みのレパートリーが多いなぁ(良いのか?)

もはやシューゲイザー的と言えなくもないようなアレンジというか音響。ふわっふわなkawaii音響に、愛嬌のあるメロディが乗ります。ボカロ曲ですが、物凄いウィスパーボイス調教がされています。多分シューゲイザー感を感じ取ってしまうのはこのあたりかな。作者「もちうつね」氏はこれが作曲2作目みたいなのですが、センスが凄い&末恐ろしい。

で、楽曲コンセプトは、おくすりというか、メンタルがやられてしまった人の人生来し方というか。基本的に「病み」のものですが、現在進行系で恨みを爆発させているのではなく、疲れきったからもう「おくすり飲んで寝よう」、というもの。むしろ「諦観」の趣きすらあります。そのコンセプトを踏まえてこの曲を聞くと、トゲトゲしい音を排しまくったミックスや、疲弊しきったかのようなウィスパーボイスや、夢みたいにふわっふわした音響(リバーブ)や。それら全てに確実に意味があることに気づきます。

もちろん、聞いてイヤな気持ちになる曲ではないです。イヤな気持ちだったらお気に入り音源になりませんもの。むしろ何回も聞いて非常にクセになる。ただ、楽曲のコンセプトがコンセプトなだけに、聞いて一抹の「ダイジョブかコレ」感もありますね。そこも含めてのkawaiiブラックユーモアだったりします。

King Gizzard and the Lizard Wizard 

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オーストラリアのサイケデリック・ロックバンド。一時期はツインドラムだったりしたこともあった多人数バンドで、さらに多作で知られます。なんだ去年は1年にアルバム4枚って。

何よりも「ライヴが魅力」なバンドで、基本的に「リフ一発でビヤーッといっちまう(©村上春樹)」系のバンドです。しかもリフ一発で延々と爆走、さらにメドレー形式で10分20分とノンストップで演りまくるものですから、リスナーは延々と「リフの快楽(暴力)」に付き合うことになります。あまりにも延々とリフを演りまくるものですから、途中からリズム隊疲れてないかダイジョブか、と心配になったりしますが、この人達いつもライヴしまくってるので大丈夫なのでしょう多分。

あと、改造ギターを用いて特殊なピーピー音を鳴らしたり、微分音を用いて非西欧音楽的なフレーズ(アラブ系に似ている)をかましてくるのも素敵です。アルバムはアルバムで、多作ですが金太郎飴にならず、それぞれのアルバムでリフを基本としてですが、いろんな曲調や音色を試しています。とにかく「ロックバンドの愉悦」の中で「リフの愉悦」にフォーカス当てがちな人だったら、とくに好きになるバンドだと思います。あと、こういうイキの良い元気なバンドが居てくれるという事実そのものが単純に嬉しいですね、ロック好きとしては。

 

Gondwana Records レーベル諸作

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時に宇宙感ある壮大で疾走感ある音像のジャズを演ったり、時に自然感あるサウンドスケープを展開したり、時にメロディアスでセンチメンタルな「良い曲」を演ったり。

音とメロディが磨かれているなぁ、丁寧で良い音源を次々作っているなぁ、ととても好印象なイギリスのインディ・ジャズ・レーベル「Gondwana Records」です。

このレーベルの作品は、派手にカマすっていう感じの曲調ではなく、むしろ心の中のイマジネーションを見つめる、という知的なタッチ、リリシズム(詩情)のある作品ばかりで、そこが私の趣味に合います。あ、いや、派手にカマすのも好きですけれどもね。

そのあたりの詩情とクールネス、そして情景をふっと空想してしまうようなサウンドスケープ、といったところが気に入っていますが、しかしジャズバンドとして「弱々しい、足腰が弱い」のではないのも良いです。あまり「黒さ」はないリズム感ですが、でもしっかり疾走する時は疾走しますし、何より聞いていて全然退屈しないです。また、シリアス一辺倒でもないので、聞き疲れもしません。なので、どのレーベルカタログ(作品)も期待出来る、次々聞いてしまう、という素敵さですね。

 

 

長くなったのでいったん切ります。次回(2)ではトウキョウ・シャンディ・ランデヴとナートゥ・ナートゥとワタシダケユウレイ(ぼざろ)とヰ世界情緒の「鳥の詩」カバーとКИНОと신촌(新村)Bluesとtofubeats「朝が来るまで終わる事の無いダンスを」について書きます。

 

それからこの4〜5月で、私のフェイバリットバンドの新譜が惑星直列ラッシュなんですよね。

・ヨルシカ 音楽画集「幻燈」

UNISON SQUARE GARDEN「Ninth Peel」

・音系・メディアミックス同人即売会「M3」2023-春 サークル諸作

スピッツ「ひみつスタジオ」

・パソコン音楽クラブ「FINE LINE」

お、多いッ、多いッ。嬉しい悲鳴とはこのことですが、オーバードーズであるのも否定は出来ない。どの音楽家・バンドも、口当たりポップなのに、真剣に掘ればどこまでも世界観が深く広がっていくハードパンチ・ボディブロー感ある作家性なんだから〜。

(2023年春先「2」につづく…)

最近わたしの音の暮らしはこう 2022年10月、秋1

日々のお気に入り(fav)音源紹介シリーズ。前回はこちら。↓ 

modernclothes24music.hatenablog.com

秋「1」と題しているのは、M3の前なので……。

Sewerslvt

スーア・スラットと読むそうです。オーストラリアで活動していたトラックメイカー。闇と病みを感じさせる世界観を、ノイズ盛りもりの高速ブレイクコアで表現します。高速疾走する中で、精神が冷め覚めと覚醒するようなエモーショナルな音を鳴らします。この音、ノイズには、必死なる意味がある、と感じさせてくれます。

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SewerslvtのバイオグラフィについてはVtuber・乙楽ゆう氏によるこちらの解説動画が非常に参考になります。Sewerslvtの名義や音源の社会的意味や、音楽界隈での文脈、彼女の歩んできた平坦ではない人生の道のりが、Sewerslvtの作品紹介と共に丁寧に解説されています。

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Электроника 302、SovietWave

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エレクトロニカ302。SovietWaveの中でもМаякに続いて気に入っているミュージシャンです。親しみを覚える可愛さのメロディですが、Lo-Fiな音やノイズや声など、どうしようもなくノスタルジアの香りがします。そんなノスタルジック・シンセポップです。

何回も言う事になっちゃってますが、SovietWaveはだいたいそんな感じのノスタルジックな音のムーヴメントです。下記のMIXを参考にしてみてください。正直、最近定番となりしサブベースboom!boom!系のEDMよりこっちの音の方がずっと好きなのですが、そんな私はやはり懐古主義の懐メロ野郎なのか。そうなのでしょうか。

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laamaa「summer 2001」

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動画のトラッカー画面からすぐわかるように、チップチューンです。穏やかな夏のそよ風、サマーブリーズを感じさせてくれます。サウンドメイクはどことなく現代的ですが、メロディも編曲も、そよ風(Breeze)感が大変良いです。

Art Farmer「The Summer Knows」

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アート・ファーマー(本作ではフリューゲルホーン)のリーダー作で、ピアノはシダー・ウォルトンリズムセクションウォルトンが良く一緒に演っていた面子です。日本のイーストウィンド・レーベルより出たものです。大学時代良く聞きました(変な若者だ!)。アート・ファーマーもその頃から大好きだったのですが、シダー・ウォルトン村上春樹が音楽エッセイ「意味がなければスウィングはない」で熱く紹介していて、その流れでも聞きました。

なんともメロディアスでリリカルです。ジャケット通りですね。メロディが良いです。しかしこれも懐古主義なのか。ノスタルジアなのか。否定は出来ない。大学/院時代からこの方の10年近くは、自分のノスタルジア傾向を鍛え上げる道程だったとでもいうのか。嗚呼。

When Summer is Over(チルウェイヴやシンセウェイヴのMIX)

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上記ジャズよりもっと現代的な音像ですが、世界観・魂が通底しています。ていうかほぼ同じやないか。そんなにこういう世界観が好きか。

ヨルシカ「老人と海」Inspired Movie by Hurray!

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だーかーらー!好きな世界観がほぼ同じやないか!寂しい晩夏の世界観がそんなに好きかッ。

しかし、この動画を担当している「Hurray!」(フレイ)という映像制作チームが私は好きなのです。絵も、編集(とくにテキストをサッと切れ味良く挿入するタイミング!)もとても好きです。ヨルシカ「だから僕は音楽を辞めた」「雨とカプチーノ」でこのチームは才能を発揮しまくっています。Hurray!のぽぷりか氏はヨルシカ「藍二乗」でも、実写ですがMVの監督・演出でその手腕を如何なく発揮していますね。

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national network「nocturnal depression」

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サウンドコラージュなMIX。壊れた音声や、ノイズ乗りまくってダルダルになった懐メロを繋ぎ合わせています。世界観は動画の写真のように「夜間の鬱」。夜にぼんやりした心地でTVの毒気の無い深夜番組やフィラー映像を見て、壊れそうになってる陰鬱なこころを、TVでなんとか繋ぎとめているかのような……。わかる、わかるぞその世界は。どこにも行けやしないんだけど、夜の空に夢想することでなんとか自分自身を繋ぎとめようとしているんだ。

レイ・ハラカミくるり ばらの花」Remix

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音もだけど、この動画の光に滲んだ情景の流れを見ていると、涙出てくるんだが。疲れていると余計に泣けてくるんだが。本当に自分はNostalgiaってものを……

Chuck Wayne「Morning Mist」

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前に、Lo-Fi HipHopの流れでハーブ・エリス(ギター)を再び聞くようになった、って話をしましたが、その流れでチャック・ウェイン(ギター)を聞くようになりました。穏やかな朝に似合う音楽です。トゲトゲしいことはなく、まったり。でも音楽は気持ちよく前を向いて演奏しています。ジャズギターの軽やかで豊かな音色があります。

↓ Lo-Fi HipHopで音楽観が変わった話(ハーブ・エリスについては後半部で)

中年音楽マニアとLo-Fi HipHop - 残響の足りない部屋

パトリック・ガロワのフルート演奏

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先日のキャンプから、クラシックづいています。その中でも穏やかな曲を良く聞いています。どうもここのところ、そんな音ばかり好んでいますね……。このブログ記事がその証拠。
さて、フルート奏者・パトリック・ガロワの演奏の4枚組CDを買いました。内容の半分くらいがフランス系作曲家の作品ですね。メロディも良く、フルートの演奏も確実でしっかりしていて、王道で、深みがあります。フルートという木管楽器の中域の音色は良いですね。すっと染みわたってきます。

マリア・シヴィッターロ「マンドリンの芸術」

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前にマンドリンという楽器に興味が出て、マリア・シヴィッターロの3枚組CDマンドリン全集を買いました。楽器特有のトレモロがなんともユーロ哀愁です。

中でもベートーヴェンが書いたマンドリンのための曲が、個人的にこの盤の中で白眉でしたね。マンドリンを通常のトレモロ奏法で明るく鳴らすだけでない、ベートーヴェンの真剣な思索が感じられるメロディの良い曲です。ベートーヴェンマンドリン曲をまるで知らなかったのですが、それでもこの曲を聞いて素直に「良い曲だ」と思いました。

そして同時に「digったぜッ!」という喜びもありましたねw レア・グルーヴじゃないんだからさぁ。でもレコードをdigる喜びってそういうものですよね。良い曲に出会うという悦びです。

岸田教団&THE明星ロケッツ「転生したら剣でした」

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中域に膨らみのある轟音ギターの歪みからガツンとイントロです。不退転の勢いでもって疾走、爆走!ゴリゴリに攻めています。ロックです。メジャーデビューして結構時間が経ちましたが、全然攻めていますね。曲は良いし、はやぴ~氏のギターソロも相変わらず素敵にムチャクチャです。極東のロックンロール、ポップとノイズの素敵な融合をこれからも頑張っていってほしいと思います。

 

ジョン・コルトレーン「My faborite things」ライヴ

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1965年のベルギーでのライヴ。一度コルトレーンの「マイ・フェイバリット・シングス」に惚れたが最後、彼らのこの曲のライヴ演奏漁りは終わらなくなるこのジャズ特有の病に何て名前をつけたら良いのでしょうか。どんなに音質が悪くても、演奏に鬼気迫っていればもう全部許してヘドバンして喜悦ですよ。しかしこのライヴでも無茶苦茶やっていますね。20分近いじゃないですか演奏が。特にエルヴィンジョーンズのシンバルワーク、バッシャンバシャンと。楽しかったんだろうなぁ、バンド演奏が。観客も楽しいでしょうが、演者が一番楽しいものかと思いますよコリャ。

 

そんなわけで、今回のfav音源でした~。
さて、来週は音系・メディアミックス同人即売会「M3」2022秋ですね。これからしっかり事前のサークルチェックをしたいと思います。
祝・M3開催50回!凄いものです。これからもよろしくお願いします。自分もまたサークル参加したいなぁ……。(今回のM3には、8TR戦線行進曲はオンラインイベントでも参加は致しません)

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というわけで、次回のこのお気に入り音源紹介シリーズは、たぶんM3秋の後に、「秋2」と称して音源感想を出来れば良いなぁ、と思っております。よろしくお願いします(読者の皆さんへ。そして未だ見ぬ音源へ)

 

※2022/12/7 秋を通り越して冬になってしまいましたが、書きました~

modernclothes24music.hatenablog.com

ART-SCHOOL「Just Kids.ep」

EPの3曲目「ミスター・ロンリー」というと、すぐにOSSAN&OBASANは昔から続く深夜ラジオ番組「ジェットストリーム」のテーマ曲「ミスター・ロンリー」を想起しますね。とりわけ古い時代のジェットストリームは、深夜、疲れきった心を慰撫するように、映画音楽やイージーリスニングといった穏やかな音楽を「飛行機内放送」というテイで流していました。懐かしい……(OSSAN

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病んだこころっていうのは何でしょうか。ともかくも疲れております。そのくせ、見かけほどゆったりしてはいなくて、いつもダメな意味で激動です。なので、慰撫を……心を休ませてくれるものを必要としています。

アートスクールの心臓・木下理樹は、2019年から体調不良により活動を休止していました。今回のEPはそこからの復活作です。

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2005年のナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナーの4th「with teeth」の時も思ったけど、こういう「病を経てからの確かな一作」というのはとても嬉しく思います。

木下理樹の病がどういうものであったかは、わかりません。インタビューと、音から、少し伺えはしますが、自分は詮索する気にはなれません。

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伺える、というのは、体調不良の最中、とてもこのひとは憔悴しきって、焦燥に駆られていたのだろうな、ということ。安らぎを求めていたのだろう、と思う。それが歌詞と音からわかる。サウンドコンセプトからわかる。

おそらく、通常の木下だったらイージーリスニング的な音楽など唾棄していたでしょうが……ひょっとしたら、この休養時、結構聞いていたとしても、とくに不思議ではないとも思える(推察)。

病気に苛まれ、周囲の社会から取り残されての焦燥感、というのは、僭越ながら私も覚えがあるから。アレは、動けないんだ。動けないくせに、やたらにダメな意味で退屈しないんだ。神経はいつも研ぎ澄まされて、それが卑屈と結びついて。……いや、木下がそうだった、と断定はしません。あくまで推測と、個人的な経験なだけです。

EPの音を聴いて思うのは、木下が「光を求めてやまない」ということ。まずもって、ギターの音に、光がある。朝露が零れ落ちるかのような繊細さ、遠くを見つめる憧憬、そして、音と歌詞に、ささやかでもいま日常の中に確かにある安らぎを、大切にしようという意志が、ある。

木下理樹は、このアルバムで鳴らされている音そのものを愛している。大事にしている、と私は思った。このアルバムの音像は、暴力的にささくれ立って泣きながら逆ギレ的にぶん殴る音、ではないのです。かつてのアートスクールだったら、「表現」「芸術」の名のもとにそれをやっていたかもしれない。ただ、今回はそうではない、と私には思える。木下理樹とバンドがちいさな光の音を放つことに、木下自身が癒されている。その結果、このEPを聴くリスナーは……いや、少なくとも聞いている私は、木下が救われたことのお裾分けをもらっている感じがした。

けして鼓舞しまくる内容ではない。光と音の波を自意識に載せて絢爛たる世界を展開しまくるような豪勢さもない。地味と言えば地味かもしれない。ただ、朝露が零れ落ちるかのような静けき落ち着いた心情がある。内省の暴力的な嵐はとりあえず一段落して終わって、再び音楽を紡いでいこう、日常を紡いでいこう、という意志がある。

「病後の一作」という面もあるかもしれない。別にそれで判官贔屓的に本作の評価をグン上げしようとは思ってないです。けれど……これはアートのリスナーとして大変ニワカな自分が申すのもなんですが、ART-SCHOOL木下理樹の作品って、いつもどこか「病中・病後」なところってなかったでしょうか。だからこの場合、「病後の一作」としての贔屓目って成り立たないかも、と。

むしろ、自分はコロナ禍の中にあって、こういう私小説的な、地味で、しかし穏やかな光を放っている一作が生み出された、ってことの方が嬉しいですね。そういうのは、音楽というものにおいて、本当に良いことなんだ。表現媒体としてのEP(4曲入り)というのがまたよろしく思います。
この狂いつつある現世で、作品を作り続ける……バンドが奏でる音に、自分自身で癒され、作品を丁寧に作る、っていうことは、簡単なことではないから。

木下理樹が丁寧に音楽を作ったことを、私は喜びたいと思います。

 

 

●参考記事

↓ 今回、アートの新譜を聞こうと思った記事です。ありがとうございました。この記事には愛がしっかとある。

sigh-xyz.hatenablog.com

 

↓ 私はまだまだ、ここまでアートへの愛を深められておりませんで。愛が凄い。

mywaymylove00.hatenablog.com

 

↓  過去に私が書いたアートスクール「Flora」の感想。アートの4thにおける「ポジティヴ」さと今回のEPの「ポジティヴ」は、少々異なっているように思えます。今回のEPの方が「日常性」を感じる。

ART-SCHOOL「Flora」全曲感想ついったー連投 - 残響の足りない部屋

 

↓ 今回の記事と魂が通底している

深夜に延々と癒し系音楽映像の垂れ流しを見て静かに涙を落つる心情を君は経験したことがあるか(フィラー映像入門) - 残響の足りない部屋

最近わたしの音の暮らしはこう 2022年3月~4月M3春

がーっ!(叫)
M3を終えたからちょっと休憩しよう、とくに日記ブログなんて休んでも……とかって気の抜けたコーラドリンコみたいなことを頭よぎったこの瞬間から音楽ブログは死んでいくのだっていうことが、まーだわかっていないのかこのブログ管理人(残響といいます)はっ!

前回のM3告知記事で、「これから文章を書いていきたいんですよ」なんてことを書いた次の記事からこれですよ!度し難い!

ということで、むりやりにでも文章を書くべく、3月~4月(M3含む)に購入した音源を挙げていくのコーナ~。

 

DJ Shadow「Entroducing...」

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ザラついた音のHipHopインストアルバム。当時アブストラクトとも言われたこのザラついた音ですが、でも今このアルバムを聴くと、このサンプリング特有の音の質感は、アメリカの「町の雑踏」の雰囲気を脳裏に想起させることを、とても意識的に行っていたんだな、と。

それが2022年令和4年の今、Lo-Fi HipHopの文脈も合わせて考えると、余計に「雑踏のザラついた感じ」を表現するってことは、目の付け所が凄い正しかったんだな、って思います。アゲアゲな感じがなく、かといってチルに浸りきるわけでもなく。抑制されたビートと音の質感が、曲ごとに「雑踏の一日」を様々な角度で描いているように聞こえます。

Young Marble Giants「Colossal Youth(40周年記念盤)」

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この作品、歴史的経緯を知っていないと「なんだこれ?」になりそうだよなぁ……と、令和4年の今は思うわけです。80年代も遠くなりましたね。

自作リズムボックス(当時はドラムマシンもろくにありませんでした)と、妙なフレーズを放つギターとベースと、ウィスパー系の女性ヴォーカル。シンプル&ミニマリズムの極みなこのサウンド……これは、当時の「ギャギャーン!(轟音)」なパンクロックムーブメントの中にあって、「えっ、そんなシンプルなのアリなんだ」っていうコロンブスの卵めいた立ち位置にあったのです。

空間を決して埋め尽くさない。あんまりにもスカスカなバンドサウンド……バンドサウンド? これをバンドサウンドと言ってしまっていいのか。ボカロPですらもっと音を詰め込むのは当たり前です。

引き算の美学。チープであるけども、それがゆえのかわいさ、奇天烈さ、逆説的なポップさ。けったいなことをしてるわりには実験性のイヤらしさっていうのもなくて。この三人自体の存在、音の存在そのものが逆説的なポップさ、というポスト・パンクの名盤です。

そしてミニマル・ポップということでいうと、現在もインディー界隈で様々なアプローチがされていますが、ここまでハードボイルドにミニマリズムをやらかしているものも、そうそうありません。原点にして頂点、みたいなところがある……? うーん……YMGはYMGにしか出来ない音を演ったし、他の連中はそれに凄いリスペクトをしたけれど、YMGのフォロワーには、結局ならなかった。それは多分、YMGの真似をしても猿真似になるだけだし、ってことをみんな分かってたし、YMGの方法論と精神性を自分なりに解釈して自分なりの音楽を作っていくことこそが、真のYMG愛好家の精神だ、って思ってたからなんでしょうね。

●Carlos Aguirre Quinteto「Va siendo tiempo」

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アルゼンチンの静謐系フォルクローレの巨匠率いるギター五重奏団の新作です。静謐系のジャズやクラシックからの影響も濃く。本作ではアギーレはギター・ヴォーカル・アコーディオンを演奏します。「繊細」。

アギーレのメロディラインの個性は素晴らしく、「追憶をそっと窓辺に置く」かのような哀感に満ちた美しい旋律です。落ち着いて聞きたい盤ですね。

●Sinesis Duo「Hojas y rutas nuevas」

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アルゼンチンのギタリスト・キケ・シネシと長男のアウグスト・シネシのギター・デュオ。レコード屋さんのおすすめで音源を試聴してみたのですが、なんともギターの豊潤な、ゆるやかな掛け合いがたまらず。音色が麗しいのです。即購入でしたね。こちらも「静謐系」のアルゼンチン音楽です。

 

●ザ・リーサルウェポンズ「アイキッドとサイボーグジョー」

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そして我らが日本が響かせるは、やかましい80’sサウンドですよ。待ってましたメジャー初アルバム!

全曲キラーチューンとばかりのアイキッド先生のメロディの冴え、コミカルな愛嬌、ジョーのヴォーカルの朗々とした魅力。コンセプトさえしっかりしていれば、あとはそれで思いっきり殴れば良いのである、の好例です。曲数をやたらに詰め込んでいるサービス精神も素晴らしいですね。15曲ってなんだ15曲って。ありがとうございます。

 

●Ariabl'eyeS「冥鳴フィアンサイユ Act:Ⅰ」

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同人ゴシック系、V系ロックです。美メロの雄です。

きましたね、長編シリーズです。気合入っていますね。買わない理屈があるものか、って感じでもちろん購入です。

 

●くろねこほたて「港町と黒猫のケト」

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同 「Pub.House MATATABI」

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同 「白壁の家々と演奏家リリー」

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前々からアルバムジャケットがやたら素敵で(とくに「白壁の~」)気になっていたケルト系サークルさんですが、今回試聴してみて、過去作を購入しました。

ゲーム音楽風のケルト音楽」というサウンドコンセプトです。ゲーム音楽の人懐っこいポップな要素・アレンジ・アンサンブルで聞きやすく、同時にケルトフレーズも充実、という音楽性。

そしてその音楽の数々をコンセプトアルバムとして配置し、アルバムで一枚で物語を描く、という作風です。

なんというか、凄く姿勢が良いです!一枚の盤でケルト音楽と物語の風景をしっかり奏でよう、って意識が伝わってきます。聞いているだけで物語や風景がふわーっと想像できるのは良い音楽です。

また、ゲーム音楽というだけあって、アンサンブルやミックスが結構バキっとしたクリアなサウンドプロダクションなのですが、それがなんともゲーム音楽的で、でもけして「やわ」じゃなく、むしろ物語や風景、世界観に対する姿勢の良さ・生真面目さが伝わってきて、「良いものを聞いたな」と思わせてくれます。

 

●hydden from MMLHACK「FC Sound Etude Collection」

今回M3ではやっぱりチップチューンを多く購入しました。このアルバムは「ファミコン音源で作成した練習曲(エチュード)集」ということです。

そんなわけで、けして音の厚みはないのですが、むしろ個人的にはまっすぐに良い曲、メロディが伝わってくる、って感じがしました。どの曲も2分だけでシンプルな曲、まさにエチュードです。でも曲調はバラエティがあって、そこもまたエチュードですね。シンプルに良い曲集です。

ショパンの昔から、こういうエチュードの愛好家っていますが、チップチューンもそういう愛好文化が出来てきたんだなぁ、と改めて思うのでした。

●novtos「Pièce montée ~Kawaii Chiptune Collection Vol.1~」

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こちらもチップチューンアルバム。アルバムタイトルにもあるように「KAWAII」メロディ、アレンジの曲が詰まっています。やっぱり自分はメロディが良いチップチューンが好きなんだな、と。まっすぐに、てらいもなく、カワイイ音で、メロディをぶつけてくれる、っていうチップチューンの醍醐味です。

 

●POPiN RECORDS(scythe)「ReWind」

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(公式特設ページ)

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素晴らしい!

scythe氏の5thアルバム、メロディと情景喚起に優れたチップチューン作家さんですが、今作もまた、情景をビシビシ電子音で脳裏に紡いでくれるメロディです! 

名曲「最後のバス停」、やっぱり何度聞いても良いですね。最初のところでバスドラが入ってくるキャッチーさ。この曲に「最後のバス停」とつけるエモーショナルさ(エモさ)! そしてこの曲だけではないぞ名曲は、っていうアルバムでございます。素晴らしいですね。またヘビーローテーションです。

 

そんなわけで、この2か月の音源感想でした~。